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第一章 傷だらけの剣姫
第一話 落ちこぼれのネリア
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この世界は、危険に満ちている。外に出れば、魔物がはびこり、毒の霧が満ちている。人間達は、そんな存在から身を守るべく、剣姫と守王と呼ばれる存在を、貴族として、王族として崇める。
剣姫は、攻撃に特化した能力を持つ女性を表し、守王は、結界に特化した能力を持つ男性を表す。彼らの遺伝子は、必ず、その直系に能力を受け継ぎ、領地を守るために、力を継ぐための婚姻を繰り返してきた。
絶大な守護能力を持つ王家。攻撃に特化したアルディア公爵家に、一代につき一人だけ、天才的な守護や攻撃の能力を持つ者を輩出するセプティム公爵家。彼らの存在は、国の要。彼らが婚姻を繰り返せば、きっと、国は安泰。そう、考えられてきた。
剣姫としての能力を一切持たない、ネリア・アルディアという存在が生まれるまでは……。
「まぁ、あの落ちこぼれ、まだ生きているのですね」
「うふふ、仕方ないわよ。さすがに勝手に処分するわけにはいきませんもの」
「まだ、利用価値はあるとは言われていますが、それが本当かどうか、甚だ疑問ですわね」
社交界のパーティー会場において、ネリアを見つけたご令嬢達は悪意を持った笑みを浮かべて囀る。
ネリア・アルディアは、アルディア公爵家の長女。本来であれば、剣姫としての強い能力に恵まれて生まれるはずだった彼女は、凡庸どころか、剣姫としての力を一切持たずに生まれてきた。赤子の頃には能力が上手く測定できないことも多々あり、ネリアも当初はそれだと思われ、かねてより王家から女児が生まれれば王子の婚約者にと望まれていたこともあり、彼女は、第一王子の婚約者となった。しかし、能力が安定するはずの五歳を迎えた時、彼女は、本当に能力がないという事実が判明する。
「私だって、剣姫の力がほしかった……」
完全に壁の華となっている彼女は、灰色のドレスを身に纏い、必死に身を縮こまらせていた。モスグリーンの髪には艶がなく、オレンジの瞳は輝きを失って何年も経っている。顔立ちは、貴族なだけあって整っているものの、うつむいてばかりの彼女の顔をまともに見る者は居ない。
力を持たずに生まれたネリアは、王子の婚約者……いや、王太子の婚約者という立場上、殺されることはない。しかし、それだけだ。アルディア公爵家において、ネリアは使用人以下の扱いを受け、鞭で打たれることも、食事を抜かれることも日常茶飯事だ。それでも、王太子である歴代最高の守王の力を持つカイン・ロディアが庇えば、少しはその状況も良かったかもしれない。ただ、現実はあまりにもシビアだった。
「ネリア・アルディア。貴様はついに、剣姫としての力を発現させることはなかった。ゆえに、貴様との婚約は破棄する。そして、私は、ミリア・アルディアと新たに婚約することをここに宣言する」
その日、輝かんばかりの金髪に蒼い瞳を持つ青年、王太子カインは、ネリアを冷たく見下して、婚約破棄を突きつけていた。
剣姫は、攻撃に特化した能力を持つ女性を表し、守王は、結界に特化した能力を持つ男性を表す。彼らの遺伝子は、必ず、その直系に能力を受け継ぎ、領地を守るために、力を継ぐための婚姻を繰り返してきた。
絶大な守護能力を持つ王家。攻撃に特化したアルディア公爵家に、一代につき一人だけ、天才的な守護や攻撃の能力を持つ者を輩出するセプティム公爵家。彼らの存在は、国の要。彼らが婚姻を繰り返せば、きっと、国は安泰。そう、考えられてきた。
剣姫としての能力を一切持たない、ネリア・アルディアという存在が生まれるまでは……。
「まぁ、あの落ちこぼれ、まだ生きているのですね」
「うふふ、仕方ないわよ。さすがに勝手に処分するわけにはいきませんもの」
「まだ、利用価値はあるとは言われていますが、それが本当かどうか、甚だ疑問ですわね」
社交界のパーティー会場において、ネリアを見つけたご令嬢達は悪意を持った笑みを浮かべて囀る。
ネリア・アルディアは、アルディア公爵家の長女。本来であれば、剣姫としての強い能力に恵まれて生まれるはずだった彼女は、凡庸どころか、剣姫としての力を一切持たずに生まれてきた。赤子の頃には能力が上手く測定できないことも多々あり、ネリアも当初はそれだと思われ、かねてより王家から女児が生まれれば王子の婚約者にと望まれていたこともあり、彼女は、第一王子の婚約者となった。しかし、能力が安定するはずの五歳を迎えた時、彼女は、本当に能力がないという事実が判明する。
「私だって、剣姫の力がほしかった……」
完全に壁の華となっている彼女は、灰色のドレスを身に纏い、必死に身を縮こまらせていた。モスグリーンの髪には艶がなく、オレンジの瞳は輝きを失って何年も経っている。顔立ちは、貴族なだけあって整っているものの、うつむいてばかりの彼女の顔をまともに見る者は居ない。
力を持たずに生まれたネリアは、王子の婚約者……いや、王太子の婚約者という立場上、殺されることはない。しかし、それだけだ。アルディア公爵家において、ネリアは使用人以下の扱いを受け、鞭で打たれることも、食事を抜かれることも日常茶飯事だ。それでも、王太子である歴代最高の守王の力を持つカイン・ロディアが庇えば、少しはその状況も良かったかもしれない。ただ、現実はあまりにもシビアだった。
「ネリア・アルディア。貴様はついに、剣姫としての力を発現させることはなかった。ゆえに、貴様との婚約は破棄する。そして、私は、ミリア・アルディアと新たに婚約することをここに宣言する」
その日、輝かんばかりの金髪に蒼い瞳を持つ青年、王太子カインは、ネリアを冷たく見下して、婚約破棄を突きつけていた。
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