【R18】月光の誘惑《番外編》

千咲

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月下の桜(八)

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 土曜日、あかりの頭は痛み止めのおかげか痛くはないようだった。縫うほどの怪我でもなかったようなので、安心する。
 ……本音を言えば、やはり少しは不満だったけど。あかりを閉じ込めておく機会が失われたということだから。

「無理はしないでね」
「大丈夫。頭が痛くなるようなことはしないよ」
「でも、セックスはするんだろ?」
「……翔吾くん、妬いてる?」

 セミダブルのベッドの中で、裸のあかりを抱きすくめて、苦笑する。
 妬いている。当たり前だ。

「妬くよ。俺だってあかりの体を夜通し堪能したい」
「もう。クリスマスイブまで待ってね」
「年末年始は実家? 初詣は? 姫始めは誰とするの?」
「年末年始はここにいるよ。初詣は行かないかな。姫始めは……翔吾くん、したい?」
「したい」

 あかりの耳元に唇を寄せて囁く。あかりの体がふるりと震えるのがかわいい。

「来年も、再来年も、あかりを抱きたい」
「翔吾くん、彼女作らないつもりなの?」
「あかり以上に好きになれる人ができたらね」
「翔吾くんイケメンだからすぐに――んん」

 うるさい唇を塞ぐ。他の女の話なんて、今は聞きたくない。考えたくもない。
 両手をベッドに押さえつけて、舌を求め合いながら、ゆっくりあかりの体の上に移動する。硬く勃ち上がってきたモノをあかりの太腿になすりつけて、誘う。

「翔吾、壊れちゃう」
「壊したいの、あかりを」

 俺がそうであるように、あかりも欲に狂って欲しい。俺に、狂って欲しい。

「この部屋はあかりの匂いばかりで、すぐに勃っちゃう。抑えられないよ」
「もー、仕方ないなぁ」

 仕方ない、じゃなくて、欲しくて欲しくてたまらない、って言わせたい。いつか。

「翔吾、抱いて」

 かわいくねだってくるセフレに恋をするなんて、本当に不毛だ。
 俺はもう、彼女に溺れている。


◆◇◆◇◆


 週明けには、洋介が満面の笑みで「杉田と付き合うことになった!」と報告してきた。
 誠心誠意、口説き落としたらしい。そして、その末「友達からなら」という言葉を引き出して、長い長い片想いに終止符を打ったようだ。
 ……友達とすら思われていなかったのか? それは付き合うってことなのか? という無粋なツッコミはやめておいて、ただ「良かったな」とだけリアクションしておいた。
 洋介が幸せそうで何よりだ。
 杉田と洋介はうまくいくような気がしている。想われているほうが楽だと、杉田が早く気づいてくれるといいんだけど。

 想うのはしんどい。
 どんなに体を重ねても、愛の言葉を囁いても、それに応じてはくれない罪な女。
 でも、想わずにはいられない。
 願わずにはいられない。

「翔吾くん」

 ホテルのロビーで待ち合わせ。
 真っ黒なアンゴラのコートの裾から、ワンピースのオレンジ色が見え隠れする。プレゼントしたものをおとなしく着てきてくれたようだ。
 髪は少しアップにして、オレンジ色の髪飾りでまとめてある。頭の怪我はもう大丈夫のようだ。オレンジ色はクリスマスカラーではないけれど、あかりによく似合う色だ。

「こんばんは、あかり」
「着替えていたら遅れちゃった。待った?」
「今来たところだよ」

 一時間前からここにいたのに、くだらない嘘をつく。あかりは俺を見上げて、微笑む。

「翔吾くん、スーツ着ると王子様みたいだね」
「じゃあ、あかりはお姫様かな?」
「……ごめんね、それはちょっと、恥ずかしい……言葉を間違えたね」
「わかってるよ。カッコいい、ってことでしょ?」
「うん、そう、カッコいい」

 あかりと腕を組んで、ホテルの階上にあるレストランへ向かう。夜景が見られるフレンチだけど、きっとあかりは夜景なんか気にせず、料理をちょっとずつ美味しそうに食べるんだろうなと想像して、俺は笑う。

「翔吾くん、いいことあった?」
「クリスマスイブに好きな人と過ごせる、っていういいことがあった」

 あかりは「良かったね」と笑う。
 あかりのことだって、わかってる?

