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月下の桜(九)
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「んっ、あ、やっ」
あかりがぎゅうと抱きついてくる。足を俺の腰に絡め、落ちないようにしっかりしがみついている。その、熱も重さも、愛しい。
あかりの腰を支えながら、深く繋がれたことに安堵する。耳元で聞こえる嬌声に、意識がとろけそうになる。腰を動かせば体力は一気に奪われていくけれど、それすら気持ちいい。
不安定な交わりは、安定を求めてお互いを強く結びつけるだけ。
「だ、め、ふかっ、んんっ」
「奥、当たるね。気持ちい?」
「ん、いいっ」
なら、よかった。
イルミネーションは今日、明日までのものだ。刹那的な幻想の中で、好きな女を抱くことができる歓びを、好きな女が自分を求める悦びを、最大限に感じたい。
ぐちゅぐちゅという卑猥な音と、布と肉が擦れる音、二人の荒い息づかいだけが響く。深く繋がってはいるものの、体位と体力的に抽挿は浅くなる。けれど、奥に何度も何度も亀頭が擦れて、否応なしに射精感が高められてくる。
……果てたい。
一番奥に、熱くて真っ白な精液を吐き出して、冷たくどす黒い欲望であかりを汚したい。
汚して、捕らえて、閉じ込めておきたい。
そんな邪な願いを抱く。
でも、残念ながら、サンタクロースは年に何度も願いを叶えてくれはしない。あかりと出会えたことが今年のクリスマスプレゼントなら、もう来年まで贈り物はないはずだ。
シャツが汗で張り付いて気持ち悪い。暖房なんか必要ないくらい、熱い。
「あかりっ、いい?」
「来てっ、翔吾っ」
今日は「好き」と言ってくれないんだね。
こんな、「嘘」の関係に一番ふさわしい言葉なのに。
意地悪な思いと、駆け上ってくる欲望を、ぐちゃぐちゃにかき混ぜて。
深く深く繋がったまま、その最奥に己の醜い欲望を弾けさせる。何度も精液を吐き出して、あかりの中を汚す。
あかりはとても綺麗なのに、どうして俺の想いはこんなに醜いのか――本当に、嫌になる。
「……っ、あかり」
窓の縁に座らせて、陰茎を引き抜く。そのまま、中指を挿れて、「やだっ」と喚くあかりの唇を塞ぐ。ショーツはお互いの体液でぐしょぐしょに濡れそぼっている。
不安定な場所でのセックスで、あかりはイケていない。だから、クリトリスを親指で弾いて、彼女の絶頂を誘う。
おいで、あかり。
俺だけイクなんて、フェアじゃないでしょ。
「んんんっ、しょ、っあぁ」
「いいよ」
おいで。
窓際に追い詰め、快楽の淵に追い詰め、俺はただ願う。
クリスマスが来るたびに、俺とのセックスを思い出して欲しい、と。
「んんっ」
中の締め付けが強くなる。何度か収縮を繰り返して、俺の指を、刺激を誘う。あかりがまた強く抱きついてくる。唾液が顎を伝い、汗が滑り、ワンピースの上に落ちる。
「っあ!」
ビク、とあかりの体が跳ね、ぎゅっと俺の指を締めつける。窓越しのイルミネーションの海の中で、俺の腕の中で、切なく喘ぐあかりがかわいい。震えるあかりが愛しい。
ねぇ、あかり、気持ち良かった?
