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七章 元通り
7.フミカの疑問
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フミカの疑問‥というか、思い付きは、大抵はどうでもいいことが多い。
だけど、‥放っておいてはいけないって気がする。俺には気が付けない様なことだったり‥、何か大切なことだったりする。
‥今回の事はどうかは分からないが。
サカマキの解呪が先か、カツラギのお役御免が先か。
「どっちの使命が終わったか、じゃな。賢者としての使命を果たし終えたのか、高位魔法使いが必要じゃなくなったのか。
賢者が先より、高位魔法使いが先の方が意味がある‥。
高位魔法使いが要らなくなった = 高位魔法使いがいないでも何とかなる魔物しかいなくなったってことだ。
それならば‥非常に喜ばしい」
フミカの言葉に他の二人が頷いた。
「‥だとしても、そういうのが関係あるとしたら‥今のタイミングってのが気になるな。
高位魔法使いが必要なクラスの魔物‥は、俺が思うに、俺が地球に来る際には片付け終わっていたはずだ。それは、あの時自分で分かった。‥高位魔法使いとして、俺はそういうのがわかる。
今、ここに来ている魔物も含めて‥今いる魔物は言うならば「雑魚‥」クラスだけだ。
高位魔法使いが必要となるほどの「大物」は、今代ではもう発生しないだろう。
それって、高位魔法使いが必要じゃなくなったってタイミングとしてはこれ以上ないだろう。‥だのに、あれ以降も俺は依然として高位魔法使いだった」
サカマキが言う言葉に、カツラギが頷く。
確かに、サカマキは依然として高位魔法使いだった。それは賢者である自分にもわかる。
‥サカマキが、高位魔法使いでなくなったなら、きっと人々のサカマキに対する反応は変わるだろう。って思う。
高位魔法使いだと自分で自覚する以前、‥他人に認識される以前は、サカマキは人々には忌諱されていなかった。きっと、高位魔法使いでなくなれば、人々の認識にも多少なりとも違いが出るだろう。
‥多少ではないかもしれない。
それこそはっきり、変わるかもしれない。
人との接触を極端に控えていたサカマキの顔なんて、そう誰も知らないだろう。
人々は、サカマキが高位魔法使いだから嫌っているに過ぎない。
‥先入観ってやつだ。
御呼ばれした他人の台所でカサって音がして‥人々は「見ることなく」、「奴だ‥」(あの黒い虫だ)って思う。
探して殺さないと気がすまない‥って人もいようが‥人の家だし‥
怖いけど、聞かなかったふりしよう‥って思う。
だけど、実は家人が買ってたカマキリかなんかで、実物を見たら「なあんだ~」っていう感じ。
つまり、サカマキは先入観でもって「嫌いなもの」って思われてる。
でも‥、まあこの仮説を言うのは止めてやろう‥。自分とGのつく黒い虫を一緒にされたって知って、不快にならない者はいないだろう。ちょっと笑ってしまったカツラギに、サカマキが首を傾げる。
や ば い つまらないこと 考えてたの バレたか?
