Happy nation

文月

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五章 世界の異分子

8.村での生活と、結婚について考える僕。

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 アララキ。

 この村で産まれた人間の特徴。
 四文字の名前
 日本の名前っぽいけど、漢字とかはない。(多分無いと思う。確かめてないけど。)っていうか、ここの文字見たけど、英語っぽい感じで、漢字が急に混ざってくる要素は無いから、間違いは無いだろう。
 ‥英語‥アルファベットでもない。よくわかんない言語だけど、読むのは問題はない。これも、「(異世界転移ものの)お約束」で、アレコレいわない事にする。
(だけど、同じ国で何個も文字がある日本の方が珍しいよね。って、今は改めて思う。)
 名前だけで、ファミリーネームは無い。
 それはここに居る子供たちも一緒だ。
 ここで住む以上、みんなその法則だ。元々ファミリーネームっぽい名前があった子も、ここでは、名前だけで呼ばれている。元々の名前を憶えているような年の子で「ここで暮らしていくからここの名前がいい」って、元々の名前から、四文字のここの名前に変える子供もいるらしい。そういう子は、「親が自分を探しに来ることはない」って知ってるんだ。
 攫われたり、捨てられたり
 ここに来る子はそれぞれだけど、みんなそう事情は変わらない。
 共働きの親が留守の間一人で遊んでいて(もしくは家の手伝いをしていて)大人の目が無いところで攫われた子。元から孤児で、親すらよく分からない子。
 労働力‥奴隷にする為に奴隷商人や盗賊が攫って行っても、子供をこの村に探しに来たりギルドに捜査依頼を出す親なんか何人いるか‥。
 親も、自分たちの暮らしでいっぱいいっぱいなんだ。
 貧しくって、いなくなった子供にまで手がまわらないんだ‥。
 大きくなれば労働力として働く。自分の食い扶持を得るために働きに行く‥そんな子供。
 大きくなる前に死んじゃったり攫われたら‥「仕方がない‥」って言われちゃうだけの子供‥。
 だから、皆「昔の名前なんてどうでもいい」っていうんだ。
 そんな子には、僕みたいに村の大人が適当に名前を付けてくれるらしい。
 なんか切ない‥。
 ここの(この国の)ファミリーネームはどうやら、凄く小さな単位のものであるらしい。夫婦と未婚の子供は同じファミリーネームを使う。つまり、孤児である僕らだって結婚をすれば、ファミリーネームを持つことになるってこと。で、子供が産まれたらその子も同じファミリーネーム。だけどその子供が誰かと結婚して独立すれば、また別のファミリーネームを持つことになるのだという。(だから、同じ子供でも僕ら孤児とは違い、この村で生まれた子供にはファミリーネームがあるってことだね)
 結婚‥。
 自分の家族‥。
 前世も結婚してなかったから(自分の名前すら覚えていないんだけど、これだけは何故か確信がある)、結婚が自分のこととして考えられない。
 この先僕も、結婚をしたい相手に会うことがあるんだろうか。
 そうだ、僕は‥「あいつ」と「愛しても愛を返してくれない相手」を愛し続けることが出来るかって賭けをしてたんだ。僕が。「そこに愛する人が居てくれるならば、その人の愛がなくたって、僕はその人を愛していける」っていったらあいつが怒って「そんなこと無理だ」って。それで、「その苦しみを味わえ」って。
 もしかして、その「愛しても愛を返してくれない相手」と結婚するまでが賭けなのかな。‥だとしたら、キツイなあ。好きと結婚って違うでしょ?
 ‥結婚って好きのゴールかなあ? 
 好きになる自信は‥好きでいれる自信はある。だけど、結婚はそれとは別だ。
 寧ろ、結婚しないでいる方が「ずっと好き」でいれる気がする。
 結婚って、相手の人生を背負って、相手の人生を束縛するってことだよね?
 ‥愛の形、かあ。

 今は、結婚は僕の思う「愛の形」じゃないって思う。
 寧ろ、愛って「想い」に形を持たせる必要ってあるかな? って思う。
 だけど、‥それは「今は」って話だ。
 そのうち、「結婚したい」って思う人に会うのかもしれない。今はまだそんな人に会えてないだけで、‥僕の「いままでの経験」やら考えだけで決めつけるのはよくない。