「やっ、あ!」
イッた直後に乳首を舐めると、体がすぐに反応する。ビクビクしてかわいい。中指を抜いて舐めると、ほんのり潮の味。薄い海の味。あかりのすべてが美味しいと思う。
あかりは窓に体を預けたまま俺をぼんやりと見つめてくる。俺と目が合うと、荒い息のまま微笑んでくれる。
「ごめ、ね……汚し、ちゃっ、た」
「いいよ。そのために買ったものだから」
男が服をプレゼントするのは、脱がしたいからか、着たまま犯したいからかに決まっている。オレンジのワンピースが汚れても、ワインレッドのニットワンピースがある。あ、でも、下着はなかったか。
「あかり、気持ち良かった」
「私も。ありがと」
触れるだけのキスをして、抱き合う。
クリスマスイブは、あかりと過ごす聖なる夜は、まだ始まったばかり。
一晩でどれだけあかりを汚せるか――楽しみだ。
◆◇◆◇◆
「ジャグジー、いいねぇ! スーパー銭湯みたいで」
真っ白なバスローブ姿で現れたあかりは、クイーンサイズのベッドにダイブした。髪はまだ乾かしていないのか、半乾きなのか、水滴がついている。
先にシャワールームから出てきた俺は、ソファに座ったままスマートフォンからメッセージを一通送る。ヴヴとサイドテーブルに置いてあるあかりのスマートフォンが揺れた。
「んー? 誰からだろ?」
ベッドの上をのそのそと這いながら、あかりはスマートフォンを取る。そして、違和感にようやく気づく。
「……あれ? これ、翔吾くんの、じゃ、ない? 私の?」
「メリークリスマス」
「わぁ、かわいい!」
あかりのスマートフォンに取り付けたのは、ぴったりのスマホカバーだ。背面にプリントがしてある透明なタイプのもの。
「桜に、三日月……かわいい。綺麗」
下部に桜の木が描かれ、上部に三日月が浮かぶ。赤いスマートフォンが、夕焼けの景色を描く。
桜と月は、俺とあかり。
歴代の彼女にあげたものの中ではかなりチープなクリスマスプレゼント。なのに、あかりは目を細めて喜んでいる。
……その無邪気な笑顔を、見たかったんだ。
「あかり」
ベッドに横たわるあかりにのしかかって、背後から耳を唇で食む。あかりはスマートフォンのメッセージを読んだあとで、くるりと体を反転させた。顔は真っ赤だ。仰向けになったあかりを組み敷いて、キスをする。
「誰から?」
「……セフレさんだよ」
「どんな人?」
熱い頬にキスをして、あかりの言葉を待つ。あかりは「うぅん」と悩んで、微笑む。
「かわいくて、サッカーやってて、腹筋がすごくて、優しくて、プレゼント魔で、キスが上手で」
「顔は?」
「あ、すごくイケメン。カッコいいよ?」
「……セックスの相性は?」
あかりは微笑みながら、俺の首に手を回してくる。行儀の悪い足が、俺のバスローブの中に侵入してくる。
「セックスの相性は……いい、よ」
「すごく?」
「すごく。優しく抱いてくれるの……翔吾くん、勃ってる」
当たり前だ。勃たないわけがない。
薄く開いた唇に舌を挿れて、あかりの舌を求める。彼女はすぐに応じてくれる。生温く、甘い熱。
バスローブの帯を解いて、柔らかな白い肌に指を這わせる。しっとり濡れている肌は、相変わらず冷たい。湯冷めしないよう、気をつけてあげないと。
「プレゼント、ありがと、翔吾」
「うん。あかりからは?」
「……んう」
スマートフォンのメッセージ画面に表示された文字。それを読み上げるだけでいい。
俺から、あかりにねだることは一つ。
「嘘をついて、俺を騙してよ」
「クリスマス、だから?」
「クリスマスだから」
真っ赤なあかりは一瞬だけ視線をさまよわせて、唇をきゅっと結んだ。
わかっている。
あまり口にしない言葉だって。
だから、今日、今夜だけでいい。
――俺を、騙して。
「ほ、本当に言うの?」
「言って」
「……一回しか言わないよ?」
「ダメ。俺の誕生日にも言って。年に二回でいいから」
年に二回の嘘でいい。
俺に、夢を見させて。
ねぇ、かわいいサンタクロース。
また一年、イイコにしているから。
「翔吾」
「はい」
カチリ、視線が合う。
その澄んだ瞳に、俺の欲にまみれた顔を映して。
あかりは顔を赤らめながら、唇を動かした。
『クリスマスプレゼントは、ただ一言、あかりの言葉が欲しい』
今夜だけは、俺の手に堕ちてきてよ、綺麗なお月様。
「あ、……あいしてる」
真っ赤になったあかりから零れた言葉を耳に刻みつけて、俺はその柔らかい唇を優しく塞ぐ。
夜は長い。何度も何度も昇り詰めさせてあげる。欲を吐き出して、あかりの中を俺で満たしてあげるから。
優しい嘘をついて、俺を騙し続けて――。
◆◇◆◇◆
ワインレッドのニットワンピースは、やっぱりあかりにはよく似合った。サイズもピッタリ。
しかし、あかりはもじもじと恥ずかしそうに足を擦り合わせている。仕方がない。ショーツが乾いていなかったんだから。
「ノーパンで家まで帰るの、嫌だなぁ」
「タクシーで送っていくよ」
「ほんと? ありがとう!」
「風邪引いちゃうでしょ」
