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エピローグ
*ジョウエイ
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映像の中の啓は、しきりにビクビクとしていて、今にも泣き出しそうな表情だ。そして、俺とは異なる色の『冒険の書』に、『黒鞘の剣』があり、これからの行動がある程度予測できてしまう。
「ふふっ、啓も、モンスターと戦ってたのか」
扉の前でブルブルと怯える啓の様子を見ていると、自然に笑みが溢れる。啓は昔から怖がりだから、きっと様々なことを考えて震えているのだろう。
怯えながら扉を開けた啓。そして、場面は変わり、スライムとの戦闘で火傷を負った啓を見て、俺は思わず声をあげたが、次の場面ではその怪我も治り、なぜかスライムが仲間になっているようだった。
「スライムかぁ、俺は、第一フロアのボスがスライムだったんだよなぁ」
分裂して数を増やすスライムを倒すのは骨が折れたが、どうやら啓のところのスライムはあまり分裂しないらしい。
そして……最初の扉を目にした瞬間、俺は『うっ』と呻く。
俺は、あんな扉、知らないぞ?
あんなのが扉だなんて、俺は信じたくなかったが、モンスターに追われた啓は自棄になってその扉を開いていた。ただ、俺が今まで開いてきた扉に、あんなおぞましいものはなかった。俺が開けてきたのは、普通の、木製なり、鉄製なりの扉ばかりだった。
「啓、お前はいったい、どこにいるんだ?」
そう呟きながら、俺は続きを見る。そして……。
「啓っ!!」
そこには、啓の目が潰される瞬間が映っていて、これが十中八九過去の映像だと分かっていながらも、俺は叫ばずにはいられなかった。幻影のスケルトンに紛れたイリュージョンの攻撃に倒れる啓。しかし、そのイリュージョンを、仲間となっていたスライムが的確に呑み込むことで、勝負がつく。
啓の怪我が心配だった俺は、次に映った映像で、啓が起き上がる姿を見てホッとする。啓が無事だったことに、心から安堵する。
ただ……そこから、スクリーンの画面が二つに分かれた。
両方とも、同じ角度からの同じ映像ではあるのだが、右側の映像の方には、上に『魔眼定着率三十パーセント』と書かれている。それが何か疑問に思う前に、俺は、啓の目がおかしいことに気づく。
「えっ?」
白目の部分が黄色に染まり、黒目はまるで蜘蛛のように黄色い部分にも浸食している。それは明らかに、人間の目ではない。取り乱している啓の様子を見ながら、俺は、それが何なのか考える。
そして、恐らく、これが『魔眼』なのだと俺が気づくのに、さほど時間はかからなかった。
なぜなら……。
「やめろぉぉおっ!!」
啓は……。
「なんでっ、なんでっ!」
自分の母親を、母親だと気づけないままに……。
「違うっ! ダメだっ、啓っ!!」
刺し殺したのだから……。
『魔眼定着率三十パーセント』と書かれたスクリーンでは、罠の解除を行う際、ゾンビのような者が現れているように見えた。しかし、それは、正常な眼で見たならば、縛り上げられ、天井から吊るされた状態で、我が息子を前に必死に呼び掛ける母親の姿だった。
しかし、その呼び掛けは、届かない。抵抗することもできず、啓の母親は、啓自身の手によって殺されてしまった。
「あ、あぁ……」
そんな滅茶苦茶な光景に、俺は呆然としてしまう。まだまだ、異常は始まったばかりだというのに……。
次の光景は、啓がクックドラゴンをどうにか倒す光景だったが、その後のドロップアイテムが問題だった。正常な眼に映るそれは……人間の、頭部だった。
『黒卵』と記されたそれは、俺も見たことのある、クラスメイトの頭で……俺は、それを美味しそうに啜る啓を見た瞬間、込み上げる吐き気を我慢できずに戻してしまう。また、次の光景ではクックドラゴンが仲間となっていて、啓が母親と同じように父親を殺す瞬間が映っていた。
両親を殺し、しかしそれを両親だと認識できないまま涙していた啓は、また次の扉を見つける。それはやはり禍々しく、拷問道具が敷き詰められた扉だった。扉の奥にはまたしてもボスモンスターがいて、俺は、いきなり片腕を失う啓の姿に悲鳴を上げる。
が…………そのボスは、笑いながら斬り続ける啓を前に息絶える。最期の力でもう片方の腕も奪ったボスモンスターは、啓の狂気を前に死んでいく。
それを見る俺は、もう、言葉も出なかった。
怖がりで、誰よりも優しくて、両親との仲も良好な柿村啓は、すでにいなかった。
第三フロアで目覚めた啓の腕は、異形のものとなっていた。しかし、啓はそれに気づかない。まるで、その黒くおぞましい腕が普通であるかのように、動く。
気づけば、『魔眼定着率六十パーセント』という表示がなされており、それが、啓がおかしくなった原因だと簡単に予想できた。また、左側のスクリーンの上には『光追加』と書かれていて、一瞬どういう意味か計り兼ねたが、すぐに、このフロアには光源がないのだということに気づく。真っ暗闇の中で、啓は周りを見ることができていた。
表情という表情が消えたように見える啓は、モンスターを倒しては、そこに出現した内臓か生肉かを持ち帰り、それを喰らう。正気の沙汰ではないその行動に、俺は、何度も何度もえずく。いくつかの罠を解除するたびに、啓の親しかった人達が、啓自身の手にかかって死ぬ。
もう見たくない。やめてくれっ。
そう思っても、俺は何かに憑かれたかのようにスクリーンを見続けてしまう。そして……血に濡れた啓は、何やら奇妙な釜で剣を生成し、それを持って臓物の扉を開いた。
「うぁぁ……」
啓は、頭以外の全てを潰された。何度も、何度も、叩きつけられていた。黒い木によって、ぐちゃぐちゃに潰れた啓を見て、俺は呻くことしかできない。
が、次の映像では、頭部だけ啓のままの、異形が立っていた。頭以外は全身が黒く、至るところが角張っている。まるで悪魔のごとき様相に、俺はもう、へたり込むしかなかった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
さぁ、今日は一気に全部更新しちゃいますよ~
「ふふっ、啓も、モンスターと戦ってたのか」
扉の前でブルブルと怯える啓の様子を見ていると、自然に笑みが溢れる。啓は昔から怖がりだから、きっと様々なことを考えて震えているのだろう。
怯えながら扉を開けた啓。そして、場面は変わり、スライムとの戦闘で火傷を負った啓を見て、俺は思わず声をあげたが、次の場面ではその怪我も治り、なぜかスライムが仲間になっているようだった。
「スライムかぁ、俺は、第一フロアのボスがスライムだったんだよなぁ」
分裂して数を増やすスライムを倒すのは骨が折れたが、どうやら啓のところのスライムはあまり分裂しないらしい。
そして……最初の扉を目にした瞬間、俺は『うっ』と呻く。
俺は、あんな扉、知らないぞ?
