【R18】肉食聖女と七人のワケあり夫たち

千咲

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第一夜

040.【幕間】初夜翌日(茶紫)

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【茶の君】

「ベアナード様、どうでしたか? 聖女様と仲良くなれましたか?」

 エアニーはニコニコ笑いながら、ソファに座ったベアナードに尋ねる。主人が小さく頷いたのを見逃す従者ではない。「良かったですねぇ!」と手を叩きながら大喜びをする。

「聖女様はどんな方ですか? 可愛らしい方ですか? お綺麗な方?」
「……可愛い」
「わぁ、いいですねぇ! 僕もお会いしたいですけど、難しいですよねぇ。我慢します」

 ベアナードは「我慢」と呟いて、右手を見つめる。エアニーも主人の手のひらを覗いてみるが、何か文字が書かれているわけではない。何が我慢なんだろう、とエアニーは小首を傾げる。

「ベアナード様は聖女様を気に入りましたか?」
「……オレの顔を、体を、怖くないと、言っていた」
「当たり前ですよ! ベアナード様は格好いいです!」
「お前と同じことを、イズミも言っていた」
「じゃあ、僕、聖女様とお友達になれそうですねぇ」

 エアニーはベアナードの格好良さを話し合える友達ができそうだ、くらいの軽さで発言したのだが、ベアナードは突然大きめの声で「ダメだ」と発した。ベアナードがはっきりくっきり拒絶を示すのは珍しい。エアニーは目を輝かせる。

「どうしてもダメですか? 会わせてくれませんか?」
「……ダメだ」
「ベアナード様のケチ」
「……ケチで構わん。お前と会わせたくない」

「えぇー、酷いー!」とエアニーは抗議するが、ベアナードの嫉妬心に気づいて、内心喜んでいる。無口で強面な主人が執着するほどに心を許したのだと理解したエアニーは、嬉しくて仕方がない。
 家柄は大変いいのに、ベアナードは見合いをするたび令嬢から怖がられ、怯えられ、泣かれ、強く拒絶され続けたのだ。断り切れなかった令嬢から婚約解消を求められたことも多々ある。そのたびにベアナードは落ち込み、誰にも心を開かなくなっていった。
 そんなベアナードを、聖女は「格好いい」と言った。大変喜ばしいことだ。

「ベアナード様の良さに気づくなんて、素晴らしい奥様ですねぇ。見る目がありますねぇ」
「……ああ」
「大事にしないといけませんねぇ」
「……大事、の中に、約束を守る、も含まれるか?」
「当たり前じゃないですか! 約束を守らなければ男が廃りますよ! 格好悪いですよ! 破ったら聖女様に嫌われちゃいますよ!」

 エアニーの言葉に、ベアナードは「うむ」と小さく頷く。聖女と主人がどんな約束をしたのかはエアニーの知るところではないが、聖女から嫌われるのだけは避けなければならないと従者は説く。夫婦の信頼関係は壊してはならないのだ。

「どんな約束をなさったのですか? 僕にお手伝いできることはありますか?」
「……大丈夫。耐える」
「内緒ですね、わかりました。頑張ってください、ベアナード様!」

 ベアナードはまた右手に視線を落とし、ぎゅっと握りしめた。「耐える」と再度呟いて。


◆◇◆◇◆


【紫の君】

「ボクの体をイズミ様が綺麗にしてくださいました」
「おや、湯殿へ参られたのですか?」
「いえ、イズミ様がボクの体を、余すところなく、口で清めてくださいました」

 主人の言葉に一瞬動揺したものの、クレトは「それは良かったですね」と言うに留めた。既にウィルフレドは邸宅の内部構造をすべて把握しているため、クレトの介助は必要がない。しかし、勾配のついた廊下は感覚が狂うため、従者は宮から戻ってきた主人の手を引いて歩いている。

「ボクはずっとここにいていいのだと、イズミ様から教えていただきました」
「そうですか。仲睦まじいことは良いことです。命の実も、すぐに宿ることでしょう」
「大主教様もお喜びになられますか?」

 ウィルフレドの無垢な問いに、クレトはとびきりの笑みを浮かべる。

「ええ、それはもちろん、大主教様は大変お喜びになられるでしょう」
「それは良かったです」
「命の実がなったら、一番に聖女様に食べていただきましょうね」
「そうですね! イズミ様がボクの子を生めば、ボクの穢れがすべて清められるんですよねぇ。とても嬉しいです」

 命の実を聖女に与えることが何を意味するのか、クレトは知っている。ウィルフレドが知っているかどうかはわからない。大主教が言い包めたか、騙されているのか、それはクレトのあずかり知るところではない。

「聖女様に愛していると伝えましたか?」
「はい。大変喜んでおられました」
「毎回、必ず伝えましょうね」
「はい、そうします」

 聖女に紫の君の子を――それは、紫の国の人間なら誰しもが願っていることだ。黄の国ばかりに利権を与えてはならない、他の国より先んじなければならない、国民皆がその後ろ暗い気持ちを持ち続けている。クレトもその一人である。

「ボクの穢れが早くなくなるといいですねぇ」

 ウィルフレドは微笑む。周りの思惑を知っているのか、知らないのか、それは誰にもわからぬままに。


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