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第一章 望まぬ聖女召喚
第四十五話 聖女様のお披露目(アルヴァン視点)
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主役を抜きにしたお披露目。それは、一見普通ではないかのように感じられるかもしれないが、権力者……特に、命を狙われるような人物のお披露目となれば、全く無いわけではない。
この場合、影武者を立てて、その人物が主役であるかのように見せるのだが、今回、その影武者に抜擢されたのはルーナだった。王家の影であり、様々な変装も得意とするルーナ。聖女様と背格好も似ており、自衛手段を多く持つ彼女であれば、どんな危険があろうとも生還できる。それだけの信頼があったのだ。
しかし、当然のことではあるものの、聖女様本人にはお披露目のことも、ルーナが影武者を務めることも何も明かしてはいない。
実際に話をしてみると、思っていた年齢よりはしっかりと受け答えができる方だと感じはしたものの、それでもまだまだ子どもであろう聖女様に負担をかけることはしたくなかった。
……そう、言えれば良かったのだが、現実にはそれだけではなく、様々な思惑が絡んだ結果でもある。こればかりは、いかに王太子という立場にあったとしても完全なコントロールはできなかった。
「さて、今日は、重大な発表がある。皆も薄々感じてはいるだろうが、今、この城には瘴気を浄化する力を持つ者が存在している」
発表の場は、まず、貴族達を集めた会場で行う。そして、その後に民へのお披露目という流れで決定していた。
現在、城の大広間には様々な貴族の当主や次期当主が集まっている。
瘴気が広まる前であれば、この場は夜会などになっていたのだろうが、もはやそんな余裕は我が国にはない。それでも、少しでももてなしをしたいということで、多少の食事は用意してもらい、軽く摘めるようにはしていた。
華やかな場所でもない、ただ広いだけのその場所で、様々な情報交換をしていたであろう彼らは、私の言葉で息を呑む。
「彼女の名前は伏せさせてもらうが、彼女は、神より我が国に遣わされた聖女様だ。さぁ、聖女様、こちらへ」
そう言って、私はトツキ様に変装して、ベールを被ったルーナをエスコートする。
おずおずと、いかにも緊張しているような雰囲気で私の手を取り、歩き始めたルーナの姿に、それが別人であることを疑う者は居ない。
「聖女様は、この世界に遣わされた際、悪しき魔女によって声を奪われてしまった。しかし、それでも我々を救うために、毎日浄化を行ってくださっている」
本当は、声が出ないことを伝えるのはリスクが高いと考えていた。しかし、そうでもしなければ、貴族達は聖女様が声を出さないことに納得しないだろう。執拗に話しかけられて、返答ができない状態というのは、恐ろしく辛いことだとルーナに説得されて、私は嘘を交えながらもその真実を話す。
「まぁ、声が?」
「でも、神から遣わされたって……」
「あぁ、聖女様、どうか、我が領地をお救いくださいっ」
貴族達の反応はまちまちではあれど、聖女様を否定するような雰囲気は見られない。むしろ、歓迎しているようにすら見えた。
幾人かの貴族達は、きっと、聖女様を攫うことを考えるのだろうが、それもルーナやルーナの部下達が阻止してくれることを信じているし、私自身も阻止できるように動くつもりだ。
「これから、きっと瘴気を完全に退けられる日が来る。その日を祝って、今日は乾杯しよう!」
何かを祝うことなど、もはやほとんどなくなっていたこの世界で、ようやく心から祝えるものができた。その喜びを、私はぶつけるようにして、グラスを手に取った。
この場合、影武者を立てて、その人物が主役であるかのように見せるのだが、今回、その影武者に抜擢されたのはルーナだった。王家の影であり、様々な変装も得意とするルーナ。聖女様と背格好も似ており、自衛手段を多く持つ彼女であれば、どんな危険があろうとも生還できる。それだけの信頼があったのだ。
しかし、当然のことではあるものの、聖女様本人にはお披露目のことも、ルーナが影武者を務めることも何も明かしてはいない。
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現在、城の大広間には様々な貴族の当主や次期当主が集まっている。
瘴気が広まる前であれば、この場は夜会などになっていたのだろうが、もはやそんな余裕は我が国にはない。それでも、少しでももてなしをしたいということで、多少の食事は用意してもらい、軽く摘めるようにはしていた。
華やかな場所でもない、ただ広いだけのその場所で、様々な情報交換をしていたであろう彼らは、私の言葉で息を呑む。
「彼女の名前は伏せさせてもらうが、彼女は、神より我が国に遣わされた聖女様だ。さぁ、聖女様、こちらへ」
そう言って、私はトツキ様に変装して、ベールを被ったルーナをエスコートする。
おずおずと、いかにも緊張しているような雰囲気で私の手を取り、歩き始めたルーナの姿に、それが別人であることを疑う者は居ない。
「聖女様は、この世界に遣わされた際、悪しき魔女によって声を奪われてしまった。しかし、それでも我々を救うために、毎日浄化を行ってくださっている」
本当は、声が出ないことを伝えるのはリスクが高いと考えていた。しかし、そうでもしなければ、貴族達は聖女様が声を出さないことに納得しないだろう。執拗に話しかけられて、返答ができない状態というのは、恐ろしく辛いことだとルーナに説得されて、私は嘘を交えながらもその真実を話す。
「まぁ、声が?」
「でも、神から遣わされたって……」
「あぁ、聖女様、どうか、我が領地をお救いくださいっ」
貴族達の反応はまちまちではあれど、聖女様を否定するような雰囲気は見られない。むしろ、歓迎しているようにすら見えた。
幾人かの貴族達は、きっと、聖女様を攫うことを考えるのだろうが、それもルーナやルーナの部下達が阻止してくれることを信じているし、私自身も阻止できるように動くつもりだ。
「これから、きっと瘴気を完全に退けられる日が来る。その日を祝って、今日は乾杯しよう!」
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