貶められた聖女候補は、復讐します

星宮歌

文字の大きさ
90 / 108
第二章 戻された世界

第九十話 本当は……

しおりを挟む
「……シェナ……」


 起き出したサミュエルは、どこか遠くを見つめるようにして、シェナの名前を呼ぶ。そんなおかしな事態に、アルガが気づかないわけもなかった。


「サミュエル? 夢を見せられたのか?」


 レアナが青ざめるのを横目に、アルガは問いただす。一応は疑問形ではあるものの、アルガのその瞳には、確信が籠もっていた。


「あぁ……そう、だ。シェナが、伝えてくれた。何もかもを」


 精神攻撃を受けたということは、とうとうシェナは敵の手に渡ってしまったのだろう。そう考えていたレアナとアルガは、そんなサミュエルの言葉に困惑を浮かべる。


「アルガ、レアナ。すぐに、ここを出る。急ぐぞ」

「えっ? えっと?」

「どういうことだ、サミュエル?」

「説明している暇はない! さぁ、早くっ!」


 力強い瞳でレアナとアルガを射抜くサミュエルの様子に、二人は困惑しながらも動き出す。
 その場所は、レアナの母親が用意した安全な場所であり、襲撃の可能性などほとんどないはずなのに、ここから逃げるような指示を出すサミュエルは、二人からするとおかしかった。それでも、彼らには信頼がある。同じ世界を、ずっと生き抜いてきた敵として、仲間として、そして、家族として……誰よりも、お互いがお互いのことを理解していた。
 言葉は要らない。ただ、サミュエルの警告に従って、二人はこの場から即座に離脱すべく扉へと一気に駆けて、扉を開け放つ。


「二人ともっ、戦闘の覚悟を! 揺るがない覚悟をっ!」


 一歩遅れながらも確実に二人と共にあろうとするサミュエルの警告。何も分からないままにできる覚悟など、たかが知れている。しかし、それでも警告しなければならないと、サミュエルは即座に判断を下す。そして……それは、二人の命を救うこととなった。


「なっ!」

「えっ?」


 扉を開け放った直後に振り下ろされた大剣。サミュエルの警告で戦闘へ意識を切り替えていたアルガとレアナは、辛うじてそれを受け止め、目の前に信じられない、否、信じたくない光景があっても、力を抜くことをせずに堪えた。


「どう、して……」


 命は、確かに助かった。


「なぜ、あなたが……」


 それでも、本当の真実を知らなかったレアナとアルガに、その光景はあまりにも残酷だった。


「やはり、あなたでしたか、アニエス様」


 レアナとシェナの母親である女神。その彼女が、今まで見たこともない憎悪に歪んだ表情で対峙していた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

処理中です...