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君との距離
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田舎の小さな病院は、午後になると必ず光が差し込む。
リハビリ室の窓から入る光は、患者の影を長く伸ばし、床にあたたかな模様を描いていた。
レンは、その光の中で姿勢を少しだけ縮めながら患者の歩行訓練を見守っている。
生真面目で、表情は固いけれど、声は驚くほど優しい。
「大丈夫です。ゆっくりで、いいですから」
患者が足を前に出すたび、レンも息を合わせるように小さく頷く。
そして少し離れた場所から、その様子をハルキが眺めていた。
彼は背が高く肩幅も広い。ガタイの良さのせいで“近寄りがたい”と初対面でよく言われるが、喋ると柔らかい。
けれど、深入りはしない。距離の取り方が絶妙なのだ。
訓練が終わり、患者が別室へ戻ると、ハルキが近寄ってきた。
「水瀬、さっきの声かけ良かった。ああいうの、患者さんに響くよ」
突然褒められ、レンは一瞬固まった。
慣れない。ハルキの言葉は、まっすぐすぎる。
「……ありがとう。でも、緊張した」
「え、緊張してたの?」
ハルキは笑って目を丸くする。
「うん。僕、人と話すの得意じゃないから…」
「そっかー。でも、俺は水瀬の“頑張って喋ろうとしてる感じ” 好きだよ」
レンの動きがぴたりと止まる。
「……好き?」
「あっ、いや、言葉のアヤっていうか……その……」
珍しく、ハルキが目をそらした。
深く関わりたくないはずの彼が、言葉を濁す。
そのことに、レンは気づいてしまう。
胸の奥が温かくなる。
---
業務が終わり、二人はいつものように同じ時間に帰り支度をしていた。
同期だから、休日の話も愚痴も、自然と共有してきた。
だけど今日は空気が違う。午前にこぼれ落ちた「好き」という言葉が残っていた。
病院を出ると、夕焼けが田んぼに映り、風景がどこか懐かしい色になる。
「……水瀬」
歩きだしてすぐ、ハルキが足を遅くした。
「今日さ、変なこと言ったかもしれない」
「変じゃなかったよ」
レンは立ち止まらず、淡々と言う。
けれど、耳が少し赤い。
それを見て、ハルキは思わず苦笑した。
「俺、あんまり他人と深く関わりたくないんだけどさ。
水瀬とは……関わりたい」
レンの歩みが止まる。
「僕も……話すの苦手だけど、ハルキには、僕の話を聞いてほしい」
沈黙が、ふわりと二人の間に落ちた。
夕焼けが、ふたりの影をゆっくりと重ねていく。
ハルキはレンの顔を見て、ためらいながら言葉を続けた。
「水瀬と話すが楽しいんだ…。
だから多分、レンの事…」
言いかけたところで、レンが服の袖をそっと摘んだ。
とても小さく、でも確かな力で。
「好き」
ハルキは数秒呼吸を忘れた。
夕焼けの風が吹き抜け、レンの髪を揺らす。
「水瀬」
「なに?」
「…もしさ…迷惑じゃなければだけど。
これからも…レンと一緒に帰っていい?」
レンの目がわずかに揺れ、はにかんだ笑顔で。
「うん…ハルキと一緒に帰りたい」
ハルキは照れ隠しのように頭を搔きながら
頷く
二人の手は触れて離れているけれど
田舎道を歩く影が、1つになっていく。
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田舎の小さな病院は、午後になると必ず光が差し込む。
リハビリ室の窓から入る光は、患者の影を長く伸ばし、床にあたたかな模様を描いていた。
レンは、その光の中で姿勢を少しだけ縮めながら患者の歩行訓練を見守っている。
生真面目で、表情は固いけれど、声は驚くほど優しい。
「大丈夫です。ゆっくりで、いいですから」
患者が足を前に出すたび、レンも息を合わせるように小さく頷く。
そして少し離れた場所から、その様子をハルキが眺めていた。
彼は背が高く肩幅も広い。ガタイの良さのせいで“近寄りがたい”と初対面でよく言われるが、喋ると柔らかい。
けれど、深入りはしない。距離の取り方が絶妙なのだ。
訓練が終わり、患者が別室へ戻ると、ハルキが近寄ってきた。
「水瀬、さっきの声かけ良かった。ああいうの、患者さんに響くよ」
突然褒められ、レンは一瞬固まった。
慣れない。ハルキの言葉は、まっすぐすぎる。
「……ありがとう。でも、緊張した」
「え、緊張してたの?」
ハルキは笑って目を丸くする。
「うん。僕、人と話すの得意じゃないから…」
「そっかー。でも、俺は水瀬の“頑張って喋ろうとしてる感じ” 好きだよ」
レンの動きがぴたりと止まる。
「……好き?」
「あっ、いや、言葉のアヤっていうか……その……」
珍しく、ハルキが目をそらした。
深く関わりたくないはずの彼が、言葉を濁す。
そのことに、レンは気づいてしまう。
胸の奥が温かくなる。
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業務が終わり、二人はいつものように同じ時間に帰り支度をしていた。
同期だから、休日の話も愚痴も、自然と共有してきた。
だけど今日は空気が違う。午前にこぼれ落ちた「好き」という言葉が残っていた。
病院を出ると、夕焼けが田んぼに映り、風景がどこか懐かしい色になる。
「……水瀬」
歩きだしてすぐ、ハルキが足を遅くした。
「今日さ、変なこと言ったかもしれない」
「変じゃなかったよ」
レンは立ち止まらず、淡々と言う。
けれど、耳が少し赤い。
それを見て、ハルキは思わず苦笑した。
「俺、あんまり他人と深く関わりたくないんだけどさ。
水瀬とは……関わりたい」
レンの歩みが止まる。
「僕も……話すの苦手だけど、ハルキには、僕の話を聞いてほしい」
沈黙が、ふわりと二人の間に落ちた。
夕焼けが、ふたりの影をゆっくりと重ねていく。
ハルキはレンの顔を見て、ためらいながら言葉を続けた。
「水瀬と話すが楽しいんだ…。
だから多分、レンの事…」
言いかけたところで、レンが服の袖をそっと摘んだ。
とても小さく、でも確かな力で。
「好き」
ハルキは数秒呼吸を忘れた。
夕焼けの風が吹き抜け、レンの髪を揺らす。
「水瀬」
「なに?」
「…もしさ…迷惑じゃなければだけど。
これからも…レンと一緒に帰っていい?」
レンの目がわずかに揺れ、はにかんだ笑顔で。
「うん…ハルキと一緒に帰りたい」
ハルキは照れ隠しのように頭を搔きながら
頷く
二人の手は触れて離れているけれど
田舎道を歩く影が、1つになっていく。
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