16 / 28
16
しおりを挟む
「……アイーナ。庭を埋め尽くしているこの金色の山、どうするつもりだ?」
ギルバート様が、頭を抱えながら窓の外を指差しました。
そこには、アステリア王国の紋章が刻まれた木箱が積み上がり、溢れ出した金塊が夕日にギラギラと下品な輝きを放っていました。
「どうするもこうするも、ギルバート様。届いたものは『寄付金』として受領するのがマナーというものですわ」
私は温かい紅茶を啜りながら、営業用スマイルを「極悪モード」で深めました。
「寄付金……? 彼の手紙には『これでアイーナとこの国を買う。お釣りは取っておけ』と書いてあったぞ」
「あら、国家の売買なんて国際法違反ですわ。ですから、これは『アステリア王太子による、隣国への無償の経済支援』として処理させていただきます。……ねえ、マリエル様?」
「は、はい! すでに『アステリア王国・王太子殿下より、ヴォルフ公爵領の貧困対策費として多額の寄付を賜りました』という感謝状を、各国の新聞社に速達で送っておきましたわ!」
マリエル様が、すっかり私の毒に染まった良い笑顔で答えました。
「……それだけか? 貴様がそれだけで終わるとは思えんが」
ギルバート様が、疑わしげな目で私を見ました。
「さすがギルバート様、お目が高い。……カイルさん! 例の『吟遊詩人部隊』の準備はどうかしら?」
「はっ、アイーナ様! 国中から口の達者な詩人たちを百名集めました。金塊一枚につき一曲、『レオン殿下のトホホな武勇伝』を歌い上げる契約が完了しております!」
カイルが、執事服のポケットから大量の歌詞カードを取り出しました。
「……トホホな武勇伝?」
「ええ。殿下がアイーナ様に送った『愛のポエム(全集)』を、滑稽なメロディに乗せて大陸中で流行らせるのですわ。タイトルは『僕の愛は国家予算を超える』。……いい曲になりそうですわね?」
「……アイーナ。貴様、それは金銭的な打撃より、男としての尊厳を破壊しにいっていないか?」
ギルバート様が、少しだけ(本当に少しだけ)レオン殿下に同情したような顔をしました。
「ビジネスに慈悲は不要ですわ。……さらに、この金塊の一部を使って、アステリア王国内に『レオン殿下・事実確認(ファクトチェック)センター』を設立します」
「事実確認センター?」
「ええ。殿下が何か失政をするたびに、『今日の殿下の無能ポイント』をチラシにして全世帯に配布するボランティア団体ですわ。もちろん、資金源は殿下の金塊ですから、実質タダです!」
私は扇子で口元を隠し、おほほ、と高らかに笑いました。
「……マリエル様。アイーナ様に敵対することだけは、死んでも選んではいけませんよ」
「分かっておりますわ、ギルバート様。……私、お皿洗い担当で本当に良かったです」
二人が何やらヒソヒソと話していましたが、私は気にしません。
「さあ、カイルさん! 金塊をすべて現金化して、宣伝活動を開始してくださいな。……あ、お父様の煮込み用の『最高級大根』を一本買うのも忘れないでね」
「はっ! 最高級の大根、金塊三枚分ほど用意いたします!」
こうして、レオン殿下が「愛の力(金)」でアイーナを買い戻そうとした作戦は、自分自身の恥部を大陸中に宣伝する自爆装置へと作り変えられたのでした。
その数日後。アステリア王宮。
「……なんだ? 街中で、私の書いたポエムが陽気なリズムで歌われているようだが……。ようやく私の才能が国民に認められたのだな!?」
レオン殿下は、窓を開けて上機嫌にリズムを取っていました。
「殿下……。あの歌の二番の歌詞、『金は出すけど知恵は出ない、愛を語るが仕事はしない』という部分、ご自身のことだと気づいていらっしゃいますか……?」
「何を言う、マリエル(の代わりの侍従)よ。それは私への期待の裏返し……。……ん? なんだこのチラシは? 『今日のレオン様:朝食のパンを喉に詰まらせて、国家の危機だと騒ぎ立てる(無能度:星三つ)』……?」
レオン殿下の顔が、ようやくゆっくりと引き攣り始めました。
「……ア、アイーナァァァ!! さては私の金を使って、私のイメージダウンを狙っているのか!? ああ、なんという知略! なんという情熱! やはりお前は、私を輝かせるために、あえて闇を演出しているのだな!!」
「……もう、放っておきましょう」
侍従は、そっと窓を閉めました。
