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23.活気
去年まではヴァルデン辺境伯の冬はとても静かだった。
領地は雪に沈み、秋までの疲れを癒やしているかのように、人も景色も動かなかった。
だが、今年は違った。
鍛冶屋跡はもう跡ではなく、鍛冶職人から鞣し職人へと鞍替えした男たちや、鍛冶職人へと戻ってきた男たちが忙しく火を焚き、鎚を振るっている。
領地の数カ所に作られた牧場の羊達が、荒れた田畑の草を食べるために移動するものだから、雪が踏み固められて人が歩けるようになっている。
時折、年老いた羊を解体して肉が売られると、人々は家から出て肉を買うために雪を除ける。
牧場の横に建てられた羊毛小屋では、汗だくの男達が刈り取った羊毛の処理に追われていた。
レオニダスは、こんなに活気に溢れた冬を知らなかった。
戦争中でさえ、鉄が手に入らないからと、鍛冶屋は冬になると早々に炉の火を落としていた。
全て、マルグリットのおかげだ――俺が殺しかけた領地を、彼女は生き返らせてくれたのだ。
レオニダスは口元を緩めると、手綱を持つ手に力を入れた。
早く戻らねば。マルグリットに報告しなければならない。
神殿からレースの技術をもぎ取ったあの日。
マルグリットは帰宅するなりオスカーを呼び出した。
「木工職人――ですか」
突然木工職人を探せと言われて、オスカーは唖然としたが、奥様のことだ。理由があるに違いないと、質問を飲み込んだ。
「ええ。神官長の息子さんだったそうよ。戦争中に片足を失ったと言っていたわ。その方を探してほしいの」
「片足を――その、失礼ですが、探し出してどうなさるおつもりで?賠償でもされるのですか?」
オスカーの困惑は尤もだった。
片足を失った男を木工職人として迎え入れられるはずがない。
だが、マルグリットの考えは違った。
「職人としてお迎えするのよ」
その職人が見つかったのだ。
レオニダスは曇天の空の下、馬を急がせた。
雪が降ると、動いていたとて馬の体が冷えてしまう――とはいえ、この馬にはアナグマの毛皮で作った防寒着を着せている。表面にはたっぷり脂もつけているから、多少の雪では濡れることはない。
それでも、若い頃から戦場を共にしてきたこの相棒を、寒さに震えさせたくはなかったのだ。
屋敷に戻るまでに、雪は降り始めてしまったが、馬もレオニダスも平気だった。
レオニダスは、マルグリットがつくらせた羊の毛を圧縮した生地のマントに感動していた。
野生の羊は繊維が良くないからと、この方法を思いついた妻は、やはり叡智の女神なのだろう。
圧縮羊毛は珍しいものではないが、この領地で作られたのは、レオニダスが知る限り、これが初めてだった。
来年の冬にはヴァルデン産の羊毛は飛ぶように売れることだろう。
レオニダスは、妻の功績に唇が緩むのを止められなかった。
「よかった。まだ生きておられたのですね」
「確信があったのではなかったのですか?」
ロニが素頓狂な声を上げるのを、オスカーが目で制した。
ロニは慌てて口を閉じたが、オスカーの目はロニを睨んでいる。誤魔化すように微笑むと、オスカーは少しだけ気まずそうに咳払いを一つして、視線をそらした。
「神官長さまがお亡くなりになったのは5年前だそうよ。もし、ご子息様がお亡くなりになっていたのなら、司祭さまが知らないはずはないでしょう?でも、司祭さまははっきりとおっしゃらなかったの。だから、生死までは聞いていないのだと思ったのよ」
マルグリットは、ロニとオスカーを興味深そうに交互に見つめながら言った。
ロニと目が合うと、ロニは可愛らしく微笑んだ。
なるほど。
「どうした?」
マルグリットがこっそりとほくそ笑んだのを見て、隣りに座っていたレオンが耳打ちした。
「あとで――」
マルグリットが耳打ちを返すと、レオンはくすぐったくて嬉しかった。
