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Chapter5
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車が去った後も、誰も動かない。この空気を壊したのは。
「ママっ! 間に合った!?」
不意に割り込んできた、特徴のある声だった。
「さわ、い、さ……」
「ああっ! 尚哉君、良かったぁ。ホント、どうなるかと思ったよ!」
「ど、……して?」
すぐに駆け寄ってきた沢井に、綾瀬はたくさんの疑問符を浮かべる。 何が何だか。 間宮と真澄がここにいるのは理由を無理矢理つけようと思えばつく。だが、そこに沢井が加わると、綾瀬の思考の許容範囲を超えてしまうのだ。
「……最初に見つけたのは、ひろくんよ」
「えっ?」
「仕事が長引いて帰るところだったんですって。そこでたまたまナオちゃんを見つけて、声をかけようとしたら黒いセダンに連れ込まれた、って。アタシの所に電話が来たのよ」
真澄は、普段から己の肉体を隠すようなことはあまりしないが。
今回は化粧もせず、双眸も鋭い。端から見たら、ゲイバーのママだとは誰も思わないだろう。
その容姿で、この口調で語られるものだからいつも以上にギャップを感じはするが。 心から、心配をしてくれていたことが伝わり、胸が抉られるような感覚を、綾瀬は覚える。
「……ま。いいわ。詳しくは家に帰ってからにしましょう。ひろくん、悪いんだけど」
「ん。いいよっ。今車持ってんの俺だけだからね! ちょっと待ってて!!」
そう言って、沢井は軽やかに走って行った。
いまだに状況は掴めないが、どうやら説明はしてくれそうだ。それにほっと息を吐いたとき。
「……コラッ」
真澄から、デコピンが飛んでくる。
「だから言ったじゃない。一人でフラフラしちゃダメだって。よぉーく、わかったでしょ?」
「いや、だってあれは『たまたま』で。俺もどうしてこうなったんだか」
「それだけど。まだあなたをしっかりガードしてる人に対して、同じ事を言える?」
そう言われ、ハッとする。
もう、黒いセダンはとっくに消えているというのに。 今だに、綾瀬は間宮の腕の中。
「りく、と。もう、大丈夫」
「……ばかっ」
「えっ?」
「俺が、どれだけ心配したか。お前知らないだろ……っ」
そう言われ、ますます強くなる力に、綾瀬は何も言い返せない。
先ほどまで、相手に対して強い口調で言い放った彼が、今は少し体を震わせて、自らを抱きしめる。
そこから、伝わる想いが、 苦しくて……、温かい。
その、痛々しいほどの優しさに、綾瀬はわずかに笑みを浮かべ。 力強い腕に、手のひらを乗せた。
沢井の車に乗り込み、たどり着いたのは真澄の家だった。
距離的には間宮の自宅の方が近かったが、沢井に知られるのはマズいと、真澄が判断したのだろう。そのさりげない配慮が、ママ、と言う職をこなす力量に繋がるのだと綾瀬は思う。
「ちょっと、話が前後すると思うけれどいいかしら?」
リビングにて。
三人にお茶を出した真澄は、綾瀬に告げる。それには、迷わず頷いた。
とにかく、不可解なことが多すぎる。
その説明をして貰えれば、順番はこの際どうでもいい。
そして、もう一つ。
沢井がいるにも関わらず、抱きしめてくるこの存在をどうにかして貰えれば。
間宮は、綾瀬が「もう……、いいでしょ?」と聞いても、ゆるゆると首を振り、腕を解こうとしない。見た目とは裏腹に、時々子供かと思うほど、感情のみをあらわにする彼。ここしばらく共に過ごすことで、その要因は『心の不安定』にあると判断できる以上、下手にふりほどくこともできない。
「あははっ!ナオちゃん、あなたそれだけ陸ちゃんに心配かけてるんだから、しばらく好きなようにさせてあげなさい。それくらい、『恋人』として当然でしょ?」
「えっ!? うそ……っ。まさか、とは思ってたけど、ママ? 尚哉くんって。えっ? そ……、なの??」
「あら。そぉよぉ。知らなかった? ひろくんなら、いわなくても気づいてると思ったけれど」
真澄の放った一言に沢井が反応し。
返した答えにまた、「ひゃーっ! うそぉ!! ビックリしたぁ……」と騒ぎ。
綾瀬を腕に抱く間宮にジロリ、と睨まれるというおまけがついたが。