ギルバート様が、頭を抱えながら窓の外を指差しました。
そこには、アステリア王国の紋章が刻まれた木箱が積み上がり、溢れ出した金塊が夕日にギラギラと下品な輝きを放っていました。
「どうするもこうするも、ギルバート様。届いたものは『寄付金』として受領するのがマナーというものですわ」
私は温かい紅茶を啜りながら、営業用スマイルを「極悪モード」で深めました。
「寄付金……? 彼の手紙には『これでアイーナとこの国を買う。お釣りは取っておけ』と書いてあったぞ」
「あら、国家の売買なんて国際法違反ですわ。ですから、これは『アステリア王太子による、隣国への無償の経済支援』として処理させていただきます。……ねえ、マリエル様?」
「は、はい! すでに『アステリア王国・王太子殿下より、ヴォルフ公爵領の貧困対策費として多額の寄付を賜りました』という感謝状を、各国の新聞社に速達で送っておきましたわ!」
マリエル様が、すっかり私の毒に染まった良い笑顔で答えました。
「……それだけか? 貴様がそれだけで終わるとは思えんが」
ギルバート様が、疑わしげな目で私を見ました。
「さすがギルバート様、お目が高い。……カイルさん! 例の『吟遊詩人部隊』の準備はどうかしら?」
「はっ、アイーナ様! 国中から口の達者な詩人たちを百名集めました。金塊一枚につき一曲、『レオン殿下のトホホな武勇伝』を歌い上げる契約が完了しております!」
カイルが、執事服のポケットから大量の歌詞カードを取り出しました。
「……トホホな武勇伝?」
「ええ。殿下がアイーナ様に送った『愛のポエム(全集)』を、滑稽なメロディに乗せて大陸中で流行らせるのですわ。タイトルは『僕の愛は国家予算を超える』。……いい曲になりそうですわね?」
「……アイーナ。貴様、それは金銭的な打撃より、男としての尊厳を破壊しにいっていないか?」
ギルバート様が、少しだけ(本当に少しだけ)レオン殿下に同情したような顔をしました。
「ビジネスに慈悲は不要ですわ。……さらに、この金塊の一部を使って、アステリア王国内に『レオン殿下・事実確認(ファクトチェック)センター』を設立します」
「事実確認センター?」
「ええ。殿下が何か失政をするたびに、『今日の殿下の無能ポイント』をチラシにして全世帯に配布するボランティア団体ですわ。もちろん、資金源は殿下の金塊ですから、実質タダです!」
私は扇子で口元を隠し、おほほ、と高らかに笑いました。
「……マリエル様。アイーナ様に敵対することだけは、死んでも選んではいけませんよ」
「分かっておりますわ、ギルバート様。……私、お皿洗い担当で本当に良かったです」
二人が何やらヒソヒソと話していましたが、私は気にしません。
「さあ、カイルさん! 金塊をすべて現金化して、宣伝活動を開始してくださいな。……あ、お父様の煮込み用の『最高級大根』を一本買うのも忘れないでね」
「はっ! 最高級の大根、金塊三枚分ほど用意いたします!」
こうして、レオン殿下が「愛の力(金)」でアイーナを買い戻そうとした作戦は、自分自身の恥部を大陸中に宣伝する自爆装置へと作り変えられたのでした。
その数日後。アステリア王宮。
「……なんだ? 街中で、私の書いたポエムが陽気なリズムで歌われているようだが……。ようやく私の才能が国民に認められたのだな!?」
レオン殿下は、窓を開けて上機嫌にリズムを取っていました。
「殿下……。あの歌の二番の歌詞、『金は出すけど知恵は出ない、愛を語るが仕事はしない』という部分、ご自身のことだと気づいていらっしゃいますか……?」
「何を言う、マリエル(の代わりの侍従)よ。それは私への期待の裏返し……。……ん? なんだこのチラシは? 『今日のレオン様:朝食のパンを喉に詰まらせて、国家の危機だと騒ぎ立てる(無能度:星三つ)』……?」
レオン殿下の顔が、ようやくゆっくりと引き攣り始めました。
「……ア、アイーナァァァ!! さては私の金を使って、私のイメージダウンを狙っているのか!? ああ、なんという知略! なんという情熱! やはりお前は、私を輝かせるために、あえて闇を演出しているのだな!!」
「……もう、放っておきましょう」
侍従は、そっと窓を閉めました。
3
あなたにおすすめの小説
王太子殿下から婚約破棄されたのは冷たい私のせいですか?