サカマキの、訝し気な表情に、一瞬心臓が跳ねた。
が、
「‥カツラギ。”今まで”、高位魔法使いが「生きて」解呪したってことは‥あったのか? 」
そうでもなかったらしく、ほっとした。
カツラギは、真面目な表情に戻しながら
「ない」
一つ深呼吸して言った。
あっちにいる際、過去の公式文書や名簿その他は総て目を通したが、そんな記録は残っていなかった。
カツラギの返事に、サカマキが頷く。
「賢者は? 」
カツラギは今度は首を振る。
「それは、分からない。あれは、外から見ても分からないものだからね」
高位魔法使いも外見からではわからない(ただ、存在自体が嫌われてる存在なだけだ)
「‥そうだな。わざわざ申請もしないわな。「あ、昨日私、賢者じゃなくなりました」とか‥報告しないわな」
だからもちろん、過去の記録にも残らない。
フミカも頷く。
賢者じゃなくなったとしても、特に問題が無ければ、その職に就き続けるだろう。(なぜって給料も待遇もいいから)
「賢者」というのは肩書で、実際の仕事は普通は神官だ。魔物関係で賢者が発言する言葉は、古代から「神託」と言われてきた。魔物の出現を予言する賢者は、確かに、神の言葉を聞く神官と崇められてもおかしくは無かっただろう。
「歴代、高位魔法使いは魔物との戦いで死ぬことが多かったから、もしかしたら‥相棒的な役割である‥自分の連れて来た高位魔法使いたちが死んだら、賢者も賢者じゃなくなっていたのかもな」
「‥そう考えるのが、自然だな」
フミカが、一度大きく頷いてから「もしかして‥」と別の可能性について、切り出した。
「サカマキが見落としていただけで、実はまだ「倒すべき魔物」がいて‥あの瞬間‥サカマキが高位魔法使いでなくなった時‥に誰か‥サカマキ以外の誰かがそれ‥魔物‥を倒した、とか? 」
思いついたことは片っ端から言ってみることにしている。それが違うなら「違う」でいいんだ。あくまでも、可能性を潰していく、ってやつだ。
サカマキが大きく首を振って
「ない。俺が見落とすことは、絶対にない。高位魔法使いにとって、「魔物がいる」って気配は、無視できるものではない。‥慣れることは到底ない程不快だからな。‥そうだな、耳元にずっと小さな羽虫が飛んでいて、不快な羽音を立てている。‥そういう‥地味だけど、到底我慢が出来ないような‥それだ」
断言した。
耳の周りを蚊だとか、コバエが飛び回る‥。あれって、凄くイライラするよね。
※ 因みに、大物の際は「刺すような頭痛」で知らされる。それを賢者に知らせると、魔物の規模や場所の特定は賢者がする。
「‥ふうん。でも、出現した時には熟睡してたりとかして見落としてて、それが生き残ってて、力をつけていった‥ってことは? 」
フミカが首を傾げて、「可能性のあること」を口にすると、サカマキが首を振る。
「俺は熟睡なんてしない」
それには、フミカも頷いた。
カツラギは驚いた顔で二人を見た。
‥熟睡しない?
そこは、文官と武官の違いだろう。まあ、文官でも医療部の人間は眠りが浅いのだが。
‥敵襲に備えて常に神経を張ってるってことか‥。
「成程ねぇ‥」
小さくカツラギが息を吐く。
「役割を終えた‥ってのは、解呪の条件じゃないってことか‥」
フミカが何度か小さく頷く。
「‥高位魔法使いの代替わり‥。
そういえば「この魔物は、我らが狩るべき魔物ではない」って、別の賢者が連れて来た高位魔法使いと、先輩魔法使いが協力して魔物を狩らなかった、っていう「申し送り」見たことがある。
あの時は、コミュ障な高位魔法使い同士相容れにくいんだろうなって思ってたけど‥。そうか‥あれって、代替わりだったのか。
‥文字通り、彼らの仕事じゃなかったんだ‥。
それに高位魔法使いが気付いたってことは、きっとペアの賢者だったら分かっただろうに‥。
高位魔法使いに高位魔法使いだと宣言するのが賢者なら、きっと同様に「終わった」って知らせる必要もある。‥高位魔法使いに知らせて‥人々に、知らせる‥宣言する必要がある。‥つまり、賢者が自分の職を失うことが嫌だから、言わなかった‥ってことか? 」
本来はもう、「今世の」高位魔法使いと賢者じゃない。彼らに、狩るべき魔物はもういない‥だのに、だ。
独り言のように呟く。
「賢者が宣言? 」
フミカがカツラギを見る。カツラギがフミカにもう一度頷き返す。
「‥本当の代替わりの為には、賢者が宣言する必要がある‥」
サカマキが顎に親指を当て、小さく頷いた。
‥高位魔法使いには代替わりがある。
