血の医者〜僕らの仕事は人を殺すことです〜

タコオカ

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第一章 英雄の帰還

14 作戦決行1

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 捜査は順調に行われていた。

 "敵"は姿を隠す技術を持っていないのか……はたまた医療班の捜査力が高いのか……。

 ミナさんのリーダーシップは圧倒的だった。

 ミナさんの裏表ない純粋な心は他の医療班全員から好感を持たれていた。

 そして彼女はそれだけではない。

 彼女は強い。

 身体的にではなく精神的にである。

 とても親友を失った後とは思えない。

 みんなミナさんを尊敬している。ミナさんが諦めないからみんなも諦めない。

 急に歌を歌ったり変なことを言わなければ完璧な女性だなと思う。

 結果、捜査は死者を出すことなく終了した。

 

 「う~ん。ここの山を住処にしてるみたいだね。連れ去った人も今のところ無事みたいだ」

 大きく広げた地図を指差す。

 「ただ気掛かりなのが…なぜこれまで発見されていなかったのかが不思議なくらい簡単に見つけることができたことだね……。何か……嫌な予感がするよ」

 「心配ありませんよミナさん。すぐに向かいましょう。怪物はたった一匹。ここには俺だけじゃなくアランやユンといった優秀な戦士もいます」

 あれ?俺は?とハリスさんが呟いているがその通りだ。

 「そうですミナさん。母たちの命が保障されたわけじゃない。早く助けに行かせてください」

 「ん~。ただ万全を機すなら【バリム】や【シウギ】のメディクスに応援に来てもらいたいところだけど……【バリム】は今感染者が多いらしいし……【シウギ】はビルドゥー教の奴らから目が離せないだろうし……」

 ミナさんが深く考えこむ。

 「う~ん。よし!いい作戦思いついた!」

 



 「おいアラン?お前緊張してるだろ?」

 「ええ、そりゃあしてますよ」

 ハリスさんと俺は山の茂みに隠れている。






 今回の作戦はこうだ。

 「う~ん。しばらく監視してみたけど特に目立った行動は起こさないね。時折全身かツルツルで固そうな怪物が周囲を警戒してるね」

 ツルツルで固そう……そういえば【血の英雄】に『亀』とかいう甲羅という部位を持った生物がいたな…。

 「あの挙動不審な感じ……何かもっと大きな存在に怯えてるみたいだった。多分あいつは【盾の怪物】で間違い無いと思う。連れ去られた6人と【盾の怪物】以外の姿は見えなかったから、多分……奴、【針の怪物】は他のところに隠れてる」

 【盾の怪物】をあいつと呼んでいるのに対して、【針の怪物】は奴と呼んでいる。普段俺たちには何も悟らせないが、ミナさんも相当な恨みを持っているらしい。

 「で、今回は【盾の怪物】の捕獲を優先的にしよう」

 「捕獲……?ぶっ飛ばすんじゃないんですか?」

 「う~ん。ぶっ飛ばしたいのは山々だけどさ、多分彼ら"敵"は知性があるんだよね。連れ去ったりとかしてるし。だから捕まえて本拠地をあぶり出そうと思うんだ。でも……あくまで優先だからね。【永眠病】の人の命に関わるならすぐに倒してしまって構わない」

 ってことで、とミナさんが、地図を取り出す。

 「今回の作戦で絶対にあいつを逃したくない。私たち医療班200名を、山を囲むように配置し、一人一人に笛とメスを持たせる。メスにはロープをつけ、それをまた自分にくくりつけさせる。これがどう言うことかわかる?」

 「えっと……メスを落とさないようにするとか?」

 「ううん。違うね。メスを刺したら自身が重りになれるようにだよ」

 「え?それって……!」

 「いいかい。これは人類の平和のための作戦だよ。医療班の中には家族をヴェロウイルスによって失った人もたくさんいる。私たちは命を懸ける。一つの命で怪物の動きを鈍くできたら儲けもんだよね」

 「ミナさん……」

 「まぁだれも死にたくないし、死にそうな方に賭けようなんて思わないよね?さぁ、ここで君たちメディクスの番さ」
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