空蝉

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灯side

氷空が僕達のところに帰ってきて、眠ってる時間のほうが長かったけれど、ちゃんと起きて、食べれる分だけ食べて、本を読んだり、歩く練習をしている間に、一年が経っていて、僕と風吹は高校3年生になった。

氷空は、帰ってきたときからそんなに大きくならなくて、和都さんが「ならないんじゃなくて、なれないんだよ。一番の成長期にあんまり食べれなくて、かつ血を抜かれ続けて栄養が行き渡っていなかったから。」って言っていた。身体の線も細いままだし、髪も真っ白のままだ。

なのに、僕が鈍くて怪我をちょくちょくして、その状態で氷空のところに行くと、必ずこう言うんだ。

「...灯、けが、してる。」

「あはは、また引っ掛けちゃって。」

「...血でてる。血、いる?」

「...氷空、僕の怪我はすぐ治るよ。こんなに大きくなったんだ。怪我以外なら健康体だもん!!」

「...俺より小さかったのに、...大きくなった。」

「でしょ~。

理由はね、きっと氷空が俺を助けてくれたからだよ。

一回目は氷空と離れ離れになったとき。
二回目は、氷空が帰ってきたとき。

事故は痛かったけど、氷空が帰ってきてくれたから痛みなんてどっか行っちゃったよ。」

氷空はお手伝いさん達が絆創膏をしてるだけでも、「血いる?」って聞いてくるって言っていた。

そのたびに、大丈夫と答えると、少し悲しそうな顔をするって言っていたけれど、多分、氷空は自分の生きる価値とここにいるための理由が血だけだと思っているんだと思う。

「氷空。」

「なぁに?」

「氷空は、ここにいていいんだよ。

僕と風吹もこの間、番になったんだ。だから、僕も氷空と家族でしょ!!結婚したらもっといっぱいいられるね!!」

「...つがい?」

「...覚えてないの?8歳のとき、みんな保健の授業で習った番についてソワソワしてたのに。」

「....。」

氷空は、少し目を反らしたあと、僕を見て微笑んだ。

「つがいって、あれでしょ。項を噛んだら一生一緒にいられるってやつでしょ。」

「そう、噛まれた側は、他の人を噛んでも番になれなくなるけどね。おとぎ話には、番になった瞬間に起きる奇跡があるらしいよ。」

「...奇跡。」

「うん、僕はそういう感じのなかったけど、最近怪我が減ったから、風吹と二人でね、番になった奇跡かなって話してるんだ~。」

「怪我が少ないのは、いいこと。 ....よかったね。灯。」

「うん!!だからね、氷空の血は貰えないけど、氷空の心配事も少しは減ったでしょ?

昔は怪我ばっかりする僕を心配してくれてたもんね。

だから今度は僕が、氷空を心配する人の一人なるよ。僕とずっと一緒にいようね!!」

「.....うん。」

最近の氷空は、どこか元気がない。

少し前に、和都さんと妃璃さんが、「18歳だし、高校行ってみない?」って聞いていた。

体験入学っていうらしい。僕もいいと思って、風吹と「いいんじゃない?楽しいよ。」って後押ししたけれど、氷空は小さく首を横に振って断った。

「俺、8歳から本は読んでいたけど、難しい字は書けないし、勉強もしてないから高校の授業もきっと分からないと思うので、いいです。行かなくて大丈夫です。」

「じゃあ、体験入学じゃなくて、見学はどう?授業とか、教室を見に行くだけでもお願いすればできるんだけど。」

「...そこまでして、学校行きたいと思いません。
.....、夢を見るのは、次に期待してしまうから、いいです。」

「...夢なんかじゃ、定時制の高校だってあるんだ。元気になってから勉強したくなったら、いつでも言っていいんだよ?」

「....勉強はしてみたいけど、大丈夫です。

....あ、じゃあ、文化祭?っていうのは行けますか?」

「文化祭は秋だな。数カ月でその時期だと思うけれど、風吹と灯くんのところは、一般参加大丈夫だったかな?」

「大丈夫です。三日間のうち、二日目が一般参加者が入れる日だったはず。」

「じゃあ、その日に行ってみようか。」

「....はい。ありがとうございます。」

和都さんが言うには、氷空は何をするにも諦めているらしい。「高校に通うことも、大して通えないのにお金をかけるのは無駄だと思っているし、大して通えない理由も、氷空自身が長くはないと察しているからだろう。」と。

