空蝉

pAp1Ko

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すでに眠っている氷空を起こさないように、ゆっくり歩いて、行きの車での移動時間の倍以上をかけて家に戻った。

リビングの大きなソファに氷空を寝かせて、靴を脱がせたり、汗や汚れを落として、自分の帰宅後のルーティンをやってから、リビングに戻ると、部屋を出る前につけたテレビから、ニュースの音声が流れてきていた。


『…次のニュースです。

本日未明、□□県□□市の海岸沖で、水死体が発見されました。

□□警察によると、死亡したのは、2か月前から行方不明になっていた、□□県△△市の◇◇病院の医院長であったーーーーさん(53)であると判明しており、死亡推定時刻は午前○○時から○○時であり、遺体には目立った外傷はなく、自殺の線で捜査を進めています。

…続いて次のニュースです。』


テレビから聴こえてきたそれは、灯くんが二度運ばれ入院した、氷空を見つけたあの病院の医院長の訃報だった。

和都さんと妃璃さんが医学会のパーティーに参加した時に、氷空を隠して血液を奪い続けていたであろう人と目星をつけていた矢先だった。

俺たちは法に触れない限りで社会的復讐をしようと考えていたのだが、和都さんによると、その医院長は、ここ10年で病院を一気に人気の高い病院に名を連ね、改装や最新の医療機器を導入して羽振りが良かった。

それでも医院長自体が患者第一で人当たりのいい心根の優しい人で悪い人ではないという話であった。だから、アポが取れたら、話し合いと、氷空の生命を削った本人であれば慰謝料なんかを請求する算段でいたのだが、亡くなったようだった。

「....せ、んせ?」
「…氷空?」

氷空が起きていたようで、テレビに映った顔写真で、今まで俺たちに話してくれた「先生」こと医院長が亡くなったと分かったようだ。

「…せん、せ、しんじゃったの?」
「…そう、みたいだね。」
「…そっか、せんせ、…がんばってたもんね。…そっか。」
「…氷空は、やっぱり先生のことは、怒っていないの?」
「…おこらないよ、だって、たくさんの人をすくって、それで病院も、おおきくして、おれと一緒に、たくさんの人を助けたんだよ。…ずっとおれの、世話もしてくれて、ご飯だって、せんせいの、手作りだったんだ。…向こうで会えるといいな。」
「…そう、氷空が先生を憎んでいないなら俺個人の気持ちで復讐をしようとしていたのは、…嫌われちゃうかな?」
「…ず、っと、おれを、さがしてくれてたんでしょ?ひとりでかなしいもん。おれだって、兄さんが、8年もいなくなったら、隠してた人のこと、恨んじゃうよ。」
「…そっか、ありがとう。あと一つ、そんなにすぐに”向こう”には行かせないよ。」

氷空は曖昧な笑顔で返事はくれなかった。
その日、氷空は文化祭で疲れたのもあるのか、翌日まで眠って起きることはなかった。

皆が学校から帰ってきて落ち着いてから医院長の話と氷空の意見を伝えれば、悔しそうな顔をしたが、了承してくれた。

数日後、匿名で真っ白の封筒がポスト投函されていたらしく、宛名は氷空で、代わりに俺が読めば、亡くなった医院長からの手紙だった。

所謂、遺書というやつだろう。
計8枚に渡り、この10年の病院の発展のお礼と氷空へのお礼と懺悔、それから氷空に可能な限り生きて欲しいことと、氷空が生きる可能性がある症例や治療手段が複数書かれていた。
しかし、どの治療法も和都さんが全て試してくれていたものであり、どれも確実に回復に向かうような結果にはならなかった。手紙の最後の1枚。他はびっしり上から下の行すべてに文字が書かれていたが、その1枚だけは違い、途切れ途切れに改行され、少しよれた字で文字が書かれていた。

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