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王都の聖マッスル……ではなく、王立大聖堂。
建国以来、最も荘厳で、かつ最も「物理的緊張感」に満ちた結婚式が執り行われようとしていた。
「お、お姉様……! なんて、なんて神々しいお姿……! そのウェディングドレスの隙間から覗く広背筋のライン、まさに芸術品ですわ!」
控え室で、ルルがハンカチをボロボロにしながら号泣していた。
鏡の前に立つアマリは、純白のシルクに身を包んでいる。
ただし、そのドレスはアマリの要望により、随所に「伸縮素材」と「隠し武器ホルダー」が仕込まれた特注品だ。
「あらルルさん。そんなに泣いては、せっかく鍛えた目の周りの筋肉が弛んでしまいますわよ。……でも、このドレス。やはり少し重いですわね。裾に仕込んだ五十キロの重りが、歩くたびに心地よい負荷を与えてくれますわ」
「五十キロ!? お姉様、正気ですか!? 普通の令嬢なら、一歩も動けずに沈没してしまいますわ!」
「何を仰いますの。結婚とは、二人で重荷を背負うことでしょう? 予行演習として、これくらいの重量は当然ですわ」
アマリが豪快に笑いながら拳を握ると、ドレスの袖が「ミシミシ」と不穏な音を立てた。
そこへ、正装を纏ったギルバートが入ってくる。
銀色の髪を整え、漆黒の礼服に身を包んだ彼は、息を呑むほどに美しかった。
「……アマリ。準備はいいか。……っ、その、……綺麗だ」
ギルバートはアマリの姿を見るなり、珍しく言葉を詰まらせて顔を赤らめた。
アマリはそんな彼の手をガシッと握りしめ、力強く引き寄せる。
「ギルバート! あなたも最高に仕上がっていますわね! その礼服越しでも分かる上腕三頭筋の張り……。今日のために、追い込んできたのが分かりますわよ!」
「……ああ。お前に恥をかかせないよう、昨夜も徹夜で懸垂をしてきたからな」
「まあ! 愛ですわね! それこそが真の愛のカタチですわ!」
二人は見つめ合い、周囲が当惑するほどの熱い視線(と筋肉への評価)を交わした。
やがて、式の開始を告げる鐘の音が鳴り響く。
大聖堂の扉が開くと、そこには国王をはじめ、王都中の貴族たちが詰めかけていた。
バージンロードを歩くアマリの足取りは、一歩ごとに床をわずかに沈ませるほどの重厚感があった。
祭壇の前で、国王が二人の前に立つ。
「ギルバート・ヴォルフ。貴殿は、この規格外……いや、類まれなる力を持つアマリ・エヴァレットを、生涯の伴侶とし、その暴走を食い止め、共に歩むことを誓うか?」
「誓います。彼女の隣に立つことが、俺の人生最大の戦いであり、喜びです」
「アマリ・エヴァレット。貴殿は、この不器用な騎士を夫とし、共に鍛え、共に食べ、王宮をなるべく破壊せずに過ごすことを誓うか?」
「誓いますわ! 私はギルバートを、私の人生最高の『重石(パートナー)』として、一生離しませんわよ!」
「……よろしい。では、誓いのキスを」
ギルバートがアマリの腰を引き寄せ、優しく、しかし確かな力で唇を重ねた。
会場からは割れんばかりの拍手と、「筋肉万歳!」という謎のシュプレヒコール(主に親衛隊)が巻き起こる。
式が終わり、大聖堂の外へ出ると、そこには豪華な装飾を施された馬車が待機していた。
だが、アマリはその馬車の前でピタリと足を止める。
「……ギルバート。私は決めましたわ」
「なんだ、アマリ。嫌な予感がするんだが」
「ハネムーンに、こんな揺れるだけの箱は必要ありませんわ! 自分の足で大地を蹴ってこそ、新たな人生のスタートというものですわよ!」
アマリはそう言うと、ドレスの裾を豪快に引きちぎった。
中から現れたのは、動きやすさを極めた白銀のライディング・パンツ。
「さあギルバート! 愛馬に乗って、北の『絶望の雪山』へ向かいますわよ! あそこの万年雪の中で組み手をすれば、私たちの愛はダイヤモンドよりも硬くなるはずですわ!」
「雪山で武者修行……。それがお前の言うハネムーンか」
「嫌かしら?」
アマリが小首を傾げて上目遣いで見つめると、ギルバートは抗えるはずもなかった。
彼は深く溜息をつき、しかしその口元には幸せそうな笑みを浮かべる。
「……いや。お前らしいよ。……おい、俺の馬を連れてこい! 姫を乗せて、最果てまで爆走するぞ!」
ギルバートはアマリを軽々と抱き上げると、用意されていた白馬に跨った。
アマリは彼の背中にしがみつき、満面の笑みで王都の民衆に手を振る。
「皆様、ごきげんよう! 私は幸せを掴みに行って参りますわ! 次にお会いする時は、さらに一回り大きくなった背中をお見せしますわねーーー!」
「行けーーーっ! 筋肉の聖女様ーーーっ!」
馬がいななき、砂塵を上げて走り出す。
ウェディングドレスのベールを風になびかせ、悪役令嬢アマリと氷の騎士ギルバートは、王道ではない「武道」の果てへと消えていった。
婚約破棄から始まった彼女の物語は、悲劇でも喜劇でもなく、ただひたすらに前向きで、熱い「筋肉の讃歌」として完結したのである。
二人の行く先に、さらなる強敵と、そして飽くなきタンパク質の補給があることを願って。
建国以来、最も荘厳で、かつ最も「物理的緊張感」に満ちた結婚式が執り行われようとしていた。
「お、お姉様……! なんて、なんて神々しいお姿……! そのウェディングドレスの隙間から覗く広背筋のライン、まさに芸術品ですわ!」
控え室で、ルルがハンカチをボロボロにしながら号泣していた。
鏡の前に立つアマリは、純白のシルクに身を包んでいる。
ただし、そのドレスはアマリの要望により、随所に「伸縮素材」と「隠し武器ホルダー」が仕込まれた特注品だ。
「あらルルさん。そんなに泣いては、せっかく鍛えた目の周りの筋肉が弛んでしまいますわよ。……でも、このドレス。やはり少し重いですわね。裾に仕込んだ五十キロの重りが、歩くたびに心地よい負荷を与えてくれますわ」
「五十キロ!? お姉様、正気ですか!? 普通の令嬢なら、一歩も動けずに沈没してしまいますわ!」
「何を仰いますの。結婚とは、二人で重荷を背負うことでしょう? 予行演習として、これくらいの重量は当然ですわ」
アマリが豪快に笑いながら拳を握ると、ドレスの袖が「ミシミシ」と不穏な音を立てた。
そこへ、正装を纏ったギルバートが入ってくる。
銀色の髪を整え、漆黒の礼服に身を包んだ彼は、息を呑むほどに美しかった。
「……アマリ。準備はいいか。……っ、その、……綺麗だ」
ギルバートはアマリの姿を見るなり、珍しく言葉を詰まらせて顔を赤らめた。
アマリはそんな彼の手をガシッと握りしめ、力強く引き寄せる。
「ギルバート! あなたも最高に仕上がっていますわね! その礼服越しでも分かる上腕三頭筋の張り……。今日のために、追い込んできたのが分かりますわよ!」
「……ああ。お前に恥をかかせないよう、昨夜も徹夜で懸垂をしてきたからな」
「まあ! 愛ですわね! それこそが真の愛のカタチですわ!」
二人は見つめ合い、周囲が当惑するほどの熱い視線(と筋肉への評価)を交わした。
やがて、式の開始を告げる鐘の音が鳴り響く。
大聖堂の扉が開くと、そこには国王をはじめ、王都中の貴族たちが詰めかけていた。
バージンロードを歩くアマリの足取りは、一歩ごとに床をわずかに沈ませるほどの重厚感があった。
祭壇の前で、国王が二人の前に立つ。
「ギルバート・ヴォルフ。貴殿は、この規格外……いや、類まれなる力を持つアマリ・エヴァレットを、生涯の伴侶とし、その暴走を食い止め、共に歩むことを誓うか?」
「誓います。彼女の隣に立つことが、俺の人生最大の戦いであり、喜びです」
「アマリ・エヴァレット。貴殿は、この不器用な騎士を夫とし、共に鍛え、共に食べ、王宮をなるべく破壊せずに過ごすことを誓うか?」
「誓いますわ! 私はギルバートを、私の人生最高の『重石(パートナー)』として、一生離しませんわよ!」
「……よろしい。では、誓いのキスを」
ギルバートがアマリの腰を引き寄せ、優しく、しかし確かな力で唇を重ねた。
会場からは割れんばかりの拍手と、「筋肉万歳!」という謎のシュプレヒコール(主に親衛隊)が巻き起こる。
式が終わり、大聖堂の外へ出ると、そこには豪華な装飾を施された馬車が待機していた。
だが、アマリはその馬車の前でピタリと足を止める。
「……ギルバート。私は決めましたわ」
「なんだ、アマリ。嫌な予感がするんだが」
「ハネムーンに、こんな揺れるだけの箱は必要ありませんわ! 自分の足で大地を蹴ってこそ、新たな人生のスタートというものですわよ!」
アマリはそう言うと、ドレスの裾を豪快に引きちぎった。
中から現れたのは、動きやすさを極めた白銀のライディング・パンツ。
「さあギルバート! 愛馬に乗って、北の『絶望の雪山』へ向かいますわよ! あそこの万年雪の中で組み手をすれば、私たちの愛はダイヤモンドよりも硬くなるはずですわ!」
「雪山で武者修行……。それがお前の言うハネムーンか」
「嫌かしら?」
アマリが小首を傾げて上目遣いで見つめると、ギルバートは抗えるはずもなかった。
彼は深く溜息をつき、しかしその口元には幸せそうな笑みを浮かべる。
「……いや。お前らしいよ。……おい、俺の馬を連れてこい! 姫を乗せて、最果てまで爆走するぞ!」
ギルバートはアマリを軽々と抱き上げると、用意されていた白馬に跨った。
アマリは彼の背中にしがみつき、満面の笑みで王都の民衆に手を振る。
「皆様、ごきげんよう! 私は幸せを掴みに行って参りますわ! 次にお会いする時は、さらに一回り大きくなった背中をお見せしますわねーーー!」
「行けーーーっ! 筋肉の聖女様ーーーっ!」
馬がいななき、砂塵を上げて走り出す。
ウェディングドレスのベールを風になびかせ、悪役令嬢アマリと氷の騎士ギルバートは、王道ではない「武道」の果てへと消えていった。
婚約破棄から始まった彼女の物語は、悲劇でも喜劇でもなく、ただひたすらに前向きで、熱い「筋肉の讃歌」として完結したのである。
二人の行く先に、さらなる強敵と、そして飽くなきタンパク質の補給があることを願って。
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