電車で帰って痴漢に遭ったらどうするんだ、と考えなかったわけじゃない。あわよくば、このまま冬休みをあかりのアパートで過ごせないか、と考えなかったわけじゃない。
俺の頭の中は、既に桜が満開だ。
上階のラウンジで会計はすませてある。エレベーターの中であかりの腰を抱きながら、今日からの予定を考える。
あかりが下着をはいたら、今日はどこに行こう? あかりは寒いところが苦手だから、暖かいところがいいなぁ。海外に行くのはどうだろう。あかりはパスポート、持っているかな。
年末年始は、音楽番組を見ながらゆっくりセックスをするのもいいし、初詣に出かけて甘酒を飲んだあとにセックスでもいいかもしれない。
「翔吾くん、ニヤけすぎ」
「え、そう?」
「やらしいこと考えていたんでしょ」
「当たり前じゃん」
そう、当たり前だ。
俺はハタチで、隣にはノーパンの、俺の惚れた女。欲情するなというほうが無理だ。
「早くあかりを抱きたい」
「昨日からかなり抱かれていますけど? 朝も何回したんでしたっけ?」
「足りないよ」
足りるわけがない。
あかりの不満そうな顔。俺も不満そうな顔をして、彼女の額にキスを落とす。密室のエレベーター内でこれ以上手を出すと、俺が我慢できなくなる。
「んもー、ごまかさないで」
「朝は二回。夜は四回。足りないなぁ」
あかりが「私は満腹なのに」とぶつぶつ呟いているのを無視して、笑う。
好きだよ、あかり。
ずっと、そばにいてよ。
セックスだけの関係でいいから。
桜はどんなに枝を伸ばしても、月には届かない。俺がどれだけ想っても、あかりは振り向いてはくれない。
俺が進むのは、気まぐれな月が堕ちてくるのを待つだけの、茨の道。
けれど、月が堕ちてくる日が来るとは限らない。
でも、いつかそのときが来たら、俺は喜んで、君にすべてを捧げるよ。
「あかり、メリークリスマス」
斜め下からの笑顔に、俺は恋に落ちた。
「メリークリスマス、翔吾くん」
偽りの恋に、終わりが来ないことを願うなんて、バカげているけど。
願わずにはいられない。
メリー、クリスマス。
「月下の桜」了
あかりがぎゅうと抱きついてくる。足を俺の腰に絡め、落ちないようにしっかりしがみついている。その、熱も重さも、愛しい。
あかりの腰を支えながら、深く繋がれたことに安堵する。耳元で聞こえる嬌声に、意識がとろけそうになる。腰を動かせば体力は一気に奪われていくけれど、それすら気持ちいい。
不安定な交わりは、安定を求めてお互いを強く結びつけるだけ。
「だ、め、ふかっ、んんっ」
「奥、当たるね。気持ちい?」
「ん、いいっ」
なら、よかった。
イルミネーションは今日、明日までのものだ。刹那的な幻想の中で、好きな女を抱くことができる歓びを、好きな女が自分を求める悦びを、最大限に感じたい。
ぐちゅぐちゅという卑猥な音と、布と肉が擦れる音、二人の荒い息づかいだけが響く。深く繋がってはいるものの、体位と体力的に抽挿は浅くなる。けれど、奥に何度も何度も亀頭が擦れて、否応なしに射精感が高められてくる。
……果てたい。
一番奥に、熱くて真っ白な精液を吐き出して、冷たくどす黒い欲望であかりを汚したい。
汚して、捕らえて、閉じ込めておきたい。
そんな邪な願いを抱く。
でも、残念ながら、サンタクロースは年に何度も願いを叶えてくれはしない。あかりと出会えたことが今年のクリスマスプレゼントなら、もう来年まで贈り物はないはずだ。
シャツが汗で張り付いて気持ち悪い。暖房なんか必要ないくらい、熱い。
「あかりっ、いい?」
「来てっ、翔吾っ」
今日は「好き」と言ってくれないんだね。
こんな、「嘘」の関係に一番ふさわしい言葉なのに。
意地悪な思いと、駆け上ってくる欲望を、ぐちゃぐちゃにかき混ぜて。
深く深く繋がったまま、その最奥に己の醜い欲望を弾けさせる。何度も精液を吐き出して、あかりの中を汚す。
あかりはとても綺麗なのに、どうして俺の想いはこんなに醜いのか――本当に、嫌になる。
「……っ、あかり」
窓の縁に座らせて、陰茎を引き抜く。そのまま、中指を挿れて、「やだっ」と喚くあかりの唇を塞ぐ。ショーツはお互いの体液でぐしょぐしょに濡れそぼっている。
不安定な場所でのセックスで、あかりはイケていない。だから、クリトリスを親指で弾いて、彼女の絶頂を誘う。
おいで、あかり。
俺だけイクなんて、フェアじゃないでしょ。
「んんんっ、しょ、っあぁ」
「いいよ」
おいで。
窓際に追い詰め、快楽の淵に追い詰め、俺はただ願う。
クリスマスが来るたびに、俺とのセックスを思い出して欲しい、と。
「んんっ」
中の締め付けが強くなる。何度か収縮を繰り返して、俺の指を、刺激を誘う。あかりがまた強く抱きついてくる。唾液が顎を伝い、汗が滑り、ワンピースの上に落ちる。
「っあ!」
ビク、とあかりの体が跳ね、ぎゅっと俺の指を締めつける。窓越しのイルミネーションの海の中で、俺の腕の中で、切なく喘ぐあかりがかわいい。震えるあかりが愛しい。
ねぇ、あかり、気持ち良かった?