無いんだとしたら、高位魔法使いが死ぬまでずっと魔物を討伐していればいいのだろうが、そうではなく、‥過去には引退した高位魔法使いがいるって聞いたことがある。‥もっとも、度重なる無理な討伐で身体をだいぶ悪くしていたから、引退せざるを得なかったといっても過言ではなかった。
だから、身体を壊したから、新しい‥次の高位魔法使いが現れざるを得なかったんだって思っていた。
だけど‥そうか、代替わりがあって、次代の高位魔法使いは前代がいようがいまいが‥現れるんだ。
「高位魔法使いの代替わりは納得した。だけど‥賢者が宣言しなければ、本当の意味で高位魔法使いは高位魔法使いでなくならない、ってカツラギは言ったか? 」
サカマキが、カツラギに確認を取る様に尋ねる。
「確かに、カツラギは言ったな」
フミカも、頷く。
そして、二人でカツラギを見る。
「カツラギは、今回、宣言したのか? 賢者として、高位魔法使い引退宣言を」
「言わない。ってか、サカマキの役目が終わったのは‥あの例の‥私たちが死んだ戦いだったと思う。だから、言おうにも言えなかった」
きっぱりとした口調でカツラギが言う。
賢者である自分はあの戦いで死んでいた。だから、宣言しようがなかった。
‥ってか、宣言するって考えもなかったが。
「あ‥」
サカマキが口を押えて、ちょっと青くなる。
‥そういえば、あのタイミングだった。自分もバタバタしていたから、そういう話どころじゃなかった。ただ、「倒すべき大物は倒したから、ここを離れても問題は無いだろう」位しか思わなかった‥。そうだ、今までの俺だったら、当たり前にカツラギに報告しただろう‥。
まして、カツラギは「大物がいなくなったら、引退して村に帰って皆で暮らそう」って以前から言ってて‥ずっと楽しみにしていた。だから尚更‥。
でも
‥それどころじゃなくなって‥
言わなかった。‥言えなかった。
「そもそも、誰に宣言するんだ? 」
青くなるサカマキに構わず(気付かず? )、フミカがカツラギに尋ねる。
カツラギが大きく頷き
「人民と‥おそらく‥」
ここで、少し言葉を止め、小さく息を吸う。
「恐らく」
フミカも緊張した面持ちでカツラギを見る。
カツラギがもう一度フミカに頷き
「神」
こころなし厳かな声でその単語を口にする。
「神? 」
フミカがカツラギに確認を求めるように聞き
「‥ああ‥、そう」
カツラギが厳かな口調のまま頷く。
神。
俺も神なんだけど‥
賢者に‥宣言される相手は、神は‥自分じゃない。
世界の真理‥っていう、プログラムだ。
プログラムを、終了させる必要があったんだ。
俺にかかった呪いっていうプログラムを解除する必要があったんだ。
そして、それを国民に宣言して初めて、呪いは解ける‥。
だって今でも国民にとっては俺は「忌むべき存在の高位魔法使い」で、「見たくもない存在」だから、だ。本当は、見てももう不快感も感じないかもしれないのに、見たくないから見ないんだ。
「今の状態は、‥多分だけど‥神がサカマキにもう高位魔法使いでなくていい、と認めた状況なのだろうな。私は、‥元賢者の最後の仕事として、神殿にそれを報告し、人民に宣言する義務がある。それが、賢者としての最後の仕事になるだろうと‥思う」
大分遅くなったけどな。
カツラギは、苦笑して言った。
きっと、引退宣言をする初めての賢者になる。
フミカはふふ、っと冷やかすような笑顔をササマキに向ける。
「サカマキは‥結婚のために引退、かな。でも、法改正で高位魔法使いのままでも結婚できることになったんだよな」
‥アララキの努力ってか執念で実現された法改正だ。
だけど‥
「サカマキとアララキは結婚する前に子供を産んだんだよな~。地球でいうところの、出来ちゃった結婚ってやつだな。‥それとも、結婚って形も取らず、事実婚にする? 」
サカマキを見て、ニヤリ、と笑う。
「な‥! 」
サカマキが瞬間、ぼんっと赤くなる。
真っ赤な顔で俯いて、何か言っている。
多分、「仕方なかったんだ‥そういうのじゃない‥」とか言ってるんだろう。
‥でも、先日自分はアララキへの想いに気付いてしまったわけで‥。
そんなことを考えていたらますます赤くなる。
‥結婚。
「結婚‥」
カツラギはぽかんとした顔になって呟いた。
‥え、だって、あの二人が? 男同士‥ってのも、無いことは無いけど‥っていうか、子供が産まれたってことは、‥サカマキは女? え? どうなの?? そもそも、高位魔法使いって生殖できない呪いがかかってるんじゃなかったっけ??
‥改めて考えると‥わからない事ばかりだぞ??
