冒険の書 ~始の書~

星宮歌

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第一章 冒険の始まり

スケルトンパラダイス(一)

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 ヌルリとした感触に鳥肌が立つ。目視しなくとも、それが血であることくらい分かっている。

 カタカタカタカタと、スケルトン達の顎が動き、まるで怯えている俺を嘲笑っているかのように思える。この、目の前の扉らしきものを開かない限り、俺は殺される。ここは行き止まりで、敵はスケルトンとスライムが数えるのも嫌になるほど大量にいる。


 怖がっている場合じゃない。気味悪がっている場合じゃない。


「あぁぁぁぁっ!!」


 叫び声を上げながら、俺はソレを開く。その骨の手を……血の滴るドアノブを、俺は思いっきり引く。

 と、その声が合図にでもなったのか、スケルトンとスライムが音を立てて襲いかかってくる。

 左腕でドアノブを引っ張り、右腕に鞘から抜き放った剣を持ち、応戦しながらもどうにか扉を開ける。


「来るなっ、来るなぁぁあっ!」


 滅茶苦茶に剣を振り回した俺は、敵が怯むのを見逃さない。


「っ!!」


 今だとばかりに、俺はその扉を潜った。そして…………。




 突如として、辺りはしん、とした静寂に包まれた。




「えっ?」


 それは、夏の蝉の大合唱が一瞬途絶えたときのような奇妙な感覚。一人だけ、ポツンと取り残されたような、そんな、感覚。

 扉をくぐった瞬間、音という音が死に絶えた。まるで、最初から、俺の後ろには何も存在していなかったかのように、何の音も聞こえない。

 そんな、異常な感覚に、俺は慌てて後ろの扉へと振り向く。


「なっ!?」


 しかし……そこには、扉など、存在しなかった。あるのは、ただ、見慣れた壁。あの通路と同じ、苔だらけの、ただの石壁。

 わけの分からないそんな事態。が、そんな状態だったからこそ、俺はすぐにでもそれを確認すべきだった。いや、そもそも、最初から警告はあったはずだったのだ。『扉』というものの危険性は、知っていたはずだったのに……。

 地帯区分が変わり、おかしな名称が表記されている冒険の書に気づけないまま、俺は、その場所の意味を知ることとなる。

 広々としたその空間に、立ち尽くす俺は、一先ずこの場所をじっくり眺める。大広間とでも言うべきこの空間の奥には、通路らしきものが見える。が、その道は一つだけ。そのため、万が一ここに敵が来ることがあれば、俺は応戦せざるを得ない。


 カシャン……。


 そして……俺は、今、最も聞きたくない音を耳にする。


 コッ…カシャン。


それは一本だけ伸びる、通路の向こう側からのもの。俺の頭の中では、警鐘がガンガンとうるさいくらいに鳴る。


 コッ…カシャン。


 が、命が惜しいなら、何がなんでも戦わなければならない。泣き顔寸前の、醜い顔をしているだろう俺は、ゆっくりと、深呼吸して、目の前を見据える。


 カタカタカタカタカタカタカタカタカタ……。


「あ、あぁ……」


 溢れんばかりのスケルトンが、道を塞ぐように雪崩れ込んできていた。思わず腰を抜かして、その拍子に、リュックのチャックが緩んでいたのか、冒険の書が落ちる。


『第一フロア 地帯区分C

柿村啓はC地帯へ進行

これより、スケルトンパラダイス


スケルトンが現れた

突破条件発生

全てのスケルトンの討伐


なお、ペットの召喚が可能となった』


 偶然に開かれたページ。そこで見た文章に、俺は泣きたくなる。先程、スケルトンやスライムが大量に発生したときでさえ、なすすべなく逃げ出したのだ。にもかかわらず、これだけのスケルトンの相手。


 もしかして……俺はここで死ぬのか?


 嫌な想像が再現なく膨らみはじめる。


 ここで、スケルトンに殺される? 乾パンを出す変な物体に、殺される?


 剣はある。抵抗するための手足もある。

 が、一体、死ぬまでにどれだけのスケルトンを道連れにできるというのか……。そう考えてしまうほどに、スケルトンの数は多い。

 唯一、仲間であるペットは、どうやら俺が召喚しなければいけないらしいが、そもそも召喚なんて芸当、やり方が全くもって分からない。今度こそ、終わりだ。

 あまりにも濃厚な死の気配に、ヘタリ込んでいた俺は、攻勢に出るそいつらを止められない。


 カタカタカタカタ。


 そんな嘲るような音を聞いた俺は、俺に覆い被さろうとしてくる一体のスケルトンから慌てて逃げようと、震える足を叱咤する。が、尻餅をついたまま、まともに逃げられるわけもなかった。


 カシャン!


「うわぁぁぁあっ!!」


 ゴンッッ!


 上から倒れてくるスケルトンを相手に、俺が取った行動はあまりにも滑稽なものだった。

 立てない俺に残された道は一つ。腕に目一杯力を込めて、転がることだった。

 隣には、倒れたスケルトン。そして、俺は、ゴロゴロと転がり無様にそいつを避けたまではよかったが…………その後、頭を壁にぶつけ、悶絶していた。


「いっ!?!」


 今、わりと大きい音がした。絶対、これはたんこぶとかできてる音だ。


 目の前がチカチカする中で、俺はそんな馬鹿なことしか考えられない。ある種の現実逃避に近いかもしれない。

 そうして悶絶する俺だったが、そんな俺を敵が気遣ってくれるわけがない。むしろ、好機とばかりに、奴らは押し寄せる。


「うぁあっ!! ペットでも神様でも、何でもいいから助けてーっ!!」


 恥だとか外聞だとかは、今はかなぐり捨てる。と、いうか、命の危機において、そんなものどうでもいい。そして、その情けなさをふんだんに含んだ決死の願いは…………天に届いたらしい。


 ピチャッ!


そんな音と共に、俺の背中に何だかひんやりとしたモノが乗る。


「ひぃぃいっ!? ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!」


 無意識の内に出ていたのは、何に対してかも分からない謝罪の言葉。が、すぐに、俺はそれが救世主だということを知る。


 カシャン!


「いぃやぁぁぁあっ!?!!」


 再び、スケルトンが俺に覆い被さろうとした瞬間だった。


 ビチャンッ!


 何だか、そんな擬音で表せそうな音を立て、そのスケルトンの頭蓋骨が消え失せたのは……。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

スケルトンパラダイス……パラダイスではなくて、地獄、ヘルのような気もしますが……。

泣きっ面に蜂(あれ? ちょっと違う?)、みたいな状況に、柿村君はパニック状態!

彼は無事、生還できるのであろうかっ。


……たぶん、このスケルトンパラダイスは後一、二話くらい続きます。
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