血の医者〜僕らの仕事は人を殺すことです〜

タコオカ

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第一章 英雄の帰還

2 悲劇の始まり

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 家に帰る頃には、日が沈みかけていた。

 「おお、おかえり」

 隣に住むザビエルさんが外で畑を見ていた。ザビエル・ハンソンさん。ワズの父だ。

 こんな遅くまでご苦労なことだ。

 「あ、どうも。ワズはもう帰ってきましたか?」

 「あぁ。ついさっき帰ってきたよ」

 「そうですか……」

 なぜ先に帰宅し始めた俺より早く着いているのか。

 やっぱりあの子は不思議だ。

 そのままただいまと家に入る。

 「おかえり、アラン。もうメディクスの人来てるよ」

 【メディクス】人類最終機関と呼ばれており、日々ヴェロウイルスへの対抗策を模索している組織。町ごとに担当が決まっており、検査を受け持っている。

 「し、か、も!今日は英雄の人よ!」

 「え!!ほんと?タイガさんが!?」

 【英雄】メディクスの中でも戦闘を担当している集団。人類で唯一、ジャナヴァルに対抗できる者達であり、それぞれご特殊な能力を持っているらしい……。

 タイガ・バース、彼もその一人。

 「って言われちまってよぉ!女は怖えよなぁ~~」

 「おお!分かる分かる!さすがの天下の英雄さんでも嫁さんには勝てねぇか!」

 父とタイガさんはとても仲が良く、いつも酒を酌み交わしている。

 「タイガさん、今日も英雄の話してよ!」

 「おぉ、ボウズ。大きくなったなぁ。今いくつだっけ?」

 「タイガさん……飲み過ぎ!毎日会ってるじゃん!12だよ12!ほら、あと4年でメディクスの試験受けれるんだよ!」

 「おぉ……子どもってのは健気でかわいいねぇ。俺も子ども欲しい……嫁の病気さえなければなぁ…」

 「かわいいってなんだよ!俺は真剣にヴェロウイルスから世界を守りたいんだ!」

 「分かった、分かった。アラン。もう時間だ。タイガを返してあげないと」

 「え~もっと話していたかったのに!」

 早くメディクス……いや英雄として活躍したい。そんな夢を持つ俺にとって、タイガさんの話は貴重だ。

 「安心しろボウズ。明日も来るさ!じゃあな!」

 タイガさんが帰ろうとする……が。母が話しかける。

 「ちょっと待ってよタイガさん。まだ検査してないわよ」

 「あ、そっか忘れてた忘れてた」

 タイガさんがカバンからピンク色の宝石を取り出し、父の額につける。

 「ほいほい~っと」

 忘れていたのは……俺達かもしれない。

 ヴェロウイルスの恐怖を。

 ピカーーーー……。

 父の額で、宝石が白く光った。

 「え?」

 「え?」

 「は?」

 「うそ……」

 背筋が凍る。冷や汗がつたる。

 「しまった……」

 タイガさんがそう呟いた。

 「残念……だが。レオナルド・ロバーツ……感染……」

 父はその日。メディクスの処理場へと連れて行かれた。





 翌日。アラン家にはユンが来ていた。

 「アラン!どうしよう!お父さんとお母さんが……感染しちゃった!!」

 目に涙を浮かべるユン。

 「君のお父さんと一緒に来て……僕の父と母のおでこで白くピカーって!ねぇ!なんで?なんで君のお父さんがいたの!?ねぇ……なんで!なんで……父さんと母さんなの……」

 しがみつき、啜り泣くユン。苦しいだろう。悲しいだろう。そりゃそうだ、俺も父が感染したんだから。

 だが……俺の心を支配している感情は違った。

 「そうか……ユンもか」

 「ユンも……?」

 「俺の……父さんは昨日感染した。だからタイガさんと一緒にいたんだと思う」

 「嘘……じゃあなんで……そんなに悲しんでないの……?」

 悲しんでない……?そんなことはない。悲しい。
 今にも涙が出そうだ。でも……

 「怒りが……止まらないんだ……自分への」

 「怒り……?」

 「俺は何もできなかった。何が世界を救いたいだ……何が英雄だ……自分の家族一人救えないで……」

 「アラン……」

 だが、悲劇はここで終わらなかった。

 この日、2022年6月6日。

 【オッド襲撃事件】当日である。
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