男性陣二人が一様に微妙な顔をしている中、フミカだけはゆったりとした表情で大きく頷くと、満足そうに微笑んだ。
だけど、‥放っておいてはいけないって気がする。俺には気が付けない様なことだったり‥、何か大切なことだったりする。
‥今回の事はどうかは分からないが。
サカマキの解呪が先か、カツラギのお役御免が先か。
「どっちの使命が終わったか、じゃな。賢者としての使命を果たし終えたのか、高位魔法使いが必要じゃなくなったのか。
賢者が先より、高位魔法使いが先の方が意味がある‥。
高位魔法使いが要らなくなった = 高位魔法使いがいないでも何とかなる魔物しかいなくなったってことだ。
それならば‥非常に喜ばしい」
フミカの言葉に他の二人が頷いた。
「‥だとしても、そういうのが関係あるとしたら‥今のタイミングってのが気になるな。
高位魔法使いが必要なクラスの魔物‥は、俺が思うに、俺が地球に来る際には片付け終わっていたはずだ。それは、あの時自分で分かった。‥高位魔法使いとして、俺はそういうのがわかる。
今、ここに来ている魔物も含めて‥今いる魔物は言うならば「雑魚‥」クラスだけだ。
高位魔法使いが必要となるほどの「大物」は、今代ではもう発生しないだろう。
それって、高位魔法使いが必要じゃなくなったってタイミングとしてはこれ以上ないだろう。‥だのに、あれ以降も俺は依然として高位魔法使いだった」
サカマキが言う言葉に、カツラギが頷く。
確かに、サカマキは依然として高位魔法使いだった。それは賢者である自分にもわかる。
‥サカマキが、高位魔法使いでなくなったなら、きっと人々のサカマキに対する反応は変わるだろう。って思う。
高位魔法使いだと自分で自覚する以前、‥他人に認識される以前は、サカマキは人々には忌諱されていなかった。きっと、高位魔法使いでなくなれば、人々の認識にも多少なりとも違いが出るだろう。
‥多少ではないかもしれない。
それこそはっきり、変わるかもしれない。
人との接触を極端に控えていたサカマキの顔なんて、そう誰も知らないだろう。
人々は、サカマキが高位魔法使いだから嫌っているに過ぎない。
‥先入観ってやつだ。
御呼ばれした他人の台所でカサって音がして‥人々は「見ることなく」、「奴だ‥」(あの黒い虫だ)って思う。
探して殺さないと気がすまない‥って人もいようが‥人の家だし‥
怖いけど、聞かなかったふりしよう‥って思う。
だけど、実は家人が買ってたカマキリかなんかで、実物を見たら「なあんだ~」っていう感じ。
つまり、サカマキは先入観でもって「嫌いなもの」って思われてる。
でも‥、まあこの仮説を言うのは止めてやろう‥。自分とGのつく黒い虫を一緒にされたって知って、不快にならない者はいないだろう。ちょっと笑ってしまったカツラギに、サカマキが首を傾げる。
や ば い つまらないこと 考えてたの バレたか?
