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第一章 傷だらけの剣姫

第五話 戸惑うネリア(ネリア視点)

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「おい、目を覚ましたか?」

「いえ、未だに目覚めてはおりません……」

「そう、か……俺が、もっと早くに見つけていればっ」

「殿下……」


 眠りの中で聞く声は、私が聞いたこともない声。


(夢……変な、夢……)


 誰かが罵倒をしてくる夢なら何度も見てきた。けれど、こんな、よく分からない夢は初めてだった。


(フワフワ……フカフカ……)


 しかも、眠っているはずの自分が、何だかフワフワとしたものに包まれているような夢なんて、まずあり得ない。こんな心地の良さを感じたことなんて、今までに一度もない。


(ううん、きっと、幼い頃なら、フカフカのベッドで寝てた、と思う……)


 となれば、これは、神様が最期を迎える私に与えてくれた慈悲なのかもしれない。ずっとずっと、苦しみの中で生きて、死ぬことによってようやく、暖かい世界に行けたのかもしれない。


「っ、今、動かなかったか!?」

「えぇっ、確かに!」

「おいっ、大丈夫か? って、いや、大丈夫ではないな。けど、何て言ったら良いんだ? その……」

「殿下、慌てないでください。彼女にはまだ、休息が必要なのかもしれません。寝返りという可能性もありますし、もう少し、様子を見ましょう」

「そ、そう、か……」


 誰かの声が、近くでしていたが、私には関係のないものだ。ただ……。


(『大丈夫か』なんて、かけてもらったことのない言葉ね……)


 心配してもらえる人は良いなぁと、少しだけ考えて、そんな風に羨む資格はないのだと心が冷えていくのを感じる。


(私には、何もない。努力がきっと、足りなかったから、そして、きっと、前世が悪人だったから、剣姫の力も持てなかった……)


 家族から、婚約者から、国王から、貴族から、民衆から、私は否定された。誰かを羨むことができるのは、自分にもそれが与えられるべきだと思えるからだ。けれど、私は否定された存在。心配してもらえるような言葉が与えられるべきだなんて、全然、思えない……。


「っ、魘されているのか? アルス、お、俺は、どうすれば良い?」

「こういう時は……そうですね、手を、握って差し上げるのがよろしいかと」

「そ、そうか!」


 全然、思えないはず、なのに……心は、良いなぁと、声をあげる。キリキリと、痛みを訴える。そんなもの、私に与えられるはずがないのに。諦めてしまった方が楽なのに……。
 だから、私の手に、何かがそっと触れた瞬間、ビクリとしてしまった。だって、あまりにもタイミングが良すぎたから。


「っ、目が、覚めたのか!?」


 そして……その言葉が自分に向けられたものだと理解するには、もう少し、時間を経てからのことだった。
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