リバーシ!

文月

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十九章 「皆が望むハッピーエンド」

10.羨ましい、はそれぞれ。

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 で、
 真夜中の城。
「え~! いいなぁ」
 ヒジリの声は小さかったが、静まり返った城の中に思った以上に響き、慌ててヒジリは自分の口を自分の両手で抑えた。


 暫く療養していたナラフィスが加わった地球リバーシ組との作戦会議は‥でも、ナラフィスの「倒れて運ばれた‥あの時、夢をみた」という報告で、一気にそれどころじゃなくなったんだ。
「ホントに夢を見てたの? 夢なんて‥寝ないと見れないんだろ? 」
 ミチルが訝し気な表情でナラフィスを見ると、ヒジリが「こら! ナラフィス先生に失礼だろ?! 」とミチルを窘めた。
「ナラフィス先生は偉い先生なんだぞ? 先生がそういうんだから、そうだよ」
 って呆れ顔でミチルを見る。
 ‥いつもはそんなに信用してないよね‥。
 ってナラフィスは苦笑いだ。
「で、どうして夢だって分かったんですか? そもそも、どんな夢を見たんですか? 」
 キラキラした目でヒジリがナラフィスを見た。
「幼い頃の夢だったよ。サラージが僕に新しい論文を書かせようと、やたら図書館から本を勝手に持ってきて薦めて来る‥」
 ナラフィスが軽く頷いてからそう言うと、
「なんだそりゃ、過去に飛ばされたんじゃねえの? 」
 ってサラージが眉をひそめた。
「実際にあったことなの? 」
 ヒジリがサラージを振り返ると、
「あった」
 サラージは小さく頷き、「勝手に持ってきたの? 」ってヒジリの追求はさらっと無視して‥、そのままナラフィスを振り返り、
「ヒジリが以前、過去に飛ばされたってことは‥ナラフィスは知ってるよな? だけど、今回のことを夢だって思った根拠は何だ? 」
 さっきのミチルみたいに訝しそうな表情をした。

 だって、有り得ないことだ。
 リバーシは眠らない。
 だから、夢を見ることもない。
 それが常識。

「僕もそれは考えた。だけど、あれは過去に飛ばされたわけではない。
 一に、僕はその時見た内容を覚えていないようなんだ。
 サラージが本を持ってくるって内容は覚えてるんだけど‥傍で僕を看病していたマリアンが「うなされていた」って言ったんだ。
 僕が覚えている限り、うなされる様なものはなかった。つまり、あの後、僕の身体に精神が戻る‥寝ていたとしたら、起きる‥だね? つまりその間に「なにかうなされる様なことがあった」んだ。
 というかここにはもう一つ問題があって‥普段、裏の世界に行っている時の僕らは‥うなされたりしないらしいんだ」
 昨日と通常の状態の違いは二つ。
 一つ、昨日見たものの記憶が一部ないかもしれない‥という懸念。通常通り飛ばされたなら、そこで見たことをリバーシなら全部覚えている。だけど、マリアンは「うなされていた」と言っていた。(覚えていない記憶は、うなされる様なことだった? )
 もう一つは、これがホントに不思議なんだけど‥何時もは、抜け出した精神が怖い目に会おうが、驚こうが反応しないはずの精神の抜けている身体が「うなされた」つまり、反応したってことだ。
「え? 」
 ヒジリがナラフィスを見る。
「えって? 」
 ナラフィスが首を傾げる。
「身体と抜け出した精神はシンクロしてないってこと? 」
 ‥それ、初耳なんですけど‥って顔のヒジリ。ミチルは小さく頷くと、
「そうみたいだね。
 確かに、精神が抜けた後の身体に危害を加えられたことに、抜け出した精神が気づかなかった‥って報告例は多いらしいね」
 ってヒジリに説明した。
 ヒジリは目を見開くと、
「つまり‥その昔の状況をナラフィス先生の精神が見ていた時、ナラフィス先生の身体と精神は完全にシンクロしていたってこと? 。う~ん」
 確かに珍しいパターンらしいけど、でも、まだ夢を見てた‥寝てたとは確信できないような? って表情のヒジリ。
「でも、ヒジリみたいに精神と肉体を持って転移したんだったら、精神と肉体は24時間シンクロ‥違うか」
 ミチルは言いかけた言葉を、途中でやめた。
 自分の話の矛盾に気付いたんだ。
「身体と精神がシンクロした状態で過去に転移してたんだったら‥そこに身体も居なかったわけだから‥」
 だから、違う。
 その時のナラフィスは身体と精神がシンクロしてはいたが、身体ごと別な世界に転移したわけでは無いらしい。
「通常とまったく違う点‥実はこれが一番大きいんだ」
 ‥さっきアンタ二つって言わなかったけ? 通常と違う点。それじゃ三つじゃないか。‥しかも、最後のが一番大きいってどういうことだ‥。
「それがさ‥」
 ナラフィスがちょっと勿体ぶった後、
「なんと‥手があったかかったらしいんだ」
 にやり、と笑って言った。
 手? 何? 
 ポカンとしたのは、ヒジリとミチル。
「え! 」
 反対に、ラルシュ、サラージ「夜の国」組は目を丸くしている。
 そんな二人とドヤるナラフィスを見て、ヒジリとミチルは
「え? 手があったかいって? 何? 」
 訝し気にナラフィスに尋ねた。
「え? リバーシは皆‥身体から精神が抜けたら身体は冷たくなるんだ。知らなったっけ? 身体から精神が抜けるのは、身体を休ませるためだから、その間はエネルギー補充に集中してもらおう‥っていう意味なのかは知らないけど、最低限度の呼吸と心臓が動いてるだけで、体温もうんと低いんだ。‥あと、エネルギーが溜まり切っても、精神が肉体に戻らなかったら、今度は肉体が精神を探すためにさっき貯めたエネルギーを利用する。そして、そのエネルギーが切れたら、死ぬ。あと、抜け出した精神が死んだ場合も、身体は死ぬ」
 え! 何それ! 知らなかったんですけど! 何、身体冷たくなってるの?! よかった~寝てる(充電してる)とこ誰かに触られてたら「え? し‥死んでる! 」ってなってたってことか‥! 
 ‥なに、「この国のリバーシは当たり前に皆知ってるから、当たり前に知ってるって思ってたわ~」って顔‥。
 知らんがな! 教えといてよ!!
 過去の彼女‥12時には帰すを徹底してて、良かった‥。
 事件沙汰を免れたことに(こっそり)胸をなでおろすミチル。

