御狐神様と生贄の、出逢うはずが無かった2人の話

日和千夜

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A県のとある山奥にある、厳勢村(いなせむら)。
村の唯一の神社では、赤色の提灯が、ゆらゆらと夜風に揺られている。
今か今かと、祭りの灯りが村人の熱気を包む。
その中央には、櫓が組まれており、1人の男児が静かに遠くを見つめていた。

この厳勢村では、100年に一度、信仰の対象である御狐神様が真の眠りにつく。
それが今日だ。
祭りは、眠りにつく神を守るため、そして神の力を現世に留めるためのもの。
そして、生贄と呼ばれる10才の男児を捧げることで、人々は神へ願いを聞き入れてもらう。
この村を、我々、人間を守って欲しいと、、、。
神は、眠りから目覚めた時に、捧げられた男児を食料として喰らい、その後、100年の災厄を払う。
生贄は、運が良ければ家臣として側に置くこともあるという噂や文献はあるが、定かではない。

生贄のその後を、誰も知らないからだ。


神が眠ると、村を外敵から守る眼がなくなる。
眼は結界のような役割を果たしているため、閉じられてしまうと、この好機に乗じて異形のモノが流れこんでくるのだ。
信仰心は、神の力の源でもある。
敵襲を少しでも抑えるために、祭りを行い、信仰心をもって、神の力をになるように、人々は捧げ、歌い、舞うのだ。

櫓の上の男児には、これからどうなるかも分からないが、恐怖や、焦りなどはなかった。
村の大人たちから、生贄に選ばれたことは名誉であり誇りだと言い聞かせられてきた。

何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も、、、、

学校へ向かう途中も、帰る途中も、神社の境内で遊んでいる時も、どこからともなく村人が現れて言うのだ。
向けられた視線は、村の外に出ることを許さないかのような、まるで、逃げる事を許さないような、監視している目だった。
男児には、これからどうなってしまうのかよりも、村人の目のほうが怖かった。
村人の目から逃げられるのであれば、、、

男児は10才にして、受け入れたのだ。

夏だというのに、やけに白い肌に提灯の灯りが反射する。
太鼓の音がさらに大きくなる。

神事が始まる。
聞かされていた段取り通りだ。

落とされた視線が揺れた時、
「想太」
「っ父さん、、、?」
男児-想太は自身を呼ぶ声に驚く。
櫓の影から、こっそりとこちらの様子を伺う男性。
「父さんどうしてここに、、、」
「どうしても顔が見たくてな」
眉をしかめた父が弱々しくつぶやく。
怒りを抑えているような、悲しみを堪えているような、そんな表情だった。
「、、、仕方がないよ。ちょうど10歳の男の子ってなると、僕しかいなかったんだ。父さんと母さんには、、、産んでもらったのに、育ててもらったのに、、、ごめんなさい。せっかくせっかく、、、」
想太は、伝えたくてもうまく言葉が出てこない。
「お前が申し訳ないと思う必要なんて、1つもないんだよ。謝るのはこちらの方だ。お前の自由を奪い、外の世界を見せてやりたかった、だから」
「ありがとう。父さん。母さんにも、もう一度お礼が言いかったなぁ。母さんは、どこに」
その時、祭りが行われ始めた境内の入り口鳥居のあたりから、大きなドンッと言う音と、人々の悲鳴が聞こえた。
神社の神主が、慌てて外へ飛び出てくる。
人々の悲鳴や足音、怒号が櫓まで聞こえてくる。
「何?何が起きてるの?」
「想太っ!あなた!」
「母さん!」
1人の女性が慌てた様子で、櫓の上にいる想太に手を伸ばした。
「まさか、こんなに早く?!」
父が母を止めに入った。
そんな父に母が、
「妖怪が来てしまったの!御孤神様の眠りに合わせて村を襲いにきたの!想太!早く来なさい!神事どころじゃないわ!」
母親は想太の手を無理矢理引っ張り、櫓から下ろすとそのまま手を引いて走り出した。
「あなた!神社の裏手に車を止めてあるから、逃げるわよ!!」
「わかった。来い想太」
突然の出来事で、言われるがまま父親の背におぶられて、3人はその場を後にした。



暗い道だった。
誰にも見つからないように、神社の外壁に沿って、スマートフォンの明かりだけを頼って、3人は無我夢中で逃げた。
悲鳴や怒号が徐々に遠くなる。
長い外壁が途切れたところで、見慣れた自家用車がひっそりと駐車してあった。
「ここから山道を進んで行って、隣村へ向かうわよ。まだそんなに多くの妖怪は集まってきていない。早く乗って!」

3人は車に乗り込むと、暗い暗い山道を猛スピードで進み始めた。

「母さん。本当に逃げてよかったの。生贄になれば、神様は目が覚めて戦えるんじゃないの。村の人たちが助けられるんじゃないの?」
「、、、」
「父さん。逃げてしまったら、村に戻った時、怒られてしまうのは、父さんと母さんだよ」
「、、、」
想太は、2人から返事がないことに対して焦りを感じていた。
どんな時でも、きちんと向き合って話し合いをしてくれた両親が初めて、無言だった。
運転席に座る母は、険しい表情でハンドルを握っていた。
自身の隣に座っている父は、時折外を気にしながら、自分の頭を抱え、大きな手で撫でてくれていた。
山道を抜けて、舗装された道へ出ると、しばらくして母と父が口を開いた。
「想太、お母さんはね、想太に、誰かを優しく想う子に育って欲しいって思って名前をつけたの。名前の通り本当に優しく育ってくれた。、、、でもね、自分のことにも優しくできる子になってほしいと思ったのよ。」
「想太は、誰かのために何かを諦めることができる。けれど、命は諦めて欲しくない。絶対に。それは強さかもしれないけれど、悲しいことだから。」
「だからね。父さんと話し合って3人で逃げようって決めてたの」
「3人一緒なら大丈夫だ。」
母と父の優しい言葉に、はらはらと涙が溢れた。
父が「大丈夫だ」と落ちつかせようと背中をさする。
「僕、、、本当は、、、怖かった、、、皆、神様のところへ行く事は、、、素敵な事って言うけど、、、っぐ、、、父さんと母さんと一緒にいたいんだ」
嗚咽と一緒に言葉が出てくる。
うまく話せないが、
「これからは、想太とずっと一緒だ」
「何があっても、父さんと母さんが守るからね」
3人の想いは一つだった。

舗装された道路から、再び、山道へ入る。
看板には、「慈響橋(じきょうばし)より先 岺山村(れいざんむら)」と記載があった。

山道は漆黒の闇で、車のライトでも心元ない。
「運転大丈夫か?そろそろ変わるぞ?」
父が母に尋ねた。
車を走らせてから、1時間は経とうとしていた。
「ありがとう。助かるわ」
「この辺りなら岺山村の敷地に近いから、降りても大丈夫だとは思うが、、、いや、中で交代しよう」
父の提案で、車から降りずに後部座席と運転席を入れ替わった。
「出発するぞ」
「ええ、、、想太、次は母さんが隣だよ」
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