空蝉

pAp1Ko

文字の大きさ
1 / 16

しおりを挟む
俺の目の前で、血を多量に流し、地面に赤い大輪の花を描いているのは、俺が初めて恋をした彼だ。彼は、明星 灯みょうじょう あかりは、俺のことを特段好いてるわけでもないだろうに。なぜ、俺の腕を引いて、代わりに車に撥ねられたんだろうか。なぜ...。

こんなときなのに、周りの大人たちが救急車だとか、警察だとか叫び騒いでいるというのに、頭はやけに冷静で、でも、体は灯の側から動けなくて意識のない灯の手を握り、ただ見つめることしかできない。

彼は、いつだか、学校で血液型の話になったときに言っていた。

『僕は、珍しい血液型で、お母さんに大きなケガをしないように気をつけてね。って言われてるんだ~。』

と。

それなのに、灯は今にも命が尽きそうで。

初恋の彼は遠くに行ってしまいそうで。

それが俺を庇って大怪我をしたからで。

その事実が、恐ろしいほどに、俺の内側を冷やしていく。


遠くから、サイレンの音が聴こえて、赤灯が見えた頃には、灯の呼吸はもう聞こえないくらい、小さくなっていた。


救急隊員が俺を灯から引き剥がして、連れて行こうとする。だが俺も灯の血によって、見た目だけなら怪我をしているように見えたのだろう。一緒に救急車に乗せてもらい、受け入れてくれる病院に連れて行ってもらった。

その間に、灯の呼吸は何度も止まりかけては吹き返しを繰り返した。


病院に着いて灯は、手術室に消えていった。その間に看護師に、灯の血液型とか病気とか知らないか。と聞かれ、あの状況で、冷静な頭のおかげで、灯の荷物から絶対に必要だと思い持ってきた血液型カードを見せた。

「これ。灯、珍しい血液型なんだって。...病気は特になかったと思う。」

そのカードを見た瞬間、看護師はカードを借りると言って、走り出し手術室に消えたかと思えば、たちまち手術室から数人の看護師が小走りで駆けて行った。

少しすると手術室の前で、看護師が集って、情報交換をしているみたいで、小さな話し声が聞こえてきた。

「AB型Rhなんて、そうそういないし、こんな地方の病院にあるわけないじゃない....。」

「そうよ…。他の病院に頼んでる時間もないし....。」

そんな、話し声を聞いて、俺は偶々近くにいた、白衣を着た50代くらいの医者に声をかけた。その人の白衣の裾を、少し引っ張って、振り返った胸元の名札を見て、この人が医院長だと知り、きっと灯を助けてくれると信じ、希望を持った。

「...先生。今ね、手術室で俺の友達が頑張ってるんだ。...でもね、俺の友達、珍しい血液型でね。助からないかもしれないんだ。」

「...それは、....きっとお医者さんがお友達を助けてくれるよ。」

「...ううん。血がないんだって。輸血っていうんでしょ。だから、俺なら手伝えるかなって。声をかけたんだ。」

「...血液型によって、輸血できる血が限られるんだ。もし君がそのお友達と同じ血液型ならお手伝いできるんだけどね。」


だから、俺は、もうこの世にはいない俺を引き取ってくれた義理の両親と歳の離れた義理の兄から言いつけられた約束を破って、自分の血液型カードを見せた。


「...俺なら手伝えるよ。....でも、誰にも灯にも言わないで....。先生が医院長先生って分かったから頼んだんだ....。俺と先生だけの内緒のお話。」


カードを見た医院長は、しばらく動かず、思案したあと、俺を医院長室に連れて行ってくれた。


「....先生と君だけの秘密だ。...本当はこんなことしてはいけないし、保護者の同意なしではやってはいけないことなんだよ。」

「いいよ。灯が助かるなら、俺が怒られるよ。」

「...バレたら、そうは行かないんだよ...。」


そう話しながら、テキパキと採血の準備をしてくれる。


「...さあ、横になって。...時間がないから、普通より多く、早く採血できるように調整するから、すぐ眠気が来るかもしれない。そうしたら、眠ってしまって構わないよ。」

