女王蜂

宮成 亜枇

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 いったい、いつ眠りについたのか。水無瀬自身理解ができなかった。シーツはなかなか悲惨なことになっているが、どうすることもできない。執事に任せる以外ないだろう。気恥ずかしさはもちろんあるが、長年の付き合いの彼なら、理解してくれるはずだ、そう思って、ボンヤリする頭のまま、シャワーを浴びた。
 熱い湯を身体に叩きつけたことで、気分が幾分晴れたのか、それとも、吐きだしたせいなのか、水無瀬は寝不足のワリにはスッキリとした様子で着替える。そこで、携帯が着信があったことを告げているのに気づいた。
 ロックを解除すると、昨日すべての予定をキャンセルしたせいもあり、今日はそのしわ寄せが来ることが、鷲尾から告げられていた。仕方がないと思う。それだけのことをした自責の念は、いまだに残っている。
 確認をして、画面を消そうとすると、今度は違う所から連絡が入る。……荻原からだ。鷲尾より先に迎えに行きたいが、どこにいるのか教えて欲しいと。
 どうしようか迷う。昨日の今日だ。彼に対してどんな態度を取っていいのかわからない。鷲尾は旧知の仲、おそらく深いところまで触れないだろう。そして、共にいてくれれば、荻原の話も上手くかわしてくれるはず。なので、心境としては先に鷲尾を迎えに行ってほしいものだが、あまり迷惑もかけたくない。
 悩んだ末、水無瀬は。
『昨日別れたところに来てください。時間は任せます』。そう返した。


「秀。こちらへ来なさい」
 支度を終え下に降りるなり。父に呼び止められる。
「すぐ出なきゃいけないんだ。今日……、いや。これからまた、しばらく帰って来ない」
「秀っ!!」
「『話』って、見合いのことだろ?それなら何度も断ってるし興味がない」
「秀っ、あなた親に向かってなんてことを言うのっ!? 私達はあなたのためを思って……」
「違うだろ」
「……えっ?」
「俺のため、じゃなくて、自分たちのためだろ? 社長令嬢だかなんだか知らねぇけど、そっちの都合で、俺の人生勝手に決めつけないでよ。俺は、アンタ達の手駒じゃない。俺の人生は俺が決める」
 図星だったのか、両親は一瞬言葉に詰まる……。が。
「いい歳して、まだそんなことを言うのか。いい加減バカな事に時間を使ってないで身を固めろ。一体いつまで、道楽者でいるつもりなんだ?オメガなんてクズになんでお前が」
「クズ?」
「そうよ。オメガがいるから、私達は完璧なはずなのにおかしな事になるのよ。そんな奴らをクズと言って、何が悪いのよ」
「……クズなのは、アンタ達だろ」
 汚いものを見るような目で、水無瀬は告げる。 
「そんな風にしか物事を見ることができないんだったら。もう、この家の先は見えてる。これ以上、ここにいる意味はない。出て行く。もう帰ってこない。……親にこんな事言いたくねぇけど、アンタ達はクズ中のクズだ」
 凝り固まった考えしかできない両親に心底呆れ、水無瀬は部屋を出て、玄関に向かう。
「秀様っ!」
 慌てて追ってきた執事に、水無瀬は。
「気持ちはわかるけど……。俺の友達を侮辱したヤツの顔なんてもう二度と、見たくないんだよ」
 苦笑と共に、告げた。
「知ってる? 最近の『鷲尾』の急成長。一真のご両親は、オメガだって仕事ができるのなら差別せず、ちゃんとしたポジションにつける。それをバカにするアルファは構わず左遷する。でも、ウチはそれができない。これが何を意味するか、あなただったらすぐにわかるよね。悪いことは言わない。早めにこの家から離れた方が良いよ」
 更に加えると、執事の表情が変わる。水無瀬は「やっぱり」と笑い、「あ、でもあと少しいてくれると助かるかな。落ち着いたら、俺の部屋の荷物送ってもらいたいから」と頼む。

 執事がどう受け止めたのかは知らない。
 時間が迫っていたため、確認せずにそのまま外に出たためだ。
 これから先どうするのか。不安は残る。先の未来もそうだが、とりあえずは直近の。しかし、
「……何とかなるかぁ」
 道を歩きながら、水無瀬はそんな風に思っていた。
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