「私もね、いいことがあったんだよ」
「へぇ、何?」

 美味しいケーキを食べたとか、美味しい和菓子をもらったとか、そういうことかな、と想像する。あかりの「いいこと」はお手軽なものだ。
 エレベーターが音もなくどんどん上がっていく。密室には二人きり。でも、キスはさせてもらえなかった。部屋まで我慢、我慢。

「今日、仕事終わりだったんだ」
「へぇ……え、終わり?」
「引き継ぎも滞りなく、すませたよ」
「……じゃあ」

 あかりの笑顔に隠された意味に、ようやく気づく。
「クリスマスは仕事」と言っていたけど、何時間かしか一緒にいられないと思っていたけど。まさか、そんな、まさか。

「明日は……?」
「お休み。明後日もお休み。来年の五日までゆっくりできるよ」

 人生初、セフレと過ごす年末年始。時間を気にせず、あかりの体を堪能できる、甘い甘い蜜月。

「……勃った」
「翔吾くん、隠して! 着くよ!」

 サンタクロース、ありがとう。
 これこそ、最高のクリスマスプレゼントだ。


◆◇◆◇◆


「わぁ、スゴい! 何、この部屋!?」
「スイートルーム」
「広い! キレイ! 高そう!」

 広くて綺麗だから高いんだけどね。
 部屋に入った瞬間に抱きついてあかりにキスをしようとしたら、逃げられた。部屋のドアを開けながら、「スゴい」を繰り返すあかりを見て、二人分のコートとジャケットをクローゼットにしまい、荷物を置く。
 ディナーでは、やはり夜景など一切見ないあかりが「美味しい」を繰り返していた。相変わらず少食で、結局デザートを食べる前に満腹になってしまって悔しがっていた。それでも、一口二口食べるうちに皿が綺麗になっていたのだから、別腹というものがあるのだろう。

「お風呂がスゴいよ、翔吾くん!」
「あとで一緒に入ろう」
「ベッドはどっちを使うの?」
「どっちを使ってもいいよ」

 浴室はガラス張りのジャグジーバス。ベッドルームは二つ。窓は大きく、近くには他に高層ビルがないから、夜景が綺麗に見える。
 ネクタイを緩め、ボタンを外す。そして、うろうろ動き回るオレンジ色をようやく腕の中に閉じ込める。

「ひゃ、翔吾くん?」
「あかりは語彙力が貧弱だなぁ」
「そう?」
「美味しいとスゴいしか言っていないよ」

 腕の中で俺を見上げて、あかりは「ほんとだ」と笑う。まぁ、レポーター顔負けの食レポを披露されても驚くけど。

「翔吾くん、ありがと――んんっ」

 ――黙って。
 グロスと口紅ごと唇を奪って、あかりの柔らかい体のラインに指を這わせる。早く繋がりたい。けど、まだ我慢。舌を味わいながら、少しずつ窓際に追い込んでいく。

 窓の外は、この時期だけのきらびやかなイルミネーションの海。赤に緑に、青に白。どんな明かりも、今目の前にいるあかりと比べたら、霞んでしまう。
 俺が今一番欲しいのは――輝く海の中にいる、天使。窓際に追い詰められて、困惑しているオレンジ色の女神。

「あかり」
「翔吾くん、窓、冷たいよ?」
「大丈夫。今から熱くしてあげる」

 襟からネクタイを抜き取って、あかりの手首に巻きつける。強すぎないように、弱すぎないように、逃げられないように、捕らえる。

「今日は、そういうプレイ?」
「嫌い?」
「……嫌いじゃない」

 なら、良かった。
 二十センチほどある窓の縁にあかりを座らせて、キスをする。やっぱり、あかりが一番綺麗だ。イルミネーションの海に、オレンジ色が映える。
 ヒールのあるパンプスを床に落とし、ベージュのストッキングの上からつま先に舌を這わせる。押し殺したような甘い吐息が降ってくる。舐って、キスをして、撫でて、少しずつ上へと移動していく。
 オレンジ色の裾から太腿へと手を差し込み、いつもと違う手触りに、一瞬手を止める。太腿の、肌に、触れた?