ねーさん
恋愛
公爵令嬢であるアリシアは王太子殿下と婚約してから十年、王太子妃教育に勤しんで来た。
なのに王太子殿下は男爵令嬢とイチャイチャ…諫めるアリシアを悪者扱い。「アリシア様は殿下に冷たい」なんて男爵令嬢に言われ、結果、婚約は破棄。
王太子妃になるため自由な時間もなく頑張って来たのに、私は駒じゃありません!
【完結】私が誰だか、分かってますか?
美麗
恋愛
アスターテ皇国
時の皇太子は、皇太子妃とその侍女を妾妃とし他の妃を娶ることはなかった
出産時の出血により一時病床にあったもののゆっくり回復した。
皇太子は皇帝となり、皇太子妃は皇后となった。
そして、皇后との間に産まれた男児を皇太子とした。
以降の子は妾妃との娘のみであった。
表向きは皇帝と皇后の仲は睦まじく、皇后は妾妃を受け入れていた。
ただ、皇帝と皇后より、皇后と妾妃の仲はより睦まじくあったとの話もあるようだ。
残念ながら、この妾妃は産まれも育ちも定かではなかった。
また、後ろ盾も何もないために何故皇后の侍女となったかも不明であった。
そして、この妾妃の娘マリアーナははたしてどのような娘なのか…
17話完結予定です。
完結まで書き終わっております。
よろしくお願いいたします。
置き去りにされた転生シンママはご落胤を秘かに育てるも、モトサヤはご容赦のほどを
青の雀
恋愛
シンママから玉の輿婚へ
学生時代から付き合っていた王太子のレオンハルト・バルセロナ殿下に、ある日突然、旅先で置き去りにされてしまう。
お忍び旅行で来ていたので、誰も二人の居場所を知らなく、両親のどちらかが亡くなった時にしか発動しないはずの「血の呪縛」魔法を使われた。
お腹には、殿下との子供を宿しているというのに、政略結婚をするため、バレンシア・セレナーデ公爵令嬢が邪魔になったという理由だけで、あっけなく捨てられてしまったのだ。
レオンハルトは当初、バレンシアを置き去りにする意図はなく、すぐに戻ってくるつもりでいた。
でも、王都に戻ったレオンハルトは、そのまま結婚式を挙げさせられることになる。
お相手は隣国の王女アレキサンドラ。
アレキサンドラとレオンハルトは、形式の上だけの夫婦となるが、レオンハルトには心の妻であるバレンシアがいるので、指1本アレキサンドラに触れることはない。
バレンシアガ置き去りにされて、2年が経った頃、白い結婚に不満をあらわにしたアレキサンドラは、ついに、バレンシアとその王子の存在に気付き、ご落胤である王子を手に入れようと画策するが、どれも失敗に終わってしまう。
バレンシアは、前世、京都の餅菓子屋の一人娘として、シンママをしながら子供を育てた経験があり、今世もパティシエとしての腕を生かし、パンに製菓を売り歩く行商になり、王子を育てていく。
せっかくなので、家庭でできる餅菓子レシピを載せることにしました
人生の全てを捨てた王太子妃
八つ刻
恋愛
突然王太子妃になれと告げられてから三年あまりが過ぎた。
傍目からは“幸せな王太子妃”に見える私。
だけど本当は・・・
受け入れているけど、受け入れられない王太子妃と彼女を取り巻く人々の話。
※※※幸せな話とは言い難いです※※※
タグをよく見て読んでください。ハッピーエンドが好みの方(一方通行の愛が駄目な方も)はブラウザバックをお勧めします。
※本編六話+番外編六話の全十二話。
※番外編の王太子視点はヤンデレ注意報が発令されています。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
殿下、私以外の誰かを愛してください。
ハチワレ
恋愛
公爵令嬢ラブリーは、第一王子クロードを誰よりも愛していました。しかし、自分の愛が重すぎて殿下の負担になっている(と勘違いした)彼女は、愛する殿下を自由にするため、あえて「悪役令嬢」として振る舞い、円満に婚約破棄されるという前代未聞の計画を立てる。協力者として男爵令嬢ミリーを「ヒロイン役」に任命し、準備は整った。
婚約破棄から50年後
あんど もあ
ファンタジー
王立学園の卒業パーティーで、王子が婚約者に婚約破棄を宣言した。王子は真に愛する女性と結ばれ、めでたしめでたし。
そして50年後、王子の孫の王子は、婚約破棄された女性の孫と婚約する事に。そこで明かされた婚約破棄の真実とは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる