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第二章 第二フロア
チキン
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「ゴンゲッ!!」
アイテムをほぼ拾い終えたところで、ゴンゲの鳴き声に顔を上げる。見れば、最後のバットが霧散したところで、それと同時に体が軽くなるのを感じた。
おそらく、レベルが一つ上がったのだろう。今までにも何度か、この感覚を経験しているため、間違いない。
最後のアイテムを拾い、俺は冒険の書で自分のレベルが十五になっていることを確認し、また大人しくなったゴンゲを観察する。ゴンゲのくちばしは……赤黒くヌラヌラとテカっていて、もはや凶器にしか見えない。
「とりあえず、戻ろうか」
今回は俺自身が戦うこともなく、ただアイテムを拾い集めただけで、身体的な疲れはない。ただ、とんでもなくグロい光景を見せられたために、精神面は大幅に落ち込んでいた。
まだ空腹もないし……契約はきっと守れたし、戻っても良いはずだ。食料調達は少しくらい後回しにしても大丈夫だろう。
しかし、世の中はそう上手くいくものでもないようだった。
「ゴンゲゴッゴォォオッ!!」
「……マジか」
おぞましい姿のゴンゲに、クルリと背を向けたところで聞こえた雄叫び。その声に対して、俺は思わずそう呟く。
前方に見えるは黒い影。幼児ほどのサイズのソレは……俺の方へと突進してきていた。その姿を認めた俺は、慌ててゴンゲのいる方を振り返り、全速力で走り出す。
「ゴゲッ」
「ゴンギョゲーッ!!」
すぐ後ろに着いたゴンゲと、ゴンゲの仲間であろうクックドラゴンの声。
「っ!」
その声に、俺は追い立てられるかのように駆ける。
幸い、この辺りは曲がり角が多い。何度かは訪れたことのある場所なので、上手く頑張れば、クックドラゴンを撒けるかもしれない。
「ゴゲーッ!!」
曲がって、曲がって、曲がり続ける。
クックドラゴンは、たしかにその速度のわりには方向転換が早い。しかし、こうも曲がり角が多い道ならば、隠れることくらい可能なはずだった。
そうしてしばらく走り続けた俺は、ようやく、あのおぞましい声が聞こえないことに気づき、壁に手をついて、ズルズルと座り込む。
……ちなみに、ゴンゲとはどこかではぐれてしまった。
「はっ、はぁっ、はぁっ…」
まだ、心臓がバクバクと脈打ち、上気した顔からポタポタと汗が落ちていく。
「はぁ、ふぅ、ふーっ……」
しかし、呼吸は少しずつ落ち着き、平常心も戻る。周囲を警戒しながら、背中に背負ったリュックの中から冒険の書を取り出した俺は、すぐにそのページを開く。
『クックドラゴンが現れた』
バットとの戦闘とも呼べない一方的な虐殺の後に書かれていたのは、その言葉と……。
『柿村啓は逃げ出した』
そんな、逃走成功を示す言葉があり、俺はようやく安堵の息をもらす。ゴンゲを連れて出たばかりの頃には、クックドラゴンと遭遇したらどうしようかなどと考えていた。
しかし、実際に遭遇してみると、恐怖のあまり逃げることしかできなかった。その事実に、俺は多少落ち込みながらも、ふと、どうしてこんなにも早くクックドラゴンと遭遇してしまったのだろうかと考える。
これまで一度も遭遇したことのなかったモンスターに、立て続けに遭遇するとなると、何か原因がありそうだ。
……ゴンゲの鳴き声につられたか?
真っ先に思い浮かぶのは、あの破壊力満点のゴンゲの咆哮。もしもあれが原因ならば、バットを倒した後はすぐに離脱することを考えて行動しなければならない。あれだけの破壊力を手離すのは惜しいため、連れていかないという選択肢は、とりあえず保留だ。
しかし、そこまで考えたところで、ふと、一つの称号が気になり、少し前のページを開く。
『称号 【チキン野郎】
モンスターから百回逃走を試みた臆病者に贈られる
効果 チキンモンスターとの遭遇率アップ』
クックドラゴン……無理矢理日本語にするなら、鶏竜。鶏……鳥……チキン……? まさかな?
そう、疑ってみるものの、いかんせん、この称号でギャグ以外の何かを垣間見たことがない。むしろ、ギャグ一筋だ。
つぅっと嫌な汗が流れる。そう、きっと、おそらく……この称号の効果は、クックドラゴンとの遭遇率アップなのだろう。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
意外と『チキン野郎』の称号効果が鬼畜です。
ただ、そんなことを言っていたら、他の称号も鬼畜だと言われそうですけどね。
さぁ、柿村君には、せいぜい嘆いてもらいましょうっ。
それでは、また!
アイテムをほぼ拾い終えたところで、ゴンゲの鳴き声に顔を上げる。見れば、最後のバットが霧散したところで、それと同時に体が軽くなるのを感じた。
おそらく、レベルが一つ上がったのだろう。今までにも何度か、この感覚を経験しているため、間違いない。
最後のアイテムを拾い、俺は冒険の書で自分のレベルが十五になっていることを確認し、また大人しくなったゴンゲを観察する。ゴンゲのくちばしは……赤黒くヌラヌラとテカっていて、もはや凶器にしか見えない。
「とりあえず、戻ろうか」
今回は俺自身が戦うこともなく、ただアイテムを拾い集めただけで、身体的な疲れはない。ただ、とんでもなくグロい光景を見せられたために、精神面は大幅に落ち込んでいた。
まだ空腹もないし……契約はきっと守れたし、戻っても良いはずだ。食料調達は少しくらい後回しにしても大丈夫だろう。
しかし、世の中はそう上手くいくものでもないようだった。
「ゴンゲゴッゴォォオッ!!」
「……マジか」
おぞましい姿のゴンゲに、クルリと背を向けたところで聞こえた雄叫び。その声に対して、俺は思わずそう呟く。
前方に見えるは黒い影。幼児ほどのサイズのソレは……俺の方へと突進してきていた。その姿を認めた俺は、慌ててゴンゲのいる方を振り返り、全速力で走り出す。
「ゴゲッ」
「ゴンギョゲーッ!!」
すぐ後ろに着いたゴンゲと、ゴンゲの仲間であろうクックドラゴンの声。
「っ!」
その声に、俺は追い立てられるかのように駆ける。
幸い、この辺りは曲がり角が多い。何度かは訪れたことのある場所なので、上手く頑張れば、クックドラゴンを撒けるかもしれない。
「ゴゲーッ!!」
曲がって、曲がって、曲がり続ける。
クックドラゴンは、たしかにその速度のわりには方向転換が早い。しかし、こうも曲がり角が多い道ならば、隠れることくらい可能なはずだった。
そうしてしばらく走り続けた俺は、ようやく、あのおぞましい声が聞こえないことに気づき、壁に手をついて、ズルズルと座り込む。
……ちなみに、ゴンゲとはどこかではぐれてしまった。
「はっ、はぁっ、はぁっ…」
まだ、心臓がバクバクと脈打ち、上気した顔からポタポタと汗が落ちていく。
「はぁ、ふぅ、ふーっ……」
しかし、呼吸は少しずつ落ち着き、平常心も戻る。周囲を警戒しながら、背中に背負ったリュックの中から冒険の書を取り出した俺は、すぐにそのページを開く。
『クックドラゴンが現れた』
バットとの戦闘とも呼べない一方的な虐殺の後に書かれていたのは、その言葉と……。
『柿村啓は逃げ出した』
そんな、逃走成功を示す言葉があり、俺はようやく安堵の息をもらす。ゴンゲを連れて出たばかりの頃には、クックドラゴンと遭遇したらどうしようかなどと考えていた。
しかし、実際に遭遇してみると、恐怖のあまり逃げることしかできなかった。その事実に、俺は多少落ち込みながらも、ふと、どうしてこんなにも早くクックドラゴンと遭遇してしまったのだろうかと考える。
これまで一度も遭遇したことのなかったモンスターに、立て続けに遭遇するとなると、何か原因がありそうだ。
……ゴンゲの鳴き声につられたか?
真っ先に思い浮かぶのは、あの破壊力満点のゴンゲの咆哮。もしもあれが原因ならば、バットを倒した後はすぐに離脱することを考えて行動しなければならない。あれだけの破壊力を手離すのは惜しいため、連れていかないという選択肢は、とりあえず保留だ。
しかし、そこまで考えたところで、ふと、一つの称号が気になり、少し前のページを開く。
『称号 【チキン野郎】
モンスターから百回逃走を試みた臆病者に贈られる
効果 チキンモンスターとの遭遇率アップ』
クックドラゴン……無理矢理日本語にするなら、鶏竜。鶏……鳥……チキン……? まさかな?
そう、疑ってみるものの、いかんせん、この称号でギャグ以外の何かを垣間見たことがない。むしろ、ギャグ一筋だ。
つぅっと嫌な汗が流れる。そう、きっと、おそらく……この称号の効果は、クックドラゴンとの遭遇率アップなのだろう。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
意外と『チキン野郎』の称号効果が鬼畜です。
ただ、そんなことを言っていたら、他の称号も鬼畜だと言われそうですけどね。
さぁ、柿村君には、せいぜい嘆いてもらいましょうっ。
それでは、また!
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