Happy nation

文月

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七章 元通り

8.カツラギは、ファン層が変わったらしい。

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「結婚。アララキが考えてないとは思えないけど」
 フミカが真っ赤になって固まるサカマキに、にやり、と少し意地の悪い‥「悪戯坊主」の様な微笑みを向ける。それは、何時も無表情だった以前のフミカには珍しく、だけど今の姿‥アララキに瓜二つ‥な女児になってからでは、見慣れた表情だった。
 サカマキはばつが悪そうに顔を背ける。

 顔真っ赤。耳まで真っ赤。その横顔をフミカは優しい表情で見つめた。
 「いい歳こいてるはず」なのに、サカマキは恋愛に耐性が無さ過ぎる。
 カツラギは、そんな幼馴染を不憫に思うものの‥だって、呪いのせいでそういう感情に今まで無縁だったんだからね‥、‥「子供もいる大人だのに‥」ちょっと情けないなって想いで見つめた。


 今この場所には、桜子はいない。
「私がいたら話にくいことでしょ? 」
 って、気をつかって席をはずしてくれたんだ。
 目の前には、コーヒーとジュースが二杯。
 コーヒーは大人であるサカマキの分で、子供二人はジュースってつもりだったんだろうが、何故か‥コーヒーはカツラギが飲んでいる。
 サカマキは照れ隠しにジュースに手を伸ばして、ストローではなくそのまま一気にくいっと飲み干した。
 カツラギが、ふ、と苦笑いしてコーヒーカップに手を伸ばす。
 二人掛けのソファーと、ローテーブルをはさんで向き合うかたちで、一人掛けのソファーが二つ置かれたリビング。
 テレビがあって、ソファーとローテーブルがあるだけ。
 広くはないが、中庭に面した日当たりのよいリビングだ。
 ソファーとローテーブルは、かって正樹の親子が団欒を楽しんだ時のまんまだった。
 ベッドは、かっての両親の寝室を夫婦の寝室にする際に買い替えよう、と正樹が言ったが、桜子が「このままでいい」って言ってそれもそのまま使っている。‥流石にそれは‥ってベッドスプレッドだけは正樹の判断で買い替えた。桜子が気をつかってくれているのは分かったけれど‥それだけは譲れないって思ったんだ。
 両親には両親の、そして自分たちには自分たちの人生があるべきだ。
 想い出だけに浸っているわけにはいかない。
 それに、両親の亡くなった後、この家に一人で住んでいた正樹にとって、この家の想い出は、両親との思い出の外に、一人で過ごした時の想い出も出来ていた。そうやって、この家には次々に新しい記憶が刻まれていって、‥それはやがて想い出に変わっていく。
 そういうのは、堪らなく愛おしいって思う。
 ‥その中心人物であるはずの「子供」がカツラギ‥普通じゃない子供‥なのは、‥本当に気の毒だと、サカマキは正樹に対して罪悪感を感じているのだが‥。
 歴史を感じる、ちょっとくたびれた一人掛けソファーの奥側‥つまり中庭側だ‥が、カツラギの指定席だった。いつもは「子供らしく」お山すわりでそこに収まっているのだが、今は両親がいないから「以前」みたいに軽く足を組んで優雅にコーヒーを喉元に運ぶ。(姿は子供なんだけどね)
 コーヒーと‥その傍らには、いつも本。
 「以前」のカツラギの姿を思い出す。
 カツラギは、女には‥(いや、男に手をだすこともあったな)‥下半身にはだらしないが、書物を愛するインテリな美青年だった。
 生成りの貫頭衣に、刺繍の地模様が施された品のいい紫の大きな長方形の布を肩から掛け、それを腰でベルト代わりの布で縛っていた。
 長身なカツラギがその長い脚をゆったり組んで本を片手に無表情で座る様子は、さながら氷の彫刻の様な美しさで、「置物にしたい‥」って女性の‥一部男性の‥視線を集めていた。
 いつも違う女を侍らせてた印象しかないんだけど、本を読むときカツラギは他人が近くに来ることも嫌がった。多分、「至高の読書タイム」を邪魔されたくなかったんだろう。
 普段は女好きだけど、仕事にはストイック。‥ストイックでは済まされない、Sなスパルタ上司は氷の美貌の美青年。
 カツラギには多くの信者がいた。信者って、尊敬してる、ってだけじゃない。「カツラギに抱かれたい‥♡酷くされたい‥♡」っていうどっちゃかというと、М寄りな奴らも多かった。

 プラチナブロンズの髪とタンザナイトの瞳の優雅な美青年。体つきもほっそりとして、筋肉なんかあんまりついてない。でも、余計な脂肪もついていない。細マッチョとかでもない、戦闘には絶対向いていない「キレイなだけの肉体」Theインテリ青年‥でも、顔色悪いガリ勉なんかじゃなく、ただただ優雅な青年。長身で知的で‥賢者って肩書がぴったりだったカツラギ。(地球でいうところのエリート官僚風ってやつだな)
 ‥今の姿にその面影はない。

 子供が父親の真似して、背伸びしてコーヒーカップで飲んでるみたい‥。
 ‥でも、中身はミルク、みたいなね。
 因みに、カツラギが飲んでいるのは正真正銘コーヒーなんだが。‥しかも、ミルクも砂糖もいれないの。

「まあ、‥結婚は、でも、サカマキが、高位魔法使いの役割を終えたことを神殿にそれを報告し、人民に宣言して‥本当の意味でサカマキが高位魔法使いの呪いを解呪した後だな」
 可愛めのショタが、言うセリフは相変わらず可愛さもくそもないセリフって感じでね、いやホント、今の状態ホント‥ギャップがスゴイワ‥。
 そう。事実を見るとそうなんだ。
 カツラギの外見は変わった。

 でも‥俺には‥きっとフミカもそうだと思うんだけど、どんなに見た目が変わっても、カツラギはカツラギにしか見えない。カツラギだって、以前と同じように振舞う。そうすることで、俺たちは安心できる。
 無理して子供っぽく振舞うカツラギを見たら、俺は‥きっと悲しくて、‥自分を許せなくなるだろう。
 きっとそれをカツラギは知っている。
 だから、カツラギは「無理して子供のフリをするコ●ン君」をしない。どうせ、素の仕草をしたって「お父さんの真似して可愛らしい」って言われるだけで問題ないって分かってるから、わざわざ「無理して子供のフリ」なんてしない。(まあ、その「あらあら、お父さんの真似っこして可愛らしいわ」って微笑ましそうな顔をして見る大人は、カツラギの親父が20過ぎてもリアルショタで、カツラギよりよっぽど可愛らしいことを知らないわけだが。‥正樹は凄いぞ。天然のリアル‥合法ショタだ。あんな非力なのガチマッチョの多いhappynationに連れていったら、三分で手籠めにされてそうだ)
 ‥話がそれた。

 カツラギは、「正樹の息子」である前に、カツラギで、happynationの賢者だ。
 否、‥元賢者だ。
 賢者としての役目として、俺が高位魔法使いでなくなったことを、happynationの人民に宣言する。俺を、ホントの意味で呪いから解放してやりたいってことだろう。カツラギは、自分の仕事には真面目だし‥そして本当に友達想いだ。
 そんな友達想いな友人に‥結婚とか心配されるとか‥めっちゃ‥嫌だ‥。
 恥ずかしい。‥ホントに、恥ずかしい。ただただ恥ずかしい。
「‥ベツニ俺は‥結婚なんて考えてませんが‥」
 後生だから、そうっとしておいてもらえませんかね!?


「元賢者の最後の仕事として、神殿にそれを報告し、人民に宣言する義務がある。だから、私は一度、happynationに帰らないといけない。‥それも、なるべく早く、だ」
 あの後、改めてそうカツラギは言った。
 酷く真剣な顔で。
 賢者としての仕事‥。
 賢者としての最後の仕事。
 賢者は、高位魔法使いの水先案内人だ。
 高位魔法使いに「高位魔法使いとは何か」を教えたり、高位魔法使いの魔物発生の報告を受けて、その場所を特定し、対策‥討伐するための作戦を練る。(※それは、魔術師や兵士などの他のメンバーも含めた作戦なんだけど、結局高位魔法使いが暴走して、そのほとんどを高位魔法使いが討伐する。‥その無茶な暴走によって高位魔法使いが命を落とすことは過去にも何度かあったが、それは賢者の作戦ミスではないので、賢者的に問題はない。そして、国的にもあまり問題はない。‥一応、国民への結果報告の際、「貴重な犠牲はあったが‥」という話はされるが‥)高位魔法使いのブレインとして、アドバイスしたり、困難に直面した時どうするべきかを指示したりするのが賢者の主な仕事だ。
 ‥本来、高位魔法使いっていうのは、「魔物を倒すことしか知らなくて、単純であまり何も考えていない人間」ってタイプが多いんだ。だから、賢者っていうしっかりしたブレイン‥っていうか、マネージャーみたいなもんだな‥が必要になるってわけなんだ。
 今回は、高位魔法使いがサカマキ一人だけでしかも神獣で、賢者と一緒に育ってきた‥って、今までに無いほどのイレギュラーだったから、いつもと様子が違っている。だけど、イレギュラーなのは、賢者であるカツラギも一緒だ。従来の賢者っていうのは、もっと信仰心に篤くって、使命感に燃えてて真面目‥ってタイプばっかりだった。だから、聖職者と一緒に神官として神殿にいて違和感が無かったんだ。神殿で、高位魔法使い関係の予言をしたり‥、魔物討伐の際の犠牲者を弔ったり、高位魔法使いの殺した魔物の霊を鎮めたり、‥「彼の罪を許したまえ‥」って祈ったり‥してるらしい。彼の罪って‥いや、でも(魔物退治は)仕事だし。やれって言ったのお前だろ!? って奴だ。
 皆の犠牲になって、魔物を殺すのが罪か?
 ‥腹立つわ‥。
 カツラギは、そんな「いい子」みたいなこと、しない。
 きっと、鼻で笑いそう。
 でも
「価値観の違いだ。別に歴代の賢者を悪く言う気はない」
 って、でも、人の事は批判しないし、非難しないんだ。


