上 下
1 / 16
第一章 英雄の帰還

1 未来の3人

しおりを挟む
 2022年。人類はあるウイルスによって、滅亡の危機に迫っていた。

 「おい!奴はどこに行った!?」

 屈強な男達が松明の光を辿りに、慌ただしく捜索する。

 「もし……もし奴が町に降りたら…!」

 【ヴェロウイルス】感染したら最後、恐ろしい怪物、【ジャナヴァル】へと変貌を遂げ、人間を襲う。

 「しかしなぜ!?まだ<あの男>は感染から24時間もたっていないはずだ!」

 ヴェロウイルスは感染から72時間程経った後、怪物へと変化する。

 だからそれまでに感染者を<駆除>しなければならない。

 「お、おい……お前…後ろ……」

 一人の男が怯えた様子で指さす。

 キキキキキ……!

 暗闇の中、不気味な音が鳴り響く……。

 コォォォォ……

 夜風がどんどん加速していく……

 「あぁ!!嫌だぁ!!!」

 コォォォォ……!

 <オッド襲撃事件>。後にそう呼ばれる出来事。

 これはまだ、始まりに過ぎない……。





 「アラン見~っけ!」

 大人達が来ない森の中。ここは最高の遊び場だ。

 「くそー!お前見つけるの上手いなぁ!」

 茂みの中から顔を出し、負けを認める。

 「そ、そんなことないよ…」

 その少年がこちらの機嫌を伺うように言う。

 ユン……ユン・ウォーレン。こいつはいつもこうだ。

 「ねぇアラン。ユン。もう帰りなさい」

 後ろから少女が声をかける。

 「またお前かよワズ……いっつもどっから現れてんだよ?」

 「いいから。帰って」

 うちの隣に住んでるザビエル家の長女、ワズ。長女と言ってもひとりっ子だけど。
 
 いつも俺やユンが遊んでるところに突如として現れ、一緒に遊ぶ時もあれば、日が沈むから帰れとだけ言う時もある。

 どうみても年下の少女なのに、しっかりしてるなといつも思う。

 「はぁ…ワズが来たならもう時間だな。帰るか、ユン」

 「うん!検査に遅れてもいけないしね」

 検査。一日一回行われ、ヴェロウイルスに感染しているかどうかを検査する。

 毎日行うことで、感染者が怪物になる前に駆除することができる。

 赤い夕日が3人を照らし出す………

 「うわぁ綺麗だね……」

 「そうね。この景色が永遠に続けばいいのに…」

 「永遠……。なぁユン、ワズ。俺ら三人って……大人まで生きれるのかな」

 毎日何人もの感染者が駆除されている。もちろんアラン達が住んでいる、オッドでも。

 20年後。10年後。5年後……。

 いや…たった1年後ですら生きている保証はない。

 神はなぜ、こんな試練を与えるのだろうか。
 
しおりを挟む

処理中です...