空蝉

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海莉side

文化祭の当日、氷空はいつもよりうんと早く起きていた。相当楽しみだったのか、俺よりも先に起きていた。
「氷空、おはよう。」
「...お、はよう。」
「随分早起きだね。楽しみだった?」
「うん。」

いつもは動きやすい楽な服に着替えるところを、動きやすさ重視だが、オシャレな服を妃璃さんが選んでくれて、それを氷空に着せる。

肌はあまり見せないような、白のトレーナーにカーゴパンツ。髪が目立つからキャップもかぶる予定だ。

「似合ってるよ。」
「ほんと?」
「うん。」
「お出かけ。久しぶり。」
「...そっか、そうだよね。」

俺と手を繋いで杖をつきながら、リビングに向かう。
リビングには、みんな揃っていて風吹くんと灯くんは制服を着ていた。

「おはよう!氷空!」
「灯、おはよう。」
「おはようございます。氷空。」
「おはようございます。風吹くん。」
「「二人とも、おはよう。」」
「「おはようございます。妃璃さん、和都さん。」」

席について、お手伝いさんたちがまだ来てない朝は、俺と妃璃さんで仕度をする。キッチンから風吹くんと灯くんの制服を興味津々で見ている氷空が目に入る。

「...。」
「んー?氷空、制服気になる?」
「...この辺の、学校のやつ?」
「そうですよ。」
「昔、見たやつと違う?」
「あー、なんか5年前くらいに学ランからブレザーに変わったんだって。」
「...5年前、そうなんだ。てっきり、遠いとこまで通ってるのかと思った。」
「ぁ、...全然!!今日遠くまで行くと思った?」
「うん。電車通学とかそういうのかと思ってた。」
「違うよ。徒歩で行ける距離。」
「そっかぁ。」
「僕たちが行くときは車で、近くのコインパーキングまで行くよ。」
「...車。」
「久しぶりだと思うからゆっくり運転するよ。」

少し微妙な空気になっているが、妃璃さんが朝食を持って向かえば、一瞬で朝食の雰囲気になる。

「今日は、動くから氷空も、少し多めよ!!もちろん、食べられる量だけでいいからね。」
「はい。」

氷空がゆっくり食べている間に、風吹くんと灯くんが先に学校に行った。氷空が食べ終えて、しっかり食休みをとったところで、和都さんが運転する車で学校に向かった。

学校近くのコインパーキングで降りて、氷空の速度に合わせて、学校まで歩く。歩けていた時期に比べると少し遅くなった歩みを誰も言わない。俺が氷空を後ろから支えて、前を歩く和都さんと妃璃さんが、歩きやすいように気遣って、段差などを教えてくれる。

普通より倍以上は時間がかかったかもしれないが、外の景色を楽しみながら歩く氷空は楽しそうだった。
学校に近付くに連れて、人が多くなって騒がしさも増す。校門が鮮やかに彩られ、飾り立てられていた。

「ゎ、すごい。」
「カラフルだな。」

でかでかと文化祭と飾られた校門を通り過ぎると、脇にテントが立っていて、パンフレットや案内をしている生徒がちらほらいた。氷空が杖をついているからか、「車椅子入りますか?」とか聞いてくれる子もいて、俺と和都さんと妃璃さんはほっこりしつつ、大丈夫と断った。

「...どう?文化祭。」
「...すごい。雑誌とか小説でよく見たけど、...本物はすごいね。」
「そっか。このあと、灯くんと風吹くんのクラスに行くけど、具合とか悪くない?」
「大丈夫。」

和都さんと妃璃さんが校内地図を見ている間、少し後ろの方で聞こえた。....聞こえてしまった。


「.......消える前に、...見れて、よかった。」


振り返って氷空を見れば、何も言わなかったかのように少し微笑んでいるだけだった。

和都さんが、クラスの位置が分かったのか俺たちを呼ぶ。その声に、俺と氷空は返事をした。二人のもとに向かうために、歩き出す氷空の杖をついていない方の手をしっかり握って一緒に向かった。

「.....消えさせない。....絶対に。」

そう小さく零せば、氷空が俺の手を握り返してくた。


クラスに行けば、とても繁盛していて氷空は、慣れない人混みに酔ったのか、気分が悪そうだった。だから、少し離れて人が散るのを待とうか思っていたら、風吹くんが教室の中に入れてくれた。

「氷空、大丈夫?」
「...あ、かり、ふ、ぶき、くん。」
「あまり、大丈夫じゃなさそうですね。」
「...ご、めん、なさ。」
「大丈夫ですよ。ほら灯が飲み物を持ってきてくれたから落ち着きましょう。」
「...ん。」

風吹くんが、椅子に座らせてくれて杖も近くに立てかけてくれた。

「灯くん、飲み物俺たちの分までありがとう。」
「いいよー!僕も飲みたかったから!!」
「風吹くんも、ありがとう。」
「大丈夫です。僕たちも昨日より繁盛しててなかなか休憩できていなかったからちょうど良かった。」

妃璃さんと和都さんがたこ焼きを買って、人の少ない裏庭に行こうか、と提案してくれたので灯くんと風吹くんも休憩がてら、一緒に行くことになった。

氷空はまだ歩くには顔が白すぎたので、俺が抱きかかえて移動することにした。

「...に、さん。....ご、めん。」
「大丈夫だ。こんなに人が多いのは俺も久々に見た。」
「...新鮮な、体験だった。」
「…この先、もっといろんな体験をするんだ。慣れておかないとな。」
「…そう、なると、いいな。」
「なるさ。絶対にそうする。」

氷空は、やはり未来に希望を抱こうとしない。周りの4人には聞こえないくらいの声量で会話をしながら人混みの中を進んでいく。


しばらくすると、校舎で日陰ができている裏庭に着く。風吹くんが言った通り、人はほとんどおらず、俺たちを視界にいれると同時に、さり気なく立ち去っていった。きっと気を使ってくれたのだろう。氷空は裏庭に着く頃には、かなりぐったりしていて、今にも眠ってしまいそうだった。

「…氷空、どうだった?楽しめた?」
「…う、ん。」

俺の肩で今にも寝そうな氷空を気遣いながら、日陰のベンチに座ると、灯くんが友だちと話していたのか少し遅れて、小走りで戻って来る。途中で転びかけると、風吹くんが駆け寄って支えていて、微笑ましいと同時に少し羨ましく思った。

「灯、気を付けて。」
「ごめんごめん、最近あんまり怪我しないから油断してた。」
「また、氷空くんに心配されますよ。」
「それはよくないね。…氷空は?まだ起きてる?」
「…おき、てるよ。」
「まだ回れそう?無理そうなら、早めに帰る?僕達は学校だからまだ帰れないけど、お土産持って帰るよ。」

氷空はまだ回りたそうにしていたが、やはり体力的に限界なのか、少し考えたあと残念そうに小さく頷いた。

「それじゃ、先に帰ろうかな。和都さんと妃璃さんは、まだ回っていただいて、大丈夫ですよ。風吹くんの写真とか撮りたいでしょうし、のんびり歩いて帰りますよ。」

そう言えば、和都さんも妃璃さんは不安そうに顔を顰めたが、息子の写真が撮れるイベントなんて、数少ないのだから、と勧めると二人とも心配そうな顔をしていたが、「ありがとう。」と言って校門まで送ってくれた。
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