「...わかった。...先生、灯助けてね。」

「...君の血があればきっと助かる。...それじゃあ、始めるね。」


すごい勢いで血が抜けていくのがわかる。それと同時に眠気に襲われて、どんどん瞼が降りていく。意識がなくなる直前に医院長が何かを言っていたけれど、聞き取ることはできなかった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

暑がりになったのはお前のせいかっ

わさび
BL
ただのβである僕は最近身体の調子が悪い なんでだろう? そんな僕の隣には今日も光り輝くαの幼馴染、空がいた

幼馴染がいじめるのは俺だ!

むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに... 「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」 「はっ...ぁ??」 好きな奴って俺じゃないの___!? ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子 ーーーーーー 主人公 いじめられっ子 小鳥遊洸人 タカナシ ヒロト 小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。 姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。 高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、 脳破壊。 千透星への恋心を自覚する。 幼馴染 いじめっ子 神宮寺 千透星 ジングウジ チトセ 小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。 美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている) 転校生の須藤千尋が初恋である

楽な片恋

藍川 東
BL
 蓮見早良(はすみ さわら)は恋をしていた。  ひとつ下の幼馴染、片桐優一朗(かたぎり ゆういちろう)に。  それは一方的で、実ることを望んでいないがゆえに、『楽な片恋』のはずだった……  早良と優一朗は、母親同士が親友ということもあり、幼馴染として育った。  ひとつ年上ということは、高校生までならばアドバンテージになる。  平々凡々な自分でも、年上の幼馴染、ということですべてに優秀な優一朗に対して兄貴ぶった優しさで接することができる。  高校三年生になった早良は、今年が最後になる『年上の幼馴染』としての立ち位置をかみしめて、その後は手の届かない存在になるであろう優一朗を、遠くから片恋していくつもりだった。  優一朗のひとことさえなければ…………

【完結】もしかして俺の人生って詰んでるかもしれない

バナナ男さん
BL
唯一の仇名が《根暗の根本君》である地味男である<根本 源(ねもと げん)>には、まるで王子様の様なキラキラ幼馴染<空野 翔(そらの かける)>がいる。 ある日、そんな幼馴染と仲良くなりたいカースト上位女子に呼び出され、金魚のフンと言われてしまい、改めて自分の立ち位置というモノを冷静に考えたが……あれ?なんか俺達っておかしくない?? イケメンヤンデレ男子✕地味な平凡男子のちょっとした日常の一コマ話です。

異世界から戻ったら再会した幼馴染から溺愛される話〜君の想いが届くまで〜

一優璃 /Ninomae Yuuri
BL
異世界での記憶を胸に、元の世界へ戻った真白。 けれど、彼を待っていたのは あの日とはまるで違う姿の幼馴染・朔(さく)だった。 「よかった。真白……ずっと待ってた」 ――なんで僕をいじめていた奴が、こんなに泣いているんだ? 失われた時間。 言葉にできなかった想い。 不器用にすれ違ってきたふたりの心が、再び重なり始める。 「真白が生きてるなら、それだけでいい」 異世界で強くなった真白と、不器用に愛を抱えた朔の物語。 ※第二章…異世界での成長編 ※第三章…真白と朔、再会と恋の物語

ポメった幼馴染をモフる話

鑽孔さんこう
BL
ポメガバースBLです! 大学生の幼馴染2人は恋人同士で同じ家に住んでいる。ある金曜日の夜、バイト帰りで疲れ切ったまま寒空の下家路につき、愛しの我が家へ着いた頃には体は冷え切っていた。家の中では恋人の居川仁が帰りを待ってくれているはずだが、家の外から人の気配は感じられない。聞きそびれていた用事でもあったか、と思考を巡らせながら家の扉を開けるとそこには…!※12時投稿。2025.3.11完結しました。追加で投稿中。

処理中です...