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「……おはようございます、エリー師匠! 私、今日から心を入れ替えて、エリー様のような『鋼のツッコミ令嬢』を目指しますわ!」
翌朝、私が酒場『荒くれ馬の蹄亭』の開店準備を始めようとした瞬間。
入り口の扉が勢いよく開き、眩いばかりの「ピンクの殺意」……もとい、マリア様が飛び込んできました。
(……ああ、昨日の話は夢じゃなかったんですのね。私の平和な朝を返してほしいですわ)
私は雑巾を絞りながら、目の前のキラキラした瞳を見つめました。
「まず、判定入ります。マリア様、その『師匠』という呼び方。音の響きが古臭い格闘マンガのようで、私の華麗なイメージに泥を塗っていますわよ。あと、そのやる気に満ちたポーズ。握り拳に力が入りすぎて、袖のレースが悲鳴を上げているのが聞こえませんか?」
「きゃっ、本当ですわ! でも、師匠の教えなら、レースの一枚や二枚、安いものですわ!」
「安くありませんわ。その服の維持費も、巡り巡って税金(殿下の懐)から出ているかと思えば、私のツッコミもさらに鋭利にならざるを得ませんのよ。……それで、一体何をしに来ましたの?」
マリア様は誇らしげに、自分が持ってきたバスケットを差し出しました。
「私、エリー様のお手伝いをしたくて、朝ごはんを作ってきましたの! 『胃袋を掴むのが教育の基本』って、王宮の料理長が言っていましたわ!」
「……その料理長の教育方針にもツッコミを入れたいところですが、中身を拝見しますわね。……あら?」
バスケットを開けた瞬間、私の視界に飛び込んできたのは、炭のように真っ黒な「何か」の塊でした。
「判定、下しますわね。……マリア様、これは『料理』というカテゴリーではなく、『考古学的な発掘遺物』に分類されるべきものですわ。これほどまでに有機物の面影を消し去るには、火力の調整ミスという言葉では片付けられません。地獄の業火で焼きましたの?」
「ええっ!? ただのトーストですわよ!? ちょっと目を離した隙に、オーブンから黒い煙がモクモクと……」
「『ちょっと』の定義が、一般人と三十分ほどズレていらっしゃいますわ! これほどまで炭化したパンを差し出されるとは……マリア様、私を暗殺する計画でもおあり? もし毒を盛るなら、もう少し食欲をそそる外見にするのが暗殺の作法ですわよ!」
「あんさつ!? そんな、滅相もありませんわ! 私、ただエリー様に喜んでほしくて……!」
マリア様がまた、お得意の「ウルウル上目遣い」を繰り出してきました。
しかし、今の私には一ミリも通用しません。
「はい、その涙! 昨日に比べて透明度が五パーセントほど落ちていますわね。さては、寝不足か、あるいは昨日の夜に甘いお菓子を隠れて食べましたわね? 不規則な生活は、あざとさのキレを鈍らせますわよ!」
「ギクッ……! ど、どうして分かりましたの!? マカロンを三つだけ……」
「私の観察眼をナメないでくださいな。……さて、お手伝いをしたいとおっしゃるなら、まずはそのふわふわしたドレスを着替えなさい。酒場の床を掃除するのに、その裾を引きずっていたら、あなたが雑巾の代わりになってしまいますわ」
「わ、私がお掃除の一部に……!? 斬新な教育法ですわ、師匠!」
「……褒めていませんわよ。ほら、私の古着を貸してあげますから。あ、カイン様、いつまで入り口でニヤニヤしていらっしゃるの?」
物陰で密かに様子を伺っていたカイン様が、観念したように姿を現しました。
「……ニヤニヤはしていない。ただ、貴殿の教育実習がなかなかに熱心だと思ってな」
「教育実習ではなく、害獣駆除に近い感覚ですわ。カイン様、このお方を王子様のもとへ送り返すお仕事、追加で発注できませんこと?」
「……残念ながら、殿下は現在『エリーがいなくて事務が回らない』と執務室に引きこもって、壁と会話をしていらっしゃる。マリア嬢を近づければ、壁が物理的に破壊されるのを恐れているのだろう」
「……殿下の精神状態も、王宮の壁の強度も、どちらも絶望的ですわね」
私は深いため息をつきながら、マリア様にバケツと雑巾を押し付けました。
「いいですか、マリア様。今日一日のノルマです。この床を、あなたのその曇りのない(物理的に曇りまくった)心で磨き上げなさい。一カ所でも磨き残しがあったら、その度に私のマシンガントークが、あなたの過去の失態を時系列で暴露して差し上げますわ!」
「ひ、ひえええっ! 頑張りますわ、師匠!」
慣れない手つきで雑巾をかけるマリア様。
そのお尻が左右に揺れるたびに、私は「重心がブレていますわ!」「その拭き方では汚れが移動しているだけです!」とガヤを飛ばし続けました。
酒場の客たちは、その光景を「新しいエンターテインメント」として楽しみ、チップを弾んでくれました。
(……全く、弟子なんて取った覚えはありませんけれど。この状況、実況のネタとしては最高に美味しいのが腹立たしいですわ!)