確かに、氷空はこの一年でつけた肉を削ぐ勢いで痩せていっている。海莉さんも「覚悟はしてる」らしい。

でも、皆そんな未来は考えたくなくて、明るく希望ある方に持っていこうと、連れて行こうと心がけて接しているけれど、氷空自身がそういう感情に疎いからか、気付いてくれない。

明るい未来を想像してくれない。希望を抱いてくれない。常に隣に最悪の未来を置いて手放さない。

だから、もうすぐ始まる文化祭で少しでも元気に、明るい方に進めればいいな。




僕と風吹の通う高校は、この辺りの、希望校のない人たちが集まることで有名な高校だ。風吹はもっと上の学校に行けたのに、僕に合わせてくれた。気付いたら、高校3年生で、受験生ってことは分かっているけれど、勉強そっちのけで、氷空に会いに来ている自覚はある。

正直、もう受からなくてもいいかとか、風吹と結婚するし主夫でもいいじゃんとか思ったときもあったけど、氷空に会うと、やっぱり頑張ろうって気持ちになって、風吹の部屋で、勉強を再開するルーティンができている。

風吹が高校を僕に合わせてくれたから、今度は僕が吹雪に合わせようと思って、かなり頑張って勉強をしている。氷空には、勉強をしている姿を見せないよう風吹と約束をした。

「氷空は、勉強したいと思うんだ。」

「なんで?」

「今は何でも諦めてる感じだけど、本をよく読んでるでしょう?」

「うん、昼寝してるときも片手に本がある。」

「昼寝のときは、小説が多いけど、それ以外のときは参考書とかじゃないけれど、そういう図鑑とか知識になりそうな本をよく読んでいるんだ。」

だから、僕たちは絶対に氷空には勉強している姿を見せないし、教科書とかそういう連想しそうなものも氷空の前では出さないようにしている。

そんな高校3年生の僕たちの文化祭のクラスの出し物は、たこ焼きだ。クラスみんなで材料とホットプレートを持ち寄って、一皿5個で500円だ。高いか安いか分からないけれど、クラスのたこ焼きマニアの和田さんが言うには、お祭りの屋台よりは安いし、ワンコインだよ。らしい。

氷空が食べるってなったら、味が濃いから少し心配だけど、クラス全員でたこ焼きをうまく作れるようになったから、ぜひ食べてほしいとは思う。

初日は、学校内だけだったから他学年の生徒がいっぱい買いに来た。主食系の出し物が少なかったからそのおかげかもしれない、と風吹と話しながら、初日は終わった。

風吹といつも通り、帰宅。僕はまだ帰宅じゃないけど、両方の親公認のお付き合いだし、番にもなってて結婚も確定しているから、いつも「ただいま」と声を出す。

「...お、かえり、なさ、い。」

氷空が、サンルームから部屋に戻るところだったのか、一番におかえりと言ってくれた。最近の氷空は、どんどん一年前の起きた頃に近付いている。

眠っている時間が長くなったし、ひどいときは一日起きない。食事も食べられる量が減っているみたいで、海莉さんが心配していた。まだ、歩けるだけでいいほうなのかもしれない。

氷空を支えていた海莉さんにも挨拶をして、一緒に氷空の部屋に向かった。部屋に入った瞬間、さっさとベッドに腰掛けてそのまま倒れるように眠った氷空。僕と風吹は驚いたけど、海莉さんはいつものことなのか、テキパキと服を緩めて、靴を脱がせてと熟睡できるようにしていた。

「氷空、元気ないの?」

「いや、ここ最近は明日の文化祭をずっと起きていられるように、よく寝るようにしているみたい。」

「「なるほど。」」

「...まあ、でも、確かに少し前よりよく眠るようにはなってる。....気を付けないとな。」

「そうですね。明日楽しんでもらえればいいんだけど。」

僕たちは、それぞれ氷空におやすみと声をかけて風吹の部屋に行った。夕食のとき、海莉さんは氷空に付きっきりだから、最近見ないけれど、妃璃さんが「ちゃんと食べてるわよ。」と言っていたので、きっと大丈夫だろう。

その日は風吹の部屋で一緒に寝た。特に何もしないで。お互い明日のために、早く寝ることを選んだ。

「明日、楽しんでくれるといいね。」

「そうだね。少しでも元気付けられればいいんだけど。」

「たこ焼き、食べられるかな。」

「食べるってなったら、少し薄味のを作ればいいんじゃないかな。」

「そっか、自分たちで作るんだから、その手があったね。」

「タコも食べにくいだろうから、別のチーズとかにすれば、多分食べられるかな。」

「...明日が楽しみだなぁ。」

「そうだね。」

お互いに、「おやすみ」と言い合ってその日を終えた。


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