悪役令嬢の生産ライフ

星宮歌

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第一章 幼少期編

第百三十五話 帰りたくない

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 イルト王子を側妃様の手から救出した私は、すっかり元気をなくしてしまったイルト王子の側に付き添い、お父様が迎えに来るまで、そのままだった。


「ユミリア。詳細はアルト殿下にお聞きした。だが、さすがにもう帰らなければ」

「はい、お父様」


 イルト王子の危機を察知して、一緒にこの部屋へと向かっていたはずのアルト王子が姿を現さないと思っていたら、どうやら、一度は部屋の前に来て、様子を確認した後、各所に事の次第を説明してくれていたらしい。


「イルト様、私は帰りますが、もし、何かあれば、すぐに知らせてくださいね?」

「うん。ユミリアじょうも、しらせてね?」


 まだ、すっかり元通りというわけにはいかないものの、落ち着きを取り戻し、微笑んでくれたイルト王子。心配は尽きないものの、一応、現段階でイルト王子に直接危害を加える方法は限られているし、私が居ない間、セイ達に護衛だってしてもらっている。だから、きっと、大丈夫なはずだと思って、スッと立ち上がると、クイッとドレスの裾が引っ張られる感覚がする。見れば、イルト王子が軽く、指でドレスの裾を掴んでいた。


「あ、ご、ごめん」


 私の視線を追って、自分が私を引き留めていることに気づいたらしいイルト王子は、慌ててドレスから手を離す。


「イルト様……やっぱり、私……」

「だいじょうぶ。だから、ちゃんとかえって?」


 もう少しだけ、この場に残るべく、お父様へ交渉しようかとも思ったが、それを察したイルト王子に否定されてしまっては、何もできない。本当は、帰りたくなかったものの、あまり、お父様の手を煩わせるわけにもいかない。


「あ……」


 少しだけ悩みながらも、じっと待ってくれているお父様の方へ振り向いて歩き出せば、小さな、本当に小さな、イルト王子の声がした。

 チラリと振り向けば、イルト王子は、私の方ではなく、何かを見て、ショックを受けたような表情をしていた。何を見ているのかが気になって、その視線を追えば、そこには、潰れた箱らしきものがある。


「ユミリア。行くぞ」

「……はい、お父様」


 お父様に促されて、私は、イルト王子に話しかけたいのを我慢して、その場を去る。


(後で、アルト王子に確認してみよう。それで、あれが何か大切なもので、壊れたとかなら、私が直せるはずだから、イルト様に提案してみよう)


 仕事で忙しいはずのお父様を、これ以上待たせるわけにもいかなかった私は、ひとまずその場を後にする。それがまさか、側妃様に否定される以上のダメージをイルト王子に与えていたとも知らずに……。
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