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第二章 戻された世界
第九十話 本当は……
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「……シェナ……」
起き出したサミュエルは、どこか遠くを見つめるようにして、シェナの名前を呼ぶ。そんなおかしな事態に、アルガが気づかないわけもなかった。
「サミュエル? 夢を見せられたのか?」
レアナが青ざめるのを横目に、アルガは問いただす。一応は疑問形ではあるものの、アルガのその瞳には、確信が籠もっていた。
「あぁ……そう、だ。シェナが、伝えてくれた。何もかもを」
精神攻撃を受けたということは、とうとうシェナは敵の手に渡ってしまったのだろう。そう考えていたレアナとアルガは、そんなサミュエルの言葉に困惑を浮かべる。
「アルガ、レアナ。すぐに、ここを出る。急ぐぞ」
「えっ? えっと?」
「どういうことだ、サミュエル?」
「説明している暇はない! さぁ、早くっ!」
力強い瞳でレアナとアルガを射抜くサミュエルの様子に、二人は困惑しながらも動き出す。
その場所は、レアナの母親が用意した安全な場所であり、襲撃の可能性などほとんどないはずなのに、ここから逃げるような指示を出すサミュエルは、二人からするとおかしかった。それでも、彼らには信頼がある。同じ世界を、ずっと生き抜いてきた敵として、仲間として、そして、家族として……誰よりも、お互いがお互いのことを理解していた。
言葉は要らない。ただ、サミュエルの警告に従って、二人はこの場から即座に離脱すべく扉へと一気に駆けて、扉を開け放つ。
「二人ともっ、戦闘の覚悟を! 揺るがない覚悟をっ!」
一歩遅れながらも確実に二人と共にあろうとするサミュエルの警告。何も分からないままにできる覚悟など、たかが知れている。しかし、それでも警告しなければならないと、サミュエルは即座に判断を下す。そして……それは、二人の命を救うこととなった。
「なっ!」
「えっ?」
扉を開け放った直後に振り下ろされた大剣。サミュエルの警告で戦闘へ意識を切り替えていたアルガとレアナは、辛うじてそれを受け止め、目の前に信じられない、否、信じたくない光景があっても、力を抜くことをせずに堪えた。
「どう、して……」
命は、確かに助かった。
「なぜ、あなたが……」
それでも、本当の真実を知らなかったレアナとアルガに、その光景はあまりにも残酷だった。
「やはり、あなたでしたか、アニエス様」
レアナとシェナの母親である女神。その彼女が、今まで見たこともない憎悪に歪んだ表情で対峙していた。
起き出したサミュエルは、どこか遠くを見つめるようにして、シェナの名前を呼ぶ。そんなおかしな事態に、アルガが気づかないわけもなかった。
「サミュエル? 夢を見せられたのか?」
レアナが青ざめるのを横目に、アルガは問いただす。一応は疑問形ではあるものの、アルガのその瞳には、確信が籠もっていた。
「あぁ……そう、だ。シェナが、伝えてくれた。何もかもを」
精神攻撃を受けたということは、とうとうシェナは敵の手に渡ってしまったのだろう。そう考えていたレアナとアルガは、そんなサミュエルの言葉に困惑を浮かべる。
「アルガ、レアナ。すぐに、ここを出る。急ぐぞ」
「えっ? えっと?」
「どういうことだ、サミュエル?」
「説明している暇はない! さぁ、早くっ!」
力強い瞳でレアナとアルガを射抜くサミュエルの様子に、二人は困惑しながらも動き出す。
その場所は、レアナの母親が用意した安全な場所であり、襲撃の可能性などほとんどないはずなのに、ここから逃げるような指示を出すサミュエルは、二人からするとおかしかった。それでも、彼らには信頼がある。同じ世界を、ずっと生き抜いてきた敵として、仲間として、そして、家族として……誰よりも、お互いがお互いのことを理解していた。
言葉は要らない。ただ、サミュエルの警告に従って、二人はこの場から即座に離脱すべく扉へと一気に駆けて、扉を開け放つ。
「二人ともっ、戦闘の覚悟を! 揺るがない覚悟をっ!」
一歩遅れながらも確実に二人と共にあろうとするサミュエルの警告。何も分からないままにできる覚悟など、たかが知れている。しかし、それでも警告しなければならないと、サミュエルは即座に判断を下す。そして……それは、二人の命を救うこととなった。
「なっ!」
「えっ?」
扉を開け放った直後に振り下ろされた大剣。サミュエルの警告で戦闘へ意識を切り替えていたアルガとレアナは、辛うじてそれを受け止め、目の前に信じられない、否、信じたくない光景があっても、力を抜くことをせずに堪えた。
「どう、して……」
命は、確かに助かった。
「なぜ、あなたが……」
それでも、本当の真実を知らなかったレアナとアルガに、その光景はあまりにも残酷だった。
「やはり、あなたでしたか、アニエス様」
レアナとシェナの母親である女神。その彼女が、今まで見たこともない憎悪に歪んだ表情で対峙していた。
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