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36.証明
カティアが屋敷へ呼ばれたのは翌日のことだった。
戦争中も一度も足を踏み入れたことのない場所に、カティアは初めて踏み入れる。
子供を大事そうに抱き直すと、迎えに来た兵士上がりの男の後ろをおずおずと歩く。
戦争中に見たことのある顔だ。カティアを買ったことはなかったが、レオニダスの天幕に行くと大抵この男がいた。
名前は確か――
「奥様。オスカーでございます。カティアをお連れしました」
そうだ。辺境伯の副官を務めていたオスカーだと、カティアは思い出した。
子供を抱く腕に力が入る。
「お入りなさい」
掠れても枯れてもいない、綺麗な声が部屋の中から響いた。
重そうな大きな扉が開かれると、質素だが小綺麗な部屋に座り心地の良さそうな椅子と机が置かれていた。
カティアは勧められるままに椅子に座ると、子供を隣に座らせようとしたが、カティアの不安が伝わったのだろうか。
子供はカティアから離れようとしなかった。
「結構よ。抱いておあげなさい」
机の向こうに置かれた椅子には、カティアが見たこともないほど美しく上品な女性と、昨日再会したばかりのレオニダスが座っていた。
レオニダスはあの頃と同じような冷たい表情でカティアを見ている。
そうだ。この人は自分を抱くときも、決して優しさは見せなかった。
カティアはぼんやりと、もう二度と思い出すことはないと思っていたあの頃を思い出していた。
「単刀直入に言おう。その子供がもしも俺の子供だと言うのなら、跡継ぎとして迎え入れたい」
レオニダスの言葉に、カティアの口元が緩んだが、すぐに子供を抱きしめるふりをして表情を隠した。
「こ……この子はシドニーと言います。き、昨日も言いましたが私はあれから辺境伯さまにしか抱かれておりません」
カティアが顔を上げながら言うと、レオニダスは気色ばんだが、すぐに奥方がレオニダスの左手に右手を重ねた。
「お前の言うことは事実です。お前を買ったことは旦那様からも聞いているわ」
慈悲深い声だが、どこか冷たい響きがすると、カティアは思った。
「過去は変えられない。で、あれば受け入れるのがわたくしの責任です」
「では――」
カティアが嬉しそうな表情を見せると、「ですが」と、マルグリットは遮った。
「その前に確認をさせてほしいの。その子はいつ生まれたのかしら」
カティアは子供をギュッと抱いた。
「こ、この子はレオニダス様の子です」
「それを確認するために聞いているの」
マルグリットの声に冷徹さが増した。
カティアはレオニダスに助けを求めるように視線を向けたが、レオニダスもまたカティアを静かに見つめるだけだった。
「な……夏ですわ。夏に決まっています。戦争が終わってすぐのでしたわ。暑い中納屋で一人で産んだんです」
「そう」
カティアの言葉に、マルグリットはレオニダスの手を握ったまま俯いてしまった。
レオニダスは、言葉を探しているようだった。
「レオニダス様。シドニーを跡継ぎに迎えてくださるんですよね?私も、一緒に」
「黙るんだ」
レオニダスの冷たい声がカティアの耳を突いた。
不穏な空気を察したのか、うとうととしかけていたシドニーは、恐怖で泣き出してしまった。
「ロニ。その子を少し連れて行って――お菓子でも食べさせてあげなさい」
部屋の隅で控えていたロニが、シドニーを抱こうとすると、カティアはシドニーを奪われまいと抱きしめた。
「危害は加えないわ。あなたとお話がしたいだけなの。あなたは、旦那様の妾になりたいのでしょう?」
驚きでカティアの手が緩んだ瞬間を見計らって、ロニはシドニーを抱いてさっさと部屋を出てしまった。
戦争中も一度も足を踏み入れたことのない場所に、カティアは初めて踏み入れる。
子供を大事そうに抱き直すと、迎えに来た兵士上がりの男の後ろをおずおずと歩く。
戦争中に見たことのある顔だ。カティアを買ったことはなかったが、レオニダスの天幕に行くと大抵この男がいた。
名前は確か――
「奥様。オスカーでございます。カティアをお連れしました」
そうだ。辺境伯の副官を務めていたオスカーだと、カティアは思い出した。
子供を抱く腕に力が入る。
「お入りなさい」
掠れても枯れてもいない、綺麗な声が部屋の中から響いた。
重そうな大きな扉が開かれると、質素だが小綺麗な部屋に座り心地の良さそうな椅子と机が置かれていた。
カティアは勧められるままに椅子に座ると、子供を隣に座らせようとしたが、カティアの不安が伝わったのだろうか。
子供はカティアから離れようとしなかった。
「結構よ。抱いておあげなさい」
机の向こうに置かれた椅子には、カティアが見たこともないほど美しく上品な女性と、昨日再会したばかりのレオニダスが座っていた。
レオニダスはあの頃と同じような冷たい表情でカティアを見ている。
そうだ。この人は自分を抱くときも、決して優しさは見せなかった。
カティアはぼんやりと、もう二度と思い出すことはないと思っていたあの頃を思い出していた。
「単刀直入に言おう。その子供がもしも俺の子供だと言うのなら、跡継ぎとして迎え入れたい」
レオニダスの言葉に、カティアの口元が緩んだが、すぐに子供を抱きしめるふりをして表情を隠した。
「こ……この子はシドニーと言います。き、昨日も言いましたが私はあれから辺境伯さまにしか抱かれておりません」
カティアが顔を上げながら言うと、レオニダスは気色ばんだが、すぐに奥方がレオニダスの左手に右手を重ねた。
「お前の言うことは事実です。お前を買ったことは旦那様からも聞いているわ」
慈悲深い声だが、どこか冷たい響きがすると、カティアは思った。
「過去は変えられない。で、あれば受け入れるのがわたくしの責任です」
「では――」
カティアが嬉しそうな表情を見せると、「ですが」と、マルグリットは遮った。
「その前に確認をさせてほしいの。その子はいつ生まれたのかしら」
カティアは子供をギュッと抱いた。
「こ、この子はレオニダス様の子です」
「それを確認するために聞いているの」
マルグリットの声に冷徹さが増した。
カティアはレオニダスに助けを求めるように視線を向けたが、レオニダスもまたカティアを静かに見つめるだけだった。
「な……夏ですわ。夏に決まっています。戦争が終わってすぐのでしたわ。暑い中納屋で一人で産んだんです」
「そう」
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レオニダスは、言葉を探しているようだった。
「レオニダス様。シドニーを跡継ぎに迎えてくださるんですよね?私も、一緒に」
「黙るんだ」
レオニダスの冷たい声がカティアの耳を突いた。
不穏な空気を察したのか、うとうととしかけていたシドニーは、恐怖で泣き出してしまった。
「ロニ。その子を少し連れて行って――お菓子でも食べさせてあげなさい」
部屋の隅で控えていたロニが、シドニーを抱こうとすると、カティアはシドニーを奪われまいと抱きしめた。
「危害は加えないわ。あなたとお話がしたいだけなの。あなたは、旦那様の妾になりたいのでしょう?」
驚きでカティアの手が緩んだ瞬間を見計らって、ロニはシドニーを抱いてさっさと部屋を出てしまった。
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