サカマキの、訝し気な表情に、一瞬心臓が跳ねた。
が、
「‥カツラギ。”今まで”、高位魔法使いが「生きて」解呪したってことは‥あったのか? 」
そうでもなかったらしく、ほっとした。
カツラギは、真面目な表情に戻しながら
「ない」
一つ深呼吸して言った。
あっちにいる際、過去の公式文書や名簿その他は総て目を通したが、そんな記録は残っていなかった。
カツラギの返事に、サカマキが頷く。
「賢者は? 」
カツラギは今度は首を振る。
「それは、分からない。あれは、外から見ても分からないものだからね」
高位魔法使いも外見からではわからない(ただ、存在自体が嫌われてる存在なだけだ)
「‥そうだな。わざわざ申請もしないわな。「あ、昨日私、賢者じゃなくなりました」とか‥報告しないわな」
だからもちろん、過去の記録にも残らない。
フミカも頷く。
賢者じゃなくなったとしても、特に問題が無ければ、その職に就き続けるだろう。(なぜって給料も待遇もいいから)
「賢者」というのは肩書で、実際の仕事は普通は神官だ。魔物関係で賢者が発言する言葉は、古代から「神託」と言われてきた。魔物の出現を予言する賢者は、確かに、神の言葉を聞く神官と崇められてもおかしくは無かっただろう。
「歴代、高位魔法使いは魔物との戦いで死ぬことが多かったから、もしかしたら‥相棒的な役割である‥自分の連れて来た高位魔法使いたちが死んだら、賢者も賢者じゃなくなっていたのかもな」
「‥そう考えるのが、自然だな」
フミカが、一度大きく頷いてから「もしかして‥」と別の可能性について、切り出した。
「サカマキが見落としていただけで、実はまだ「倒すべき魔物」がいて‥あの瞬間‥サカマキが高位魔法使いでなくなった時‥に誰か‥サカマキ以外の誰かがそれ‥魔物‥を倒した、とか? 」
思いついたことは片っ端から言ってみることにしている。それが違うなら「違う」でいいんだ。あくまでも、可能性を潰していく、ってやつだ。
サカマキが大きく首を振って
「ない。俺が見落とすことは、絶対にない。高位魔法使いにとって、「魔物がいる」って気配は、無視できるものではない。‥慣れることは到底ない程不快だからな。‥そうだな、耳元にずっと小さな羽虫が飛んでいて、不快な羽音を立てている。‥そういう‥地味だけど、到底我慢が出来ないような‥それだ」
断言した。
耳の周りを蚊だとか、コバエが飛び回る‥。あれって、凄くイライラするよね。
※ 因みに、大物の際は「刺すような頭痛」で知らされる。それを賢者に知らせると、魔物の規模や場所の特定は賢者がする。
「‥ふうん。でも、出現した時には熟睡してたりとかして見落としてて、それが生き残ってて、力をつけていった‥ってことは? 」
フミカが首を傾げて、「可能性のあること」を口にすると、サカマキが首を振る。
「俺は熟睡なんてしない」
それには、フミカも頷いた。
カツラギは驚いた顔で二人を見た。
‥熟睡しない?
そこは、文官と武官の違いだろう。まあ、文官でも医療部の人間は眠りが浅いのだが。
‥敵襲に備えて常に神経を張ってるってことか‥。
「成程ねぇ‥」
小さくカツラギが息を吐く。
「役割を終えた‥ってのは、解呪の条件じゃないってことか‥」
フミカが何度か小さく頷く。
「‥高位魔法使いの代替わり‥。
そういえば「この魔物は、我らが狩るべき魔物ではない」って、別の賢者が連れて来た高位魔法使いと、先輩魔法使いが協力して魔物を狩らなかった、っていう「申し送り」見たことがある。
あの時は、コミュ障な高位魔法使い同士相容れにくいんだろうなって思ってたけど‥。そうか‥あれって、代替わりだったのか。
‥文字通り、彼らの仕事じゃなかったんだ‥。
それに高位魔法使いが気付いたってことは、きっとペアの賢者だったら分かっただろうに‥。
高位魔法使いに高位魔法使いだと宣言するのが賢者なら、きっと同様に「終わった」って知らせる必要もある。‥高位魔法使いに知らせて‥人々に、知らせる‥宣言する必要がある。‥つまり、賢者が自分の職を失うことが嫌だから、言わなかった‥ってことか? 」
本来はもう、「今世の」高位魔法使いと賢者じゃない。彼らに、狩るべき魔物はもういない‥だのに、だ。
独り言のように呟く。
「賢者が宣言? 」
フミカがカツラギを見る。カツラギがフミカにもう一度頷き返す。
「‥本当の代替わりの為には、賢者が宣言する必要がある‥」
サカマキが顎に親指を当て、小さく頷いた。
‥高位魔法使いには代替わりがある。