「やっ、あ!」
イッた直後に乳首を舐めると、体がすぐに反応する。ビクビクしてかわいい。中指を抜いて舐めると、ほんのり潮の味。薄い海の味。あかりのすべてが美味しいと思う。
あかりは窓に体を預けたまま俺をぼんやりと見つめてくる。俺と目が合うと、荒い息のまま微笑んでくれる。
「ごめ、ね……汚し、ちゃっ、た」
「いいよ。そのために買ったものだから」
男が服をプレゼントするのは、脱がしたいからか、着たまま犯したいからかに決まっている。オレンジのワンピースが汚れても、ワインレッドのニットワンピースがある。あ、でも、下着はなかったか。
「あかり、気持ち良かった」
「私も。ありがと」
触れるだけのキスをして、抱き合う。
クリスマスイブは、あかりと過ごす聖なる夜は、まだ始まったばかり。
一晩でどれだけあかりを汚せるか――楽しみだ。
◆◇◆◇◆
「ジャグジー、いいねぇ! スーパー銭湯みたいで」
真っ白なバスローブ姿で現れたあかりは、クイーンサイズのベッドにダイブした。髪はまだ乾かしていないのか、半乾きなのか、水滴がついている。
先にシャワールームから出てきた俺は、ソファに座ったままスマートフォンからメッセージを一通送る。ヴヴとサイドテーブルに置いてあるあかりのスマートフォンが揺れた。
「んー? 誰からだろ?」
ベッドの上をのそのそと這いながら、あかりはスマートフォンを取る。そして、違和感にようやく気づく。
「……あれ? これ、翔吾くんの、じゃ、ない? 私の?」
「メリークリスマス」
「わぁ、かわいい!」
あかりのスマートフォンに取り付けたのは、ぴったりのスマホカバーだ。背面にプリントがしてある透明なタイプのもの。
「桜に、三日月……かわいい。綺麗」
下部に桜の木が描かれ、上部に三日月が浮かぶ。赤いスマートフォンが、夕焼けの景色を描く。
桜と月は、俺とあかり。
歴代の彼女にあげたものの中ではかなりチープなクリスマスプレゼント。なのに、あかりは目を細めて喜んでいる。
……その無邪気な笑顔を、見たかったんだ。
「あかり」
ベッドに横たわるあかりにのしかかって、背後から耳を唇で食む。あかりはスマートフォンのメッセージを読んだあとで、くるりと体を反転させた。顔は真っ赤だ。仰向けになったあかりを組み敷いて、キスをする。
「誰から?」
「……セフレさんだよ」
「どんな人?」
熱い頬にキスをして、あかりの言葉を待つ。あかりは「うぅん」と悩んで、微笑む。
「かわいくて、サッカーやってて、腹筋がすごくて、優しくて、プレゼント魔で、キスが上手で」
「顔は?」
「あ、すごくイケメン。カッコいいよ?」
「……セックスの相性は?」
あかりは微笑みながら、俺の首に手を回してくる。行儀の悪い足が、俺のバスローブの中に侵入してくる。
「セックスの相性は……いい、よ」
「すごく?」
「すごく。優しく抱いてくれるの……翔吾くん、勃ってる」
当たり前だ。勃たないわけがない。
薄く開いた唇に舌を挿れて、あかりの舌を求める。彼女はすぐに応じてくれる。生温く、甘い熱。
バスローブの帯を解いて、柔らかな白い肌に指を這わせる。しっとり濡れている肌は、相変わらず冷たい。湯冷めしないよう、気をつけてあげないと。
「プレゼント、ありがと、翔吾」
「うん。あかりからは?」
「……んう」
スマートフォンのメッセージ画面に表示された文字。それを読み上げるだけでいい。
俺から、あかりにねだることは一つ。
「嘘をついて、俺を騙してよ」
「クリスマス、だから?」
「クリスマスだから」
真っ赤なあかりは一瞬だけ視線をさまよわせて、唇をきゅっと結んだ。