「おおい、アララキ。起きろよ」
 目が覚めると、もうすっかり辺りが明るくなっていた。
 僕を覗き込む、呆れ顔のマッチョじいさん。
 ‥エヴァンさんっていうらしい。僕を誘拐犯から助けてくれたじいさんだ。
 なんと、元A級の冒険者だという。
 今は現役を引退して、誘拐犯を捕まえたり、誘拐犯から僕みたいな子供を助けたり、森から「出てきた」肉食獣を狩ったり、若手の育成なんかをしているらしい。
 じいさんがあの時森に来てたのも、偶然ではなく、普段からあの辺りをパトロールしているらしい。
 誘拐犯に出くわすことはそれ程多くはないらしく、多くは凶暴な肉食獣が森から出ることを警戒してのものだ。村に来る前に、水際で‥ってことだね。
 だけど、普段は、肉食の動物が森から出ることはそう無いらしく、時々、池に水を飲みに来る草食動物を狩る為に池の辺りに出て来るだけらしい。だから、一日に一回様子を見るって感じ‥ならしい。
「じゃあ、肉食の動物を冒険者が狩ることはそう無いことなの? 」
 って聞いたら、
「いいや、奴らにとって、草食動物も人間も同じ「食料」で区別なんかないから、より楽に狩れる餌場と村を認識しているところがあるから‥」
 ‥成程。って思った。
 森から出て来たときに、草食動物がいるならそれを狩るけど‥ちょっと探してもいなければ‥ってことだろう。
 村には冒険者たちだけがいるわけじゃないもんね。
 だけど、運が良ければ「楽な餌場」なだけで、‥いつもがいつも運がいいってことは勿論ない。あの村に入るには屈強な元冒険者の門番と戦わなければならないのだ。(まあ、それでも運がいい時も‥過去にはあったんだろうね。今ほど、元冒険者たちもいなかっただろうしね。その時、味をしめてって感じだったんだろうね。)
 森の側でそういった危険生物から人々を守る為に、あの村があるって感じなんだろう。
 だから、村には、引退した冒険者だけじゃなくって、「冒険者志望」の若者も多い。

 村は、ちょうど森を囲むような形をしている。
 だけど、危険なだけでなく、薬草など資源の宝庫である森は、どの村の所有物でもなく皆の共有資源ならしい。
 それって村にとって「うまみ」がなくないか?? って思ったけど、村人(元冒険者たち)曰く「出来る人間がやるべきことで、損得とかいう問題じゃない」らしい。
 そういうものなのかなぁ‥って思ってたら、「それに(森から出ようとした)肉食獣を狩った毛皮や肉が優先的に村の収入源となるのは、大きいんだ」って、こそっといたずらっ子みたいな顔して教えてくれた。
 もちろん、そんな「下衆な理由」が目的じゃなく、彼らは使命感みたいな感じで肉食獣の討伐をしているんだろう。‥本当に、気持ちのいい人たちなんだ。
 だけど、まあ毛皮や肉だけじゃなく、骨や牙といった防具や武器に「使える部分」が肉食獣には特に多いというのもホントで、彼らが一方的に損をしていない‥っていうのがせめてもの「すくい」だと思える。
 今回の様な誘拐犯にかかっている賞金やなんかも臨時の村の収入になるんだって。
 個人の収入ではなく、村の収入。
「最初はそう考えるのにとまどったよ」
 エヴァンじいさんがしみじみと言った。
 そうだよな、冒険者ってそうだよな。個人主義って感じする。
 だけど、紆余曲折を経て今の生活に落ち着いたんだって。
 きっと‥色々あったんだろう。
 そしてそれは僕が興味本位で聞くようなことではないんだろう。

 さて、村の仕事。
 素材集め。誘拐犯の捕縛。肉食獣の討伐。
 ギルドの仕事と変わらないんだけど、村の仕事は依頼を受けてするわけじゃない。だから、時々ギルドの仕事を横取りしちゃって揉めることもあるらしい。
 だけど、先輩のことだから仕方が無いか~ってなったり、‥ならなかったり。
 ‥ならなくって揉めたり‥。
 みんなが同じってのは、無いよね。

 村の元冒険者たちは、引退したってのが共通なだけで、男も女もいる。ランクも、エヴァンじいさんみたいにA級もいればB級もいるし、なんと、S級もいる!
 みんな強いし、普通にパワフルだし、引退する年でもない様に見えるんだけど、上級として現役でいられる年でもないのかもしれない。S級とか特にそういう感じなのかな。横綱が負けちゃダメ的な‥何か‥かな?
 まあ‥それも「色々ある」んだろう。
「今日はじいの家に泊めてやったけど、明日からは他の子供たちと同じところで暮らしてもらうことになる。慣れないこともあるだろうが、協力してやっていってほしい」
 僕は黙って頷いた。
 前世含めて初めての共同生活。はっきりいって不安しかない。だけど、贅沢は言っていられないし、これも「神の思し召し」って奴かもしれない。絶対に嫌、とか、無理ってこと以外は流されておこうと思う。
「分からないことは、なんでも他の子供に聞けばいい。皆いい奴だし、しっかりしてる」
「はい」
 そう頷いたものの、
 ‥しっかりしてるっていっても、所詮、子供でしょ?
 って(心は大人な)僕は思った。
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