【R18】肉食聖女と七人のワケあり夫たち

千咲

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第一夜

034.紫の君との初夜(一)

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紫の君の境遇が悲惨(性的虐待児)です。苦手な方は読み飛ばし推奨です。

◆◇◆◇◆

 紫の国の夫は盲目だ。たぶん、扉の近くまで従者と一緒に来るだろう。そこから先は、わたしが夫をサポートしなければ。「よし!」と気合いを入れて、紫色の扉の前で待つ。
 そうして、紫の扉が開きゆっくりとした動作で現れたのは、リヤーフよりも幼い美少年だ。背はわたしより少し高いくらい。長い薄紫色の髪は三つ編みにし、肌は透き通るように白い。伏し目がちな葡萄色の瞳が美しい。ゴテゴテとした服ではなく、簡素な藤色の衣服を着ている。

「聖女様、いらっしゃいますか?」
「はい、ここに。一緒に行きましょ」

 扉の向こうから、心配そうな表情で従者が覗いていたので、一応「大丈夫ですよ」と声をかけておく。ホッとしたのか、従者が扉を閉めてくれた。

「歩数を数えたりする?」
「聖女様が毎回迎えに来てくださるなら覚えなくてもすむのですが、どうですか?」
「じゃあ、毎回迎えに来るよ。わたしは和泉。あなたは?」
「ボクはウィルフレド。よろしくお願いいたします、イズミ様」

 丁寧な仕草で頭を下げるウィルフレドに、育ちの良さを感じる。きっと高貴なお方なんだろう。
 ウィルフレドはわたしの左腕に掴まる。白杖に代わるような棒は持っていない。この世界には杖を使う習慣がないのかな? 点字ブロックなんてものもないから、ウィルフレドはわたしの誘導だけが命綱だ。責任重大である。

「今、廊下を真っ直ぐ歩いてる。わたしの部屋までは廊下一本ね。廊下の右側の壁を伝って行って、一番手前がわたしの部屋になるよ」
「わかりました」
「ウィルはすぐ寝る? それとも何か飲んだりする?」
「一緒に眠りたいです」

 ふわっと花が咲くような、人形みたいな笑顔。文句なしの美少年だ。目が見えていれば、きっとここに来ることはなかっただろう。同じように可愛らしい子と結婚して、わたしが授ける命の実を待っていただろう。運命とは残酷なものだ。

「ウィルは若いのね」
「はい。先日、成人したばかりです」

 紫の国の成人年齢を聞いて、ちょっと後悔した。元の世界なら、確実に捕まる年齢だったもの。マジか。若すぎるなぁ。

「紫の国って遠いの?」
「はい。馬車で……十日はかかります」

 馬車がどれだけ進むものか知らないから、十日かかるのが遠いのか近いのかはよくわからない。舗装された道ではないだろうし、十日も馬車に揺られていたら体に負担がかかりそうだ。景色も見えないから、楽しくはない旅程だっただろう。

「お尻痛くなかった?」
「痛いですよ。毎日軟膏を塗っていました」

 美少年のお尻の皮がめくれてしまったところを想像して、「ひえぇ」と情けない声が出た。それは痛いだろうな。かわいそうに。お尻はあまり触らないようにしてあげないと。
 部屋につくと、まずは支度部屋の扉までの歩数を数える。紙に控えておこうかと提案したけれど、「頭に入りますので」とやんわり断られた。物覚えがいいんだなぁ、と感心する。それから、支度部屋を通り、寝室にたどり着く。
 まずはベッドに誘導し、靴を脱いで上がってもらう。ウィルフレドの寝相がいいといいんだけどな。落ちちゃうと大変だもの。

「イズミ様」

 甘えたような声で、ウィルフレドはわたしの名前を呼ぶ。可愛い。ランプを枕元に置いて、夫の隣に座る。ペタペタとあちこち触られながら、その暖かい手のひらが頬に向かっているのに気づく。
 ウィルフレドは微笑んだかと思ったら、いきなり、キスをしてきた。最初から舌を挿れてくるなんて、積極的じゃないの、美少年!
 キス大好きなわたしは、もちろんそれに応じる。舌をつつき、絡め、吸う。鼻息が荒くなっていないか冷静に判断しながら。
 ところで、寝間着のボタン外すの早いね、ウィルフレド? あなた、若いのにかなり手慣れているわね? まぁそれは別にいいんだけど。美少年とのギャップが、ほら、うん、うん? もう紐引っ張った? 準備終わるの早すぎない?