 カツラギがhappynationに帰郷する。‥賢者として。
「‥つまりはこのちびっ子がカツラギだって言わないといけないってことか‥」
 サカマキは一気に血の気が引いた。
 「あの」カツラギ信者に‥
 あの‥カツラギが死んだって報告した時に向けられた、あの視線を再び‥。
 サカマキは思わず膝から崩れ落ちた。
 ‥怖い。‥今まで倒して来た魔物たちよりずっと‥怖い。
「絶対ここに連れ戻す」
 って約束して、あの時、カツラギの部下とフミカの部下には事情を話した。‥勿論、口外無用‥口止めも忘れなかった。
「カツラギ様が(フミカ様が)無事にお戻りになるならば」
 そう一応納得してくれたが、あの時のそれぞれの部下たちの目は怖かった。
 ‥特にカツラギの部下‥カツラギ信者‥が怖かった。
 フミカの部下みたいに、怒ってる目‥ではない、アレだ「恨みのこもった怨念のこもったような」目。
 仕方が無いとはいえ‥俺のせいでこうなったのは事実‥。
 カツラギ信者に‥呪い殺されたらどうしよう‥。
 俺は逃げるように地球に来た。
 あの時の、「でも、別の顔になったカツラギとかちょっと面白そう‥」って気持ちは、でも、今‥全面的にカツラギに感謝しかない今、ただただ「ごめん‥」というか‥
 ‥カツラギに悪いって気持ちしかない。
 以前は偉そうに言ってたくせに、ざまあねえな。
 って部下に笑われろとか‥もう、これっぽっちも思ってませんよ。‥いや、ホント、ガチで怖いんですってば‥。


 そして今、俺は目の前で起きている異常な光景に、自分の目を疑っている。


「か‥可愛い‥」
 おい、オマエ、オッサン、なんか目がヤバいぞ。
 犯罪臭しかしないぞ。
 カツラギ‥お前、「悪かったな。皆変わりはないか? 」とか言ってる場合じゃないぞ。‥ちょっと、危機感もった方がいいぞ。
「初めて現物を目にしました。インテリショタ‥! 」
 ‥なんだ? インテリショタって‥それも、犯罪臭しかしないな‥。
 カツラギ「見た目は変わったが、私は以前と同じですよ」じゃねえ。‥だから、危機感持てって‥。
「尊い‥」
 以前から、「信者」だったけど、なんか別の信者になっちゃったよ‥「インテリショタ信者」‥絶対犯罪じゃん。犯罪臭どころじゃない。絶対犯罪じゃん‥。
 確かにこの世界、ちっちゃくって可愛いって‥いないけど‥! 。
 今目の前にいるカツラギは確かに、小さくてかわいいけど、けど!! でも‥カツラギだぞ? 見た目通りの天使じゃないんだぞ? 
 この世界においても、子供はちっちゃくて可愛いけど、子供は世界の宝だから、恋愛対象にはなりえないし、そういう邪まな感情を向けるのもタブー視されてる。それは、地球よりもなお厳しい。でも、カツラギは‥「中身大人」だから、セーフらしい。んなあほな。‥青少年のこころに傷‥はつかないないだろうがしかし‥でも‥
「カツラギ様!! 我らは、お姿が変わられましてもカツラギ様の下僕(しもべ)でございます!! 」
 ‥やっぱり、ロリコンとかショタとかダメだと思います。
 しかも、今のカツラギ、「合法ショタ」じゃないです。
 マジの本物の‥子供です。
 中身が大人なら問題ない? って、そんなわけあるか。手を出すわけじゃないからノープロブレム? ‥当たり前だ。未就学児に手を出すとか‥そんな邪まな、変態なこと考えるんじゃねえ。‥考えたって思うだけでドン引きだぞ。
 今は、見た目子供、そして実際にも子供。
 でも‥正樹の息子だからきっと、大人になったら‥絶対
 ‥合法ショタになりそう。
「カツラギ、地球で暮らす方が安全かもよ‥」
「ん? サカマキさっきから何をぶつぶつ言ってるんだ? 」
 ‥なんか立場が逆になった気がする。


「こんな子供みたいな姿‥もう女性にモテない‥」
 落ち込む「元ブイブイ言わせてた」カツラギ。
 ‥これからは、オニイサンたちに掘られない様に気を付けて欲しい。


 カツラギ、ファン層が変わったって話。
 でも、メンバーは以前と変わらず。(更にパワーアップしました)
 ‥カツラギ信者は、信仰心厚くって、姿かたちが変わった位では、その信仰心に変わりはないよ、って話。(って話ってことにしておこう‥)
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