無いんだとしたら、高位魔法使いが死ぬまでずっと魔物を討伐していればいいのだろうが、そうではなく、‥過去には引退した高位魔法使いがいるって聞いたことがある。‥もっとも、度重なる無理な討伐で身体をだいぶ悪くしていたから、引退せざるを得なかったといっても過言ではなかった。
だから、身体を壊したから、新しい‥次の高位魔法使いが現れざるを得なかったんだって思っていた。
だけど‥そうか、代替わりがあって、次代の高位魔法使いは前代がいようがいまいが‥現れるんだ。
「高位魔法使いの代替わりは納得した。だけど‥賢者が宣言しなければ、本当の意味で高位魔法使いは高位魔法使いでなくならない、ってカツラギは言ったか? 」
サカマキが、カツラギに確認を取る様に尋ねる。
「確かに、カツラギは言ったな」
フミカも、頷く。
そして、二人でカツラギを見る。
「カツラギは、今回、宣言したのか? 賢者として、高位魔法使い引退宣言を」
「言わない。ってか、サカマキの役目が終わったのは‥あの例の‥私たちが死んだ戦いだったと思う。だから、言おうにも言えなかった」
きっぱりとした口調でカツラギが言う。
賢者である自分はあの戦いで死んでいた。だから、宣言しようがなかった。
‥ってか、宣言するって考えもなかったが。
「あ‥」
サカマキが口を押えて、ちょっと青くなる。
‥そういえば、あのタイミングだった。自分もバタバタしていたから、そういう話どころじゃなかった。ただ、「倒すべき大物は倒したから、ここを離れても問題は無いだろう」位しか思わなかった‥。そうだ、今までの俺だったら、当たり前にカツラギに報告しただろう‥。
まして、カツラギは「大物がいなくなったら、引退して村に帰って皆で暮らそう」って以前から言ってて‥ずっと楽しみにしていた。だから尚更‥。
でも
‥それどころじゃなくなって‥
言わなかった。‥言えなかった。
「そもそも、誰に宣言するんだ? 」
青くなるサカマキに構わず(気付かず? )、フミカがカツラギに尋ねる。
カツラギが大きく頷き
「人民と‥おそらく‥」
ここで、少し言葉を止め、小さく息を吸う。
「恐らく」
フミカも緊張した面持ちでカツラギを見る。
カツラギがもう一度フミカに頷き
「神」
こころなし厳かな声でその単語を口にする。
「神? 」
フミカがカツラギに確認を求めるように聞き
「‥ああ‥、そう」
カツラギが厳かな口調のまま頷く。
神。
俺も神なんだけど‥
賢者に‥宣言される相手は、神は‥自分じゃない。
世界の真理‥っていう、プログラムだ。
プログラムを、終了させる必要があったんだ。
俺にかかった呪いっていうプログラムを解除する必要があったんだ。
そして、それを国民に宣言して初めて、呪いは解ける‥。
だって今でも国民にとっては俺は「忌むべき存在の高位魔法使い」で、「見たくもない存在」だから、だ。本当は、見てももう不快感も感じないかもしれないのに、見たくないから見ないんだ。
「今の状態は、‥多分だけど‥神がサカマキにもう高位魔法使いでなくていい、と認めた状況なのだろうな。私は、‥元賢者の最後の仕事として、神殿にそれを報告し、人民に宣言する義務がある。それが、賢者としての最後の仕事になるだろうと‥思う」
大分遅くなったけどな。
カツラギは、苦笑して言った。
きっと、引退宣言をする初めての賢者になる。
フミカはふふ、っと冷やかすような笑顔をササマキに向ける。
「サカマキは‥結婚のために引退、かな。でも、法改正で高位魔法使いのままでも結婚できることになったんだよな」
‥アララキの努力ってか執念で実現された法改正だ。
だけど‥
「サカマキとアララキは結婚する前に子供を産んだんだよな~。地球でいうところの、出来ちゃった結婚ってやつだな。‥それとも、結婚って形も取らず、事実婚にする? 」
サカマキを見て、ニヤリ、と笑う。
「な‥! 」
サカマキが瞬間、ぼんっと赤くなる。
真っ赤な顔で俯いて、何か言っている。
多分、「仕方なかったんだ‥そういうのじゃない‥」とか言ってるんだろう。
‥でも、先日自分はアララキへの想いに気付いてしまったわけで‥。
そんなことを考えていたらますます赤くなる。
‥結婚。
「結婚‥」
カツラギはぽかんとした顔になって呟いた。
‥え、だって、あの二人が? 男同士‥ってのも、無いことは無いけど‥っていうか、子供が産まれたってことは、‥サカマキは女? え? どうなの?? そもそも、高位魔法使いって生殖できない呪いがかかってるんじゃなかったっけ??
‥改めて考えると‥わからない事ばかりだぞ??
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