領地は雪に沈み、秋までの疲れを癒やしているかのように、人も景色も動かなかった。
だが、今年は違った。
鍛冶屋跡はもう跡ではなく、鍛冶職人から鞣し職人へと鞍替えした男たちや、鍛冶職人へと戻ってきた男たちが忙しく火を焚き、鎚を振るっている。
領地の数カ所に作られた牧場の羊達が、荒れた田畑の草を食べるために移動するものだから、雪が踏み固められて人が歩けるようになっている。
時折、年老いた羊を解体して肉が売られると、人々は家から出て肉を買うために雪を除ける。
牧場の横に建てられた羊毛小屋では、汗だくの男達が刈り取った羊毛の処理に追われていた。
レオニダスは、こんなに活気に溢れた冬を知らなかった。
戦争中でさえ、鉄が手に入らないからと、鍛冶屋は冬になると早々に炉の火を落としていた。
全て、マルグリットのおかげだ――俺が殺しかけた領地を、彼女は生き返らせてくれたのだ。
レオニダスは口元を緩めると、手綱を持つ手に力を入れた。
早く戻らねば。マルグリットに報告しなければならない。
神殿からレースの技術をもぎ取ったあの日。
マルグリットは帰宅するなりオスカーを呼び出した。
「木工職人――ですか」
突然木工職人を探せと言われて、オスカーは唖然としたが、奥様のことだ。理由があるに違いないと、質問を飲み込んだ。
「ええ。神官長の息子さんだったそうよ。戦争中に片足を失ったと言っていたわ。その方を探してほしいの」
「片足を――その、失礼ですが、探し出してどうなさるおつもりで?賠償でもされるのですか?」
オスカーの困惑は尤もだった。
片足を失った男を木工職人として迎え入れられるはずがない。
だが、マルグリットの考えは違った。
「職人としてお迎えするのよ」
その職人が見つかったのだ。
レオニダスは曇天の空の下、馬を急がせた。
雪が降ると、動いていたとて馬の体が冷えてしまう――とはいえ、この馬にはアナグマの毛皮で作った防寒着を着せている。表面にはたっぷり脂もつけているから、多少の雪では濡れることはない。
それでも、若い頃から戦場を共にしてきたこの相棒を、寒さに震えさせたくはなかったのだ。
屋敷に戻るまでに、雪は降り始めてしまったが、馬もレオニダスも平気だった。
レオニダスは、マルグリットがつくらせた羊の毛を圧縮した生地のマントに感動していた。
野生の羊は繊維が良くないからと、この方法を思いついた妻は、やはり叡智の女神なのだろう。
圧縮羊毛は珍しいものではないが、この領地で作られたのは、レオニダスが知る限り、これが初めてだった。
来年の冬にはヴァルデン産の羊毛は飛ぶように売れることだろう。
レオニダスは、妻の功績に唇が緩むのを止められなかった。
「よかった。まだ生きておられたのですね」
「確信があったのではなかったのですか?」
ロニが素頓狂な声を上げるのを、オスカーが目で制した。
ロニは慌てて口を閉じたが、オスカーの目はロニを睨んでいる。誤魔化すように微笑むと、オスカーは少しだけ気まずそうに咳払いを一つして、視線をそらした。
「神官長さまがお亡くなりになったのは5年前だそうよ。もし、ご子息様がお亡くなりになっていたのなら、司祭さまが知らないはずはないでしょう?でも、司祭さまははっきりとおっしゃらなかったの。だから、生死までは聞いていないのだと思ったのよ」
マルグリットは、ロニとオスカーを興味深そうに交互に見つめながら言った。
ロニと目が合うと、ロニは可愛らしく微笑んだ。
なるほど。
「どうした?」
マルグリットがこっそりとほくそ笑んだのを見て、隣りに座っていたレオンが耳打ちした。
「あとで――」
マルグリットが耳打ちを返すと、レオンはくすぐったくて嬉しかった。
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