あんなのが扉だなんて、俺は信じたくなかったが、モンスターに追われた啓は自棄になってその扉を開いていた。ただ、俺が今まで開いてきた扉に、あんなおぞましいものはなかった。俺が開けてきたのは、普通の、木製なり、鉄製なりの扉ばかりだった。
「啓、お前はいったい、どこにいるんだ?」
そう呟きながら、俺は続きを見る。そして……。
「啓っ!!」
そこには、啓の目が潰される瞬間が映っていて、これが十中八九過去の映像だと分かっていながらも、俺は叫ばずにはいられなかった。幻影のスケルトンに紛れたイリュージョンの攻撃に倒れる啓。しかし、そのイリュージョンを、仲間となっていたスライムが的確に呑み込むことで、勝負がつく。
啓の怪我が心配だった俺は、次に映った映像で、啓が起き上がる姿を見てホッとする。啓が無事だったことに、心から安堵する。
ただ……そこから、スクリーンの画面が二つに分かれた。
両方とも、同じ角度からの同じ映像ではあるのだが、右側の映像の方には、上に『魔眼定着率三十パーセント』と書かれている。それが何か疑問に思う前に、俺は、啓の目がおかしいことに気づく。
「えっ?」
白目の部分が黄色に染まり、黒目はまるで蜘蛛のように黄色い部分にも浸食している。それは明らかに、人間の目ではない。取り乱している啓の様子を見ながら、俺は、それが何なのか考える。
そして、恐らく、これが『魔眼』なのだと俺が気づくのに、さほど時間はかからなかった。
なぜなら……。
「やめろぉぉおっ!!」
啓は……。
「なんでっ、なんでっ!」
自分の母親を、母親だと気づけないままに……。
「違うっ! ダメだっ、啓っ!!」
刺し殺したのだから……。
『魔眼定着率三十パーセント』と書かれたスクリーンでは、罠の解除を行う際、ゾンビのような者が現れているように見えた。しかし、それは、正常な眼で見たならば、縛り上げられ、天井から吊るされた状態で、我が息子を前に必死に呼び掛ける母親の姿だった。
しかし、その呼び掛けは、届かない。抵抗することもできず、啓の母親は、啓自身の手によって殺されてしまった。
「あ、あぁ……」
そんな滅茶苦茶な光景に、俺は呆然としてしまう。まだまだ、異常は始まったばかりだというのに……。
次の光景は、啓がクックドラゴンをどうにか倒す光景だったが、その後のドロップアイテムが問題だった。正常な眼に映るそれは……人間の、頭部だった。
『黒卵』と記されたそれは、俺も見たことのある、クラスメイトの頭で……俺は、それを美味しそうに啜る啓を見た瞬間、込み上げる吐き気を我慢できずに戻してしまう。また、次の光景ではクックドラゴンが仲間となっていて、啓が母親と同じように父親を殺す瞬間が映っていた。
両親を殺し、しかしそれを両親だと認識できないまま涙していた啓は、また次の扉を見つける。それはやはり禍々しく、拷問道具が敷き詰められた扉だった。扉の奥にはまたしてもボスモンスターがいて、俺は、いきなり片腕を失う啓の姿に悲鳴を上げる。
が…………そのボスは、笑いながら斬り続ける啓を前に息絶える。最期の力でもう片方の腕も奪ったボスモンスターは、啓の狂気を前に死んでいく。
それを見る俺は、もう、言葉も出なかった。
怖がりで、誰よりも優しくて、両親との仲も良好な柿村啓は、すでにいなかった。
第三フロアで目覚めた啓の腕は、異形のものとなっていた。しかし、啓はそれに気づかない。まるで、その黒くおぞましい腕が普通であるかのように、動く。
気づけば、『魔眼定着率六十パーセント』という表示がなされており、それが、啓がおかしくなった原因だと簡単に予想できた。また、左側のスクリーンの上には『光追加』と書かれていて、一瞬どういう意味か計り兼ねたが、すぐに、このフロアには光源がないのだということに気づく。真っ暗闇の中で、啓は周りを見ることができていた。
表情という表情が消えたように見える啓は、モンスターを倒しては、そこに出現した内臓か生肉かを持ち帰り、それを喰らう。正気の沙汰ではないその行動に、俺は、何度も何度もえずく。いくつかの罠を解除するたびに、啓の親しかった人達が、啓自身の手にかかって死ぬ。
もう見たくない。やめてくれっ。
そう思っても、俺は何かに憑かれたかのようにスクリーンを見続けてしまう。そして……血に濡れた啓は、何やら奇妙な釜で剣を生成し、それを持って臓物の扉を開いた。
「うぁぁ……」
啓は、頭以外の全てを潰された。何度も、何度も、叩きつけられていた。黒い木によって、ぐちゃぐちゃに潰れた啓を見て、俺は呻くことしかできない。
が、次の映像では、頭部だけ啓のままの、異形が立っていた。頭以外は全身が黒く、至るところが角張っている。まるで悪魔のごとき様相に、俺はもう、へたり込むしかなかった。
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さぁ、今日は一気に全部更新しちゃいますよ~
応援ありがとうございます!
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