私はカイン様の差し出した「監察任務の追加書類」に目を通しながら、マリア様のドジに的確なツッコミを入れるという、驚異の並列処理能力を遺憾なく発揮するのでした。
翌朝、私が酒場『荒くれ馬の蹄亭』の開店準備を始めようとした瞬間。
入り口の扉が勢いよく開き、眩いばかりの「ピンクの殺意」……もとい、マリア様が飛び込んできました。
(……ああ、昨日の話は夢じゃなかったんですのね。私の平和な朝を返してほしいですわ)
私は雑巾を絞りながら、目の前のキラキラした瞳を見つめました。
「まず、判定入ります。マリア様、その『師匠』という呼び方。音の響きが古臭い格闘マンガのようで、私の華麗なイメージに泥を塗っていますわよ。あと、そのやる気に満ちたポーズ。握り拳に力が入りすぎて、袖のレースが悲鳴を上げているのが聞こえませんか?」
「きゃっ、本当ですわ! でも、師匠の教えなら、レースの一枚や二枚、安いものですわ!」
「安くありませんわ。その服の維持費も、巡り巡って税金(殿下の懐)から出ているかと思えば、私のツッコミもさらに鋭利にならざるを得ませんのよ。……それで、一体何をしに来ましたの?」
マリア様は誇らしげに、自分が持ってきたバスケットを差し出しました。
「私、エリー様のお手伝いをしたくて、朝ごはんを作ってきましたの! 『胃袋を掴むのが教育の基本』って、王宮の料理長が言っていましたわ!」
「……その料理長の教育方針にもツッコミを入れたいところですが、中身を拝見しますわね。……あら?」
バスケットを開けた瞬間、私の視界に飛び込んできたのは、炭のように真っ黒な「何か」の塊でした。
「判定、下しますわね。……マリア様、これは『料理』というカテゴリーではなく、『考古学的な発掘遺物』に分類されるべきものですわ。これほどまでに有機物の面影を消し去るには、火力の調整ミスという言葉では片付けられません。地獄の業火で焼きましたの?」
「ええっ!? ただのトーストですわよ!? ちょっと目を離した隙に、オーブンから黒い煙がモクモクと……」
「『ちょっと』の定義が、一般人と三十分ほどズレていらっしゃいますわ! これほどまで炭化したパンを差し出されるとは……マリア様、私を暗殺する計画でもおあり? もし毒を盛るなら、もう少し食欲をそそる外見にするのが暗殺の作法ですわよ!」
「あんさつ!? そんな、滅相もありませんわ! 私、ただエリー様に喜んでほしくて……!」
マリア様がまた、お得意の「ウルウル上目遣い」を繰り出してきました。
しかし、今の私には一ミリも通用しません。
「はい、その涙! 昨日に比べて透明度が五パーセントほど落ちていますわね。さては、寝不足か、あるいは昨日の夜に甘いお菓子を隠れて食べましたわね? 不規則な生活は、あざとさのキレを鈍らせますわよ!」
「ギクッ……! ど、どうして分かりましたの!? マカロンを三つだけ……」
「私の観察眼をナメないでくださいな。……さて、お手伝いをしたいとおっしゃるなら、まずはそのふわふわしたドレスを着替えなさい。酒場の床を掃除するのに、その裾を引きずっていたら、あなたが雑巾の代わりになってしまいますわ」
「わ、私がお掃除の一部に……!? 斬新な教育法ですわ、師匠!」
「……褒めていませんわよ。ほら、私の古着を貸してあげますから。あ、カイン様、いつまで入り口でニヤニヤしていらっしゃるの?」
物陰で密かに様子を伺っていたカイン様が、観念したように姿を現しました。
「……ニヤニヤはしていない。ただ、貴殿の教育実習がなかなかに熱心だと思ってな」
「教育実習ではなく、害獣駆除に近い感覚ですわ。カイン様、このお方を王子様のもとへ送り返すお仕事、追加で発注できませんこと?」
「……残念ながら、殿下は現在『エリーがいなくて事務が回らない』と執務室に引きこもって、壁と会話をしていらっしゃる。マリア嬢を近づければ、壁が物理的に破壊されるのを恐れているのだろう」
「……殿下の精神状態も、王宮の壁の強度も、どちらも絶望的ですわね」
私は深いため息をつきながら、マリア様にバケツと雑巾を押し付けました。
「いいですか、マリア様。今日一日のノルマです。この床を、あなたのその曇りのない(物理的に曇りまくった)心で磨き上げなさい。一カ所でも磨き残しがあったら、その度に私のマシンガントークが、あなたの過去の失態を時系列で暴露して差し上げますわ!」
「ひ、ひえええっ! 頑張りますわ、師匠!」
慣れない手つきで雑巾をかけるマリア様。
そのお尻が左右に揺れるたびに、私は「重心がブレていますわ!」「その拭き方では汚れが移動しているだけです!」とガヤを飛ばし続けました。
酒場の客たちは、その光景を「新しいエンターテインメント」として楽しみ、チップを弾んでくれました。
(……全く、弟子なんて取った覚えはありませんけれど。この状況、実況のネタとしては最高に美味しいのが腹立たしいですわ!)
私はカイン様の差し出した「監察任務の追加書類」に目を通しながら、マリア様のドジに的確なツッコミを入れるという、驚異の並列処理能力を遺憾なく発揮するのでした。
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