「……パンストじゃ、ない?」
「ストッキングにしてみたよ。脱がしやすいかなと、思っ」

 かわいいな、あかりは。脱がしやすいとか、破れないようにとか、気にしなくてもいいのに。買ってあげるのに。
 あかりは縛られた腕を俺の頭に通し、お互いの唇を貪り合う。グロスも口紅も落ち、唾液だけがツヤツヤと光る。
 ワンピースの背中のファスナーをおろし、ブラジャーのホックを外し、寒さで身じろぎするあかりに構わず、柔らかな双丘を揉みしだく。キスをしながら突起を親指で弾くと、「ふあ」と甘い声が漏れる。
 かわいい。
 むしゃぶりつきたい気持ちを抑えて、キスをしながら乳首を捏ねる。ビクと震えるあかりがかわいい。乳房のほうを愛撫するだけだと大して感じないらしく、柔らかさを堪能するだけだと不満そうな視線を寄越してくる。

「あかり、どうして欲しい?」
「……舐めて」
「どこを?」
「ひゃっ、あっ、んん」

 乳首をきゅっと摘むと、嬌声が上がる。嬌声ごと唇を塞いで、乳首をいじめる。
 あかりの両足が俺の背中に巻き付き、はしたなく腰が揺れる。そんな痴態すら愛おしい。
 もっと、欲しがって。
 もっと、ねだって。
 もっと――。

「しょーご、おねが、なめ、っ」
「どこを?」

 頬を朱に染めたあかりが、俺の耳元で囁く。彼女にとっては羞恥心を煽られるものの名称でしかなくても、俺にとっては最高のご馳走だ。
 望まれるまま、乳首に舌を這わせて、熱を帯びた指をショーツに滑り込ませる。しっとりと湿った茂みを進み、蜜に濡れる花弁をたどり、泉のように溢れ出る蜜口に指を添える。

「ん、ふ……っ」

 くちゅくちゅといやらしい音が俺の興奮を煽る。ワンピースは溢れた愛液で既に濡れてしまっている。あかりは窓ガラスに頭と肩を預け、快感に打ち震えている。真っ赤になっちゃって、かわいい。周囲の窓ガラスが少しずつ曇り始める。

「……しょーご……っ、挿れて?」
「何を? どこに?」
「やぁっ」

 意地悪をして啼かせるのは、悪くない。
 何もかもが甘い。乳首も、唇も、声も。気のせいであっても、あかりの体は、匂い立つほどに甘い。

「んっ、ゆび、挿れてっ」
「指でいいの?」

 乳首をコリと歯で軽く噛むと、あかりがぎゅうと抱きついてくる。痛い、とは聞こえない。
 中指の第一関節だけ膣口に挿れて、乳首を甘噛みする。甘い吐息が俺の意識を侵食してくる。
 早く挿れたい。挿れて、出したい。
 でも、我慢。あと少し我慢。

「翔吾、お願い」
「指?」
「もっと、硬くて、太いの、欲しい」

 指はいいの?
 いいの。もう我慢できな――っ!
 中指をぐぐっと挿れて、蜜で溢れる膣壁を擦る。あかりの嬌声をキスで塞ぎながら、手早くベルトを外し、スラックスを寛げ、屹立した陰茎をボクサーパンツから取り出す。硬く滾ったその先端からは、ぬるりと先走りが溢れている。
 あぁ、挿れたい。

「あかり」
「ん、うっ?」
「俺だけ、見て」
「ん、見て、る」
「今は、俺のことだけ、見て」
「翔吾く、んっ」

 今だけでいい。
 セックスをしている間だけ、俺のことだけ考えて。俺のものでいて。

 俺だけの、あかりで、いて。

「あかり、好きだよ」

 その言葉に答えがなくても、いい。
 その愛に応じられなくても、いい。
 今は、ただ――俺のことだけ。

 中指を膣内から引き抜き、ズルリとワンピースを滑らせて、あかりの腰を抱き寄せる。裾をめくり上げ、さらに足を上げさせて、蜜口に亀頭を宛てがう。

「あかり、しっかり掴まっていてね」

 あかりがしっかりと俺の首に抱きついたのを確認して、俺は一気に彼女の隘路を割って肉棒を押し進めた。

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