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37.猜疑
「あの子は夏に生まれたと言ったわね」
マルグリットの問いかけに、カティアは自分が失敗したことを理解した。
「いえ……秋……に近かったかもしれません――」
なんとか取り戻さないと。
膝の上で握りしめた手に汗が滲む。
「旦那様から伺った話では、あなたを最後に買ったのは秋の中頃だったそうね」
マルグリットの言葉に、レオニダスは頷いた。カティアも頷かねばならない。
「その後は戦況が変わったのと、冬になる前にあなた達は領地に戻った。記録にはそう書いてあるわ」
マルグリットはオスカーが手渡した記録を見ながら静かに言った。
「――間違いありません」
カティアは認めるしかなかった。
「そして、娼婦の支配人にも確認していたのだけど、あなた達は避妊薬を飲まされていたわね」
「ひ――避妊薬と言っても完璧ではありません。現に何人も妊娠した人がいましたし」
カティアは勝ち誇ったように笑った。事実を突きつけられたのなら、事実を返せばいい。簡単なことだ。
「そうね。でも、あなたが旦那様に買われたと知って、支配人はあなたに避妊薬だと偽って堕胎薬を飲ませていたそうなの」
マルグリットは表情を変えることなく、淡々と告げた。
カティアは思い出した。
レオニダスの天幕に行く前に、必ず避妊薬だと言って飲まされたあの薬湯。あれが堕胎薬だったのか――
「そんな――でも、でもシドニーはレオニダス様の」
「わたくしの旦那様の名前を呼んではなりません!」
マルグリットが大声を出すのを、レオニダスもオスカーも初めて見た。おそらく、ここにいないロニですら見たことがないはずだ。
「お前がいくらレオン様に抱かれたとしても、お前が旦那様の子を身ごもることはできない。できたとしても、夏にも秋にも生まれない」
マルグリットは立ち上がると、カティアに言った。
「出ていきなさい。あの可哀想な子供を連れて――ここにお前がいる理由などないのよ」
そう言うと、マルグリットは足早に部屋を出ていった。
「マリー!待ってくれ」
レオニダスも慌てて追いかけると、取り残されたカティアは力が抜けたように、椅子に体を埋めていた。
「すまなかった。マリー!」
寝室に駆け込んだマルグリットに追いつくと、レオニダスは妻の体を抱きしめて何度も謝った。
マルグリットの体は小さく震えている。
自分の過去が、マルグリットを傷つけたことに、レオニダスはどうしていいかわからなかった。
「マリー。すまない。悪かった。君が与えるどんな罰でも受け入れる」
マルグリットを抱きしめたまま、髪を無でなだめるように言った。
「怖かった――怖かったのです」
マルグリットの震える声が、レオニダスの胸の中で響いた。
「わたくしは、まだあなたの子を身ごもっていません。もし、あの女が本当にあなたの子を産んでいたらと思うと、怖かったのです」
「すまない」
「あの女が、あなたに触れるのが、あなたが、あの女に触れるのが怖かった――嫌です。あなたの妻はわたくしです!」
マルグリットの顔は涙で濡れていた。ほつれた髪が貼り付き、いつも微笑んでいる顔が悲しみで歪んでいる。
「約束してください。二度と他の女を抱かないと。髪の毛一つたりとも触れさせないと」
泣きじゃくりながらマルグリットは、レオニダスにしがみついている。
レオニダスは初めて、マルグリットが自分より10も下の年若い女性だと言うことを認識した。
「約束する。俺には一生マリーだけだ」
わあわあと声をあげて泣く妻を、レオニダスはより一層愛しさを込めて抱きしめた。
マルグリットの問いかけに、カティアは自分が失敗したことを理解した。
「いえ……秋……に近かったかもしれません――」
なんとか取り戻さないと。
膝の上で握りしめた手に汗が滲む。
「旦那様から伺った話では、あなたを最後に買ったのは秋の中頃だったそうね」
マルグリットの言葉に、レオニダスは頷いた。カティアも頷かねばならない。
「その後は戦況が変わったのと、冬になる前にあなた達は領地に戻った。記録にはそう書いてあるわ」
マルグリットはオスカーが手渡した記録を見ながら静かに言った。
「――間違いありません」
カティアは認めるしかなかった。
「そして、娼婦の支配人にも確認していたのだけど、あなた達は避妊薬を飲まされていたわね」
「ひ――避妊薬と言っても完璧ではありません。現に何人も妊娠した人がいましたし」
カティアは勝ち誇ったように笑った。事実を突きつけられたのなら、事実を返せばいい。簡単なことだ。
「そうね。でも、あなたが旦那様に買われたと知って、支配人はあなたに避妊薬だと偽って堕胎薬を飲ませていたそうなの」
マルグリットは表情を変えることなく、淡々と告げた。
カティアは思い出した。
レオニダスの天幕に行く前に、必ず避妊薬だと言って飲まされたあの薬湯。あれが堕胎薬だったのか――
「そんな――でも、でもシドニーはレオニダス様の」
「わたくしの旦那様の名前を呼んではなりません!」
マルグリットが大声を出すのを、レオニダスもオスカーも初めて見た。おそらく、ここにいないロニですら見たことがないはずだ。
「お前がいくらレオン様に抱かれたとしても、お前が旦那様の子を身ごもることはできない。できたとしても、夏にも秋にも生まれない」
マルグリットは立ち上がると、カティアに言った。
「出ていきなさい。あの可哀想な子供を連れて――ここにお前がいる理由などないのよ」
そう言うと、マルグリットは足早に部屋を出ていった。
「マリー!待ってくれ」
レオニダスも慌てて追いかけると、取り残されたカティアは力が抜けたように、椅子に体を埋めていた。
「すまなかった。マリー!」
寝室に駆け込んだマルグリットに追いつくと、レオニダスは妻の体を抱きしめて何度も謝った。
マルグリットの体は小さく震えている。
自分の過去が、マルグリットを傷つけたことに、レオニダスはどうしていいかわからなかった。
「マリー。すまない。悪かった。君が与えるどんな罰でも受け入れる」
マルグリットを抱きしめたまま、髪を無でなだめるように言った。
「怖かった――怖かったのです」
マルグリットの震える声が、レオニダスの胸の中で響いた。
「わたくしは、まだあなたの子を身ごもっていません。もし、あの女が本当にあなたの子を産んでいたらと思うと、怖かったのです」
「すまない」
「あの女が、あなたに触れるのが、あなたが、あの女に触れるのが怖かった――嫌です。あなたの妻はわたくしです!」
マルグリットの顔は涙で濡れていた。ほつれた髪が貼り付き、いつも微笑んでいる顔が悲しみで歪んでいる。
「約束してください。二度と他の女を抱かないと。髪の毛一つたりとも触れさせないと」
泣きじゃくりながらマルグリットは、レオニダスにしがみついている。
レオニダスは初めて、マルグリットが自分より10も下の年若い女性だと言うことを認識した。
「約束する。俺には一生マリーだけだ」
わあわあと声をあげて泣く妻を、レオニダスはより一層愛しさを込めて抱きしめた。
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