「ウィル?」
「触れられるのはお嫌ですか? お嫌でしたら、我慢いたしますが」
「あ、大丈夫。好きなように触っていいよ、ウィルはわたしの夫だもの」
「良かったです。ボク、何でも触って形を確認する癖があるものですから」

 目が見えないのなら、触って形を想像するしかないよねぇ。頭の中で組み立てる、立体パズルみたいなものなのかも。
 ウィルフレドは顎から順に、首や二の腕、脇に触れていく。くすぐったいなぁ、なんて思っていたら、またいきなりペロリと舐められた。さっき触ったところを順に舐めている。手の甲、指先までしっかりと口に含まれる。

「触るだけじゃなくて、舐めるのも好きなの?」
「……ええ。イズミ様、すごく美味しい」

 美少年、えろいね。そういうギャップ、大好きよ。ウィルフレドに脇を舐められるとさすがに我慢ができなくて、抑えていた声が零れる。ゾクリ粟立つ感触に、下腹部がいち早く反応する。
 まずいな、もう舐められるだけで濡れちゃう体になってる。そのうちキスだけでイッてしまうようになるかもしれない。犬か、わたしは。それは嫌だな。愛撫が楽しめなくなる。いや、逆に楽しめるのかな? よくわかんないや。

「背中に触れたいです」なんて可愛くおねだりされたら、ひっくり返るしかない。ウィルフレドは背中の形を確かめたあと、ゆっくりと舐め始める。彼はまさか全身を舐めるつもりなのかしら? セルゲイは足だけだったけど、ウィルフレドもそういう系?

「ふふ、柔らかい」

 ウィルフレドはわたしのお尻にキスをしながら、そう笑う。脂肪がたっぷり詰まっているはず。こっちに来てから体重計には乗っていないけど、割とヘルシーな食事ばかりだし、夜毎大運動会を繰り返しているから、そこまで太っていないと思いたい。

「イズミ様、もう少しお尻上げられますか?」
「……え?」
「お尻を」

 すっごい不穏な言葉が聞こえた気がする。四つん這いになれってこと? ちょっと待ってね、わたし、そこは未開拓なんだけど。

「ひゃあ!」

 ちょっとお尻を上げただけで、ウィルフレドはいきなりペロリと舐めてきた。どこをって、お尻の穴を。
 ちょっと! ストップ! ストォップー! ウィルフレドー! ウィルフレッッドォー!

「ダメ! ウィル、そこはダメ!」
「イズミ様?」
「そこは舐めるところじゃないの!」

 そこは挿れるところではなくて、出すところなの! わたしにとってはね!
 身の危険を感じたわたしは、慌てて掛け布団を体に巻きつける。とりあえず下半身は隠さなきゃ! ウィルフレドはきょとんとしたままだ。

「舐められるのはお好きではないのですね、わかりました。では、潤滑油をいただけますか?」
「話が噛み合ってない……!」
「ほぐしておかないと痛いですよ?」
「ちょっと待って! 待って! ウィルは今まで、どんなセックスを、性交渉をしてきたのよ!?」

「どんな?」とウィルフレドは可愛らしく小首を傾げて、大変な爆弾を投下した。

「先ほど舐めた穴を使うものですが」

 このいたいけな美少年にアナルセックスを教えたやつは、どこの、誰っ!?
 盲目の美少年がアナルセックスを知っているなんて、状況がおかしすぎる。男が好きなだと言うのなら、わたしに触れられることすら苦痛なはずなのに、ウィルフレドはそうじゃない。むしろ積極的だった。
 可能性の一つを思い浮かべ、わたしはゾッとする。
 性的虐待――夫を昔の自分と重ね合わせて、泣きそうになる。自身のアナル開発の危機より、彼が置かれていた境遇が憐れすぎて、涙が出そう。

「い、いつから、経験が?」
「もう二年ほどでしょうか。慣れておりますから、大丈夫ですよ」

 二年も前から!? 今の年齢から二年前って……そんな年齢の少年に、なんてことを。なんて酷いことを!
 盲目だけでも十分「ワケあり」なのに、何で彼にこんな苦しみを与えたのか。しかも、人為的に。マジ、狂ってる。

「気持ち良くして差し上げますから」

 わたし、ウィルフレドのこの笑顔が一番しんどい。
 わかってしまった。彼はわたしだ。ここに来る前のわたしだ。男に媚びるしかなかった、わたしだ。
 ウィルフレドは、わたしに媚びている。そうしないと生きられなかった彼なりの処世術なんだとわかっている。
 だから、悲しい。そんなことしなくても大丈夫なのに。わたしは裏切らないのに。

 わたしは、初めて、服を着たくなった。七人の夫に会って初めての感情だ。
 この美少年を抱いていいものか。抱いちゃいけないんじゃないのか。わたしの中にわずかに残る良心みたいなものが葛藤し始めた。
 彼を「普通」に戻すには、確実に長期戦になる。その覚悟がわたしにはあるのか、ってことなんだよね、これ。ラルスに命の実をあげるのが遅くなっちゃうのも、申し訳ない。
 でも、でも、やっぱり今の彼は抱けないよ。ラルス、ごめん!


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