とにかく。話を聞かないことには。
この際、間宮が離してくれないことには目をつぶることにした。
「ママっ! 間に合った!?」
不意に割り込んできた、特徴のある声だった。
「さわ、い、さ……」
「ああっ! 尚哉君、良かったぁ。ホント、どうなるかと思ったよ!」
「ど、……して?」
すぐに駆け寄ってきた沢井に、綾瀬はたくさんの疑問符を浮かべる。 何が何だか。 間宮と真澄がここにいるのは理由を無理矢理つけようと思えばつく。だが、そこに沢井が加わると、綾瀬の思考の許容範囲を超えてしまうのだ。
「……最初に見つけたのは、ひろくんよ」
「えっ?」
「仕事が長引いて帰るところだったんですって。そこでたまたまナオちゃんを見つけて、声をかけようとしたら黒いセダンに連れ込まれた、って。アタシの所に電話が来たのよ」
真澄は、普段から己の肉体を隠すようなことはあまりしないが。
今回は化粧もせず、双眸も鋭い。端から見たら、ゲイバーのママだとは誰も思わないだろう。
その容姿で、この口調で語られるものだからいつも以上にギャップを感じはするが。 心から、心配をしてくれていたことが伝わり、胸が抉られるような感覚を、綾瀬は覚える。
「……ま。いいわ。詳しくは家に帰ってからにしましょう。ひろくん、悪いんだけど」
「ん。いいよっ。今車持ってんの俺だけだからね! ちょっと待ってて!!」
そう言って、沢井は軽やかに走って行った。
いまだに状況は掴めないが、どうやら説明はしてくれそうだ。それにほっと息を吐いたとき。
「……コラッ」
真澄から、デコピンが飛んでくる。
「だから言ったじゃない。一人でフラフラしちゃダメだって。よぉーく、わかったでしょ?」
「いや、だってあれは『たまたま』で。俺もどうしてこうなったんだか」
「それだけど。まだあなたをしっかりガードしてる人に対して、同じ事を言える?」
そう言われ、ハッとする。
もう、黒いセダンはとっくに消えているというのに。 今だに、綾瀬は間宮の腕の中。
「りく、と。もう、大丈夫」
「……ばかっ」
「えっ?」
「俺が、どれだけ心配したか。お前知らないだろ……っ」
そう言われ、ますます強くなる力に、綾瀬は何も言い返せない。
先ほどまで、相手に対して強い口調で言い放った彼が、今は少し体を震わせて、自らを抱きしめる。
そこから、伝わる想いが、 苦しくて……、温かい。
その、痛々しいほどの優しさに、綾瀬はわずかに笑みを浮かべ。 力強い腕に、手のひらを乗せた。
沢井の車に乗り込み、たどり着いたのは真澄の家だった。
距離的には間宮の自宅の方が近かったが、沢井に知られるのはマズいと、真澄が判断したのだろう。そのさりげない配慮が、ママ、と言う職をこなす力量に繋がるのだと綾瀬は思う。
「ちょっと、話が前後すると思うけれどいいかしら?」
リビングにて。
三人にお茶を出した真澄は、綾瀬に告げる。それには、迷わず頷いた。
とにかく、不可解なことが多すぎる。
その説明をして貰えれば、順番はこの際どうでもいい。
そして、もう一つ。
沢井がいるにも関わらず、抱きしめてくるこの存在をどうにかして貰えれば。
間宮は、綾瀬が「もう……、いいでしょ?」と聞いても、ゆるゆると首を振り、腕を解こうとしない。見た目とは裏腹に、時々子供かと思うほど、感情のみをあらわにする彼。ここしばらく共に過ごすことで、その要因は『心の不安定』にあると判断できる以上、下手にふりほどくこともできない。
「あははっ!ナオちゃん、あなたそれだけ陸ちゃんに心配かけてるんだから、しばらく好きなようにさせてあげなさい。それくらい、『恋人』として当然でしょ?」
「えっ!? うそ……っ。まさか、とは思ってたけど、ママ? 尚哉くんって。えっ? そ……、なの??」
「あら。そぉよぉ。知らなかった? ひろくんなら、いわなくても気づいてると思ったけれど」
真澄の放った一言に沢井が反応し。
返した答えにまた、「ひゃーっ! うそぉ!! ビックリしたぁ……」と騒ぎ。
綾瀬を腕に抱く間宮にジロリ、と睨まれるというおまけがついたが。
とにかく。話を聞かないことには。
この際、間宮が離してくれないことには目をつぶることにした。
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