わかっている。
あまり口にしない言葉だって。
だから、今日、今夜だけでいい。
――俺を、騙して。
「ほ、本当に言うの?」
「言って」
「……一回しか言わないよ?」
「ダメ。俺の誕生日にも言って。年に二回でいいから」
年に二回の嘘でいい。
俺に、夢を見させて。
ねぇ、かわいいサンタクロース。
また一年、イイコにしているから。
「翔吾」
「はい」
カチリ、視線が合う。
その澄んだ瞳に、俺の欲にまみれた顔を映して。
あかりは顔を赤らめながら、唇を動かした。
『クリスマスプレゼントは、ただ一言、あかりの言葉が欲しい』
今夜だけは、俺の手に堕ちてきてよ、綺麗なお月様。
「あ、……あいしてる」
真っ赤になったあかりから零れた言葉を耳に刻みつけて、俺はその柔らかい唇を優しく塞ぐ。
夜は長い。何度も何度も昇り詰めさせてあげる。欲を吐き出して、あかりの中を俺で満たしてあげるから。
優しい嘘をついて、俺を騙し続けて――。
◆◇◆◇◆
ワインレッドのニットワンピースは、やっぱりあかりにはよく似合った。サイズもピッタリ。
しかし、あかりはもじもじと恥ずかしそうに足を擦り合わせている。仕方がない。ショーツが乾いていなかったんだから。
「ノーパンで家まで帰るの、嫌だなぁ」
「タクシーで送っていくよ」
「ほんと? ありがとう!」
「風邪引いちゃうでしょ」
電車で帰って痴漢に遭ったらどうするんだ、と考えなかったわけじゃない。あわよくば、このまま冬休みをあかりのアパートで過ごせないか、と考えなかったわけじゃない。
俺の頭の中は、既に桜が満開だ。
上階のラウンジで会計はすませてある。エレベーターの中であかりの腰を抱きながら、今日からの予定を考える。
あかりが下着をはいたら、今日はどこに行こう? あかりは寒いところが苦手だから、暖かいところがいいなぁ。海外に行くのはどうだろう。あかりはパスポート、持っているかな。
年末年始は、音楽番組を見ながらゆっくりセックスをするのもいいし、初詣に出かけて甘酒を飲んだあとにセックスでもいいかもしれない。
「翔吾くん、ニヤけすぎ」
「え、そう?」
「やらしいこと考えていたんでしょ」
「当たり前じゃん」
そう、当たり前だ。
俺はハタチで、隣にはノーパンの、俺の惚れた女。欲情するなというほうが無理だ。
「早くあかりを抱きたい」
「昨日からかなり抱かれていますけど? 朝も何回したんでしたっけ?」
「足りないよ」
足りるわけがない。
あかりの不満そうな顔。俺も不満そうな顔をして、彼女の額にキスを落とす。密室のエレベーター内でこれ以上手を出すと、俺が我慢できなくなる。
「んもー、ごまかさないで」
「朝は二回。夜は四回。足りないなぁ」
あかりが「私は満腹なのに」とぶつぶつ呟いているのを無視して、笑う。
好きだよ、あかり。
ずっと、そばにいてよ。
セックスだけの関係でいいから。
桜はどんなに枝を伸ばしても、月には届かない。俺がどれだけ想っても、あかりは振り向いてはくれない。
俺が進むのは、気まぐれな月が堕ちてくるのを待つだけの、茨の道。
けれど、月が堕ちてくる日が来るとは限らない。
でも、いつかそのときが来たら、俺は喜んで、君にすべてを捧げるよ。
「あかり、メリークリスマス」
斜め下からの笑顔に、俺は恋に落ちた。
「メリークリスマス、翔吾くん」
偽りの恋に、終わりが来ないことを願うなんて、バカげているけど。
願わずにはいられない。
メリー、クリスマス。
「月下の桜」了
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