貶められた聖女候補は、復讐します

第二章 戻された世界

第六十八話 奇妙な関係性

「で、俺に頼む、と？」

「そうだ」


　晩餐が終わり、サミュエルは調査を行おうとしたものの、まだ子供である自分には、こういった調査で手足となって動いてくれる人間が居ないという事実に気づき、ひとしきり考えた末に、翌日アルガを呼び出した。
　貴族の令息らしい衣服を身に纏うアルガは、城の応接室でサミュエルから告げられた内容に、呆れたような声を出す。


「いや、お前……一応、俺達の関係って分かってるよね？」

「無論だ。しかし、だからこそ、今は手を取り合うべきだろう？」


　アルガが言うのは当然魔王と勇者という関係性だ。しかし、サミュエルの言葉通り、そんな関係性だからこそ、協力できる内容でもある。


「……まぁ、調べられなくはないけど、時間はかかると思うよ？」

「なるべく早く調査してほしい」

「ったく、無茶言うよ。あぁ、でも……魔王でも勇者でもなければ、こんな関係になれてたんだね……」


　淡々と告げるサミュエルにため息を吐くアルガだったが、自分が魔王でなければ、サミュエルが勇者でなければ、こんなにも優しい関係性を築くことができたのかと、複雑な心境にもなっているようだった。


「……それに関して、一つ、尋ねたい」

「？　何？」

「シェナ、という人物のことを知っているか？」

「シェナ……？　……いや、知らないけど？」


　アルガは、しばらく考えて記憶を漁った後、首を横に振る。どうやら、本当に何も知らないらしい。


「……そうか」

「それは、どういう人間？」


　だから、当然、アルガはそう質問してくる。


「分からない。ただ、レアナが言っていたんだ。シェナはなぜ死んだのか、と」

「……それって、今のことではなくて、前？」

「恐らくは」


　そう答えるものの、それがいつのことなのか、サミュエル自身も全く分からない。ただ、その名前の人物が重要な鍵を握るのではないか、という推測くらいしかできない。


「……やっぱり、心当たりはないね」

「そう、か……では、こちらはどうだ？　『勇者と聖女は表裏一体。魔王は調整を。それが罰だった』というのを、レアナが聞いたらしい」

「……それって、アレ？」

「あぁ、そう呼んで良いか分からないが……まぁ、アレだ」


　小さく上を指差して確認するアルガに、サミュエルは少し悩みつつも肯定する。言いたいことはお互い、分かるようで、アルガはそんなサミュエルを見て『そっかぁ』と不自然な笑みを浮かべる。そして次の瞬間。


「死にさらせ！」

「落ち着け」


　天井……いや、恐らくは彼らを見下ろしているであろう神に向かって叫ぶアルガに、サミュエルはひとまず、アルガの頭を叩いて留めた。