悪役令嬢の神様ライフ

星宮歌

文字の大きさ
28 / 132
第一章 帰還と波乱

第二十八話 問題ごとの匂い(セイ視点)

しおりを挟む
 エルドン侯爵家の養女にして、その当主であるハウエルへの求婚者であるリエナ・ル・エルドンは、僕達の読み通り、人攫いに遭っていた。


「むーっ! むむぅーっ」

「ちっ、大人しくしやがれっ」


 ナイフを突きつけられて、ビクッと肩を震わせる彼女は、すでに涙目だ。しかし……。


「悪いけど、こんな無法者を見過ごすわけにはいかないんだよね」


 そんな言葉で、悪党どもが反応するより先に、僕はナイフをへし折り、ご令嬢を救出する。


「え? は?」

「なっ、てめぇ! 何しやがった!!」


 やたらと人相の悪い男に凄まれるものの、僕も暇ではない。さっさと片付けてミーシャと合流しなければ、ミーシャが胃痛で倒れるかもしれないのだ。


「とりあえず、拘束して、騎士達に引き渡せば良いかな? この子も連れていけば、事情説明も省略できるし」


 何が起こったのか、未だに良く分かっていないご令嬢を放って、今後の方針を立てた僕は、その方針通りに、まずは電流の鎖を作って、見る限りは三人だけと思われるその男達を拘束する。


「「「アバババババババッ」」」

「気絶しちゃえば、引き渡しの時にゴネられることもないよね?」


 とりあえず、僕は急いでいるのだ。だから、彼らが痛い思いをしようが何だろうが、関係ない。むしろ、犯罪者なら、多少痛い目に遭わせてやった方が良いだろうというのが、僕のポリシーだ。


「す、すごい……」

「さて、それじゃあ、これから騎士団のところに送りますので、事情説明をよろしくお願いしますね」


 一応、相手は貴族の女の子、ということで丁寧に対応した僕は、彼女達をさっさと送ろうと思ったものの……。


「お待ちください! どうか、わたくしの師匠になっていただけませんか!?」

「はい?」

「では、師匠! よろしくお願いします!」

「いやっ、ちょっと待って!? 師匠って何!? 僕、了承してないんだけど!?」

「大丈夫ですっ! ちゃんと、録音の魔道具で記録はしてありますっ。言質は取りました!」

「ちっとも大丈夫じゃないよ!?」


 予想外のことに、丁寧な言葉を意識していたのがいけなかったのか、それとも、このご令嬢が狡猾だったのかは不明だが、どうやら、僕は面倒ごとに巻き込まれかけているらしい。


「僕は急ぐから、君に構ってる暇なんてないのっ」

「分かりました! では、わたくしもお供いたします!」

「いや、付いてこなくて良いからっ! というか、さっさと帰って!?」

「いいえ、わたくしは、貴方様を師匠にすると、今、決めたのです。さぁ、観念なさってくださいっ!!」


 逃げようと思えば、もちろん、逃げられる。しかし、それをして、また彼女が危険な目に遭ってしまえば、救った意味がなくなる。
 しばらく、問答を繰り返した結果、僕は、彼女の同行を認めさせられることになったのだった。
しおりを挟む
感想 36

あなたにおすすめの小説

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。

樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」 大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!! 私の必死の努力を返してー!! 乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。 気付けば物語が始まる学園への入学式の日。 私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!! 私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ! 所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。 でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!! 攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢! 必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!! やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!! 必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。 ※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

婚約破棄の、その後は

冬野月子
恋愛
ここが前世で遊んだ乙女ゲームの世界だと思い出したのは、婚約破棄された時だった。 身体も心も傷ついたルーチェは国を出て行くが… 全九話。 「小説家になろう」にも掲載しています。

【完結】私ですか?ただの令嬢です。

凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!? バッドエンドだらけの悪役令嬢。 しかし、 「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」 そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。 運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語! ※完結済です。 ※作者がシステムに不慣れかつ創作初心者な時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///) ※ご感想・ご指摘につきましては、近況ボードをお読みくださいませ。 《皆様のご愛読に、心からの感謝を申し上げますm(*_ _)m》

【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた

22時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。

ドレスが似合わないと言われて婚約解消したら、いつの間にか殿下に囲われていた件

ぽぽよ
恋愛
似合わないドレスばかりを送りつけてくる婚約者に嫌気がさした令嬢シンシアは、婚約を解消し、ドレスを捨てて男装の道を選んだ。 スラックス姿で生きる彼女は、以前よりも自然体で、王宮でも次第に評価を上げていく。 しかしその裏で、爽やかな笑顔を張り付けた王太子が、密かにシンシアへの執着を深めていた。 一方のシンシアは極度の鈍感で、王太子の好意をすべて「親切」「仕事」と受け取ってしまう。 「一生お仕えします」という言葉の意味を、まったく違う方向で受け取った二人。 これは、男装令嬢と爽やか策士王太子による、勘違いから始まる婚約(包囲)物語。

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

断罪前に“悪役"令嬢は、姿を消した。

パリパリかぷちーの
恋愛
高貴な公爵令嬢ティアラ。 将来の王妃候補とされてきたが、ある日、学園で「悪役令嬢」と呼ばれるようになり、理不尽な噂に追いつめられる。 平民出身のヒロインに嫉妬して、陥れようとしている。 根も葉もない悪評が広まる中、ティアラは学園から姿を消してしまう。 その突然の失踪に、大騒ぎ。

処理中です...