「つまり、三つの観点から、ナラフィス先生は夢を見たであろうと結論付けられる‥と」
 ヒジリがナラフィスを見つめてそう言って‥
「良かったですね」
 って微笑んだ。
「色々ツッコミどころは満載ですけど‥リバーシのある意味究極の夢である「普通の人みたいに寝て、夢を見る」を実現できたことは、同じリバーシとして、羨ましい。「おめでとう」の一言ですよ」
 って目をキラキラさせるヒジリにナラフィスは肩をすくめて、「そうだろ~」って嬉しそうに‥照れくさそうに返す。
「け、どうせ見るならもっと面白いもん見ればよかったのに」
 は、サラージ。こっちは「べ、別に羨ましくなんかないんだから! 」って感じだ。素直になれないんです。
「そのときは温かっただけで‥普段は冷たくなってるんだよね。‥一緒に寝てる人は‥マリアンちゃんは大変だ」
 ミチルがぼそっと呟く。
「俺なら一緒に寝られないなあ~」
 俺たちは別に、独り身だし別に一緒に寝る人間なんていないし? 「そういう心配」はないけどね? 
 リア充爆発しろの心境が混じってない‥とは言えない。

「ふ、そこは‥普通の人間とマリアンちゃんの違いよ。僕らは何時も、一緒に目覚めて微笑みあって「夢じゃなくてよかった! 」って一緒に目覚められることを喜び合うんだ! 怖い夢見て「夢でよかった! 」はかなわなくても、「夢じゃなくてよかった! 」って喜び会える相手がいる。‥素晴らしいね、まったく! 」

「ぐう‥」
 サラージ、ヒジリ、ミチル撃沈。
「う‥羨ましい‥! 」
 膝をついて悔しがるリバーシ三人に‥「‥そうか、普通に眠れることってそんなに羨ましいことなんだな‥」って感心するラルシュ。「僕は、24時間考えたり働いたりできるリバーシの方が羨ましいけど‥」‥でも、それは、リバーシにとっては違うらしい。

 魔法使いは魔法が使えて羨ましい‥って普通の人やリバーシは言う。
 魔法使いは、魔力が多いリバーシが羨ましい。
 リバーシは「普通に眠れる」普通の人や魔法使いが羨ましい。
 魔法使いやリバーシはやっぱり「不自然な状態」だから‥寿命も短いし、暮らしていく上で制約も多い。ウイルスやら気候の変化に対応するのが苦手(なものが多い)。歳を取ったらすぐに体調を崩す‥そして、病気になってあっさり早死にする。差別や偏見もやっぱりある‥。「好きでこんなふうに産まれたわけじゃない」そう能力の高くない多くの魔法使いやリバーシがこう思ってるのも‥確か。だから、最終的にはやっぱり「普通の人が羨ましい」

 ‥羨ましいは、人それぞれなんだな。
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