11 / 11
第4部真実の告白(第11章:断罪の炎、ふたたび)
しおりを挟む「…聞け。これが最後の戦いになる。その前に、お前たちに話さなければならないことがある」
俺の重い言葉が、虚無に満ちた玉座の間に響き渡る。目の前では、世界の理を喰らう「混沌の化身」が不気味に蠢き、背後では、仲間たちの絶望と困惑が突き刺さるようだった。
俺は、彼らに背を向けたまま、静かに語り始めた。自らの罪を、その手で暴くために。
「お前たちが、この長い旅の果てに討ち滅ぼすべき相手――魔王ゼノンは、俺だ」
時が、止まったかのような沈黙。
やがて、その沈黙を破ったのは、ガウェインの掠れた声だった。
「…何を…馬鹿なことを…」
「俺はかつて、人間たちの愚かさと醜さに絶望し、絶対的な力で全てを支配することで争いのない世界を作ろうとした。多くの命を奪い、世界を恐怖に陥れた。それは紛れもなく、愚かな独善だった」
俺は淡々と、しかし一言一言に自嘲を込めて続けた。
「そして、お前たちが知る物語の通り、俺は勇者アレクに討たれた。だが、死の間際に抱いた強烈な後悔が世界の理を歪めたらしい。神か悪魔か、あるいは世界の悪戯か。俺は、俺を殺した男の身体で、二度目の生を得たのだ」
これまでの旅の真実が、パズルのピースがはまるように、彼らの頭の中で像を結んでいくのが分かった。
未来予知のような采配も、魔族への詳しさも、全ては魔王としての記憶があったから。獣将ガランが俺を「主」と呼んだ理由も、俺が時折放つ、聖なる力とはかけ離れた禍々しい力の正体も。
「そして、目の前にいるこの化け物。これも、魔王軍が生み出したものではない」
俺は、目の前の混沌を顎で示した。
「こいつは、俺が過去を変えようとしたことで生まれた、俺自身の罪の化身だ。俺がガウェインの命を救い、歴史を捻じ曲げたことで生じた『世界の歪み』そのものだ。こいつは、俺が撒いた種なのだ」
告白は、終わった。
後に残されたのは、あまりにも重すぎる真実と、打ち砕かれた者たちの心だけだった。
「…嘘だ…」
ガウェインが、膝から崩れ落ちた。彼の騎士としての誇りも、俺に捧げたはずの忠誠も、信じてきた全てが、音を立てて崩壊していく。
「そのようなことが…あってたまるものかッ!」
彼の慟哭が、玉座の間に虚しく響いた。
「やはり…やはり、そうだったのですね…!!」
その声は、エルザのものだった。だが、それは悲しみではなく、純度を極めた憎悪の響きを帯びていた。彼女の杖の先から、抑えきれない魔力が火花となって散る。
「あなたは…私たちの仇ッ! あなたが、私の家族を、私の故郷を奪った張本人だというのですね!」
復讐のためだけに生きてきた彼女の矛先が、ついに真の敵へと定められた瞬間だった。
だが、リリアナの声だけが違っていた。
その声は、震えてはいたが憎悪ではなく、深い、あまりにも深い悲しみに満ちていた。
「…やはり、そうだったのですね。あなたは、ずっと…その途方もない罪を、たった一人で背負って…戦っていたのですね…」
彼女は、俺の罪の向こう側にある、後悔と苦しみを見透かしていた。その憐れみが、エルザの憎悪よりも、ガウェインの絶望よりも、鋭く俺の心を抉った。
「今ここで、あなたを討つ!!」
エルザの憎しみが臨界点に達し、その杖先に、砦すら吹き飛ばすほどの極大の魔力が収束していく。
リリアナが、悲鳴を上げて俺とエルザの間に割って入ろうとした。
「待ってください、エルザ! 話を…!」
俺は、そのリリアナの肩を、静かに手で制した。
そして、ゆっくりと振り返り、俺の仲間「だった」者たちと向き合った。
ガウェインの絶望。エルザの憎悪。リリアナの悲哀。
その全てを、俺はこの身に真正面から受け止めた。その表情は、もはや偽りの勇者のものではなく、全ての罪を受け入れ、断罪を待つ、かつての魔王の顔だった。
始まりの終わりで見た、あの断罪の炎が脳裏をよぎる。
だが、今度は違う。あの時は孤独な死だった。だが今は、俺を裁くべき者たちが、ここにいる。
「…それでいい」
俺は静かに言った。
「俺を憎め。俺を討て。お前たちには、その権利がある」
俺は、エルザの殺意に満ちた視線を、真っ直ぐに見返した。
「だが、それは、この化け物を滅ぼした後だ。お前たちの復讐を受ける前に、俺には俺自身の罪を清算する責任がある」
その言葉は、俺たちの間にあった最後の絆を断ち切った。
もはや、仲間ではない。
「魔王」と、「魔王を討つ者たち」。俺たちは、本来あるべき関係へと戻ったのだ。
そして、その前には、俺が生み出した共通の敵がいる。あまりにも歪で、悲劇的な、一時だけの共闘。
俺は、仲間たちの複雑な視線を背中に感じながら、再び混沌の化身と向き合った。
断罪の炎は、もうすぐそこまで来ている。
だが今度は、逃れようとは思わなかった。自らの意志で、その炎の中に身を投じる覚悟は、もうできていた。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
いつか優しく終わらせてあげるために。
イチイ アキラ
恋愛
初夜の最中。王子は死んだ。
犯人は誰なのか。
妃となった妹を虐げていた姉か。それとも……。
12話くらいからが本編です。そこに至るまでもじっくりお楽しみください。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
あなたが後悔しても、私の愛はもう戻りません
藤原遊
恋愛
婚約者のアルベルトは、優しい人だった。
ただ――いつも、私より優先する存在がいただけで。
「君は分かってくれると思っていた」
その一言で、リーシェは気づいてしまう。
私は、最初から選ばれていなかったのだと。
これは、奪われた恋を取り戻す物語ではない。
後悔する彼と、もう戻らないと決めた私、
そして“私を選ぶ人”に出会うまでの、静かな恋の終わりと始まりの物語。
真実の愛は水晶の中に
立木
恋愛
学園の卒業を祝うパーティーの最中、レイシア・マレーニ侯爵令嬢は第三王子とピンク髪の女、その取り巻きたちによって断罪されようとしていた。
しかし断罪劇は思わぬ方向へ進んでいく。
※AIイラスト使用
※「なろう」にも重複投稿しています。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる