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第二章 少女期 瘴気編
第二百五十三話 欲する力(イルト視点)
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ユミリアの様子がおかしいことは、とっくに気づいていた。それは、ユミリアの記憶が前世の記憶のみになっているからだと言われれば、納得してしまいそうな小さな変化であり、実際、ユミリアと直接話せるミーシャは、先ほどまで気づいていなかった。
残念ながら、何が原因なのか、はっきりとしたことは分からない。ただ、時々、何かを想うように遠くを見ているような気がするため、前世の親しい人間のことを考えているのではないかというのが、僕やメリーの意見だ。
(ユミリアが苦しんでいるのに、僕は、また、何もできないのか……?)
ミーシャに教わって、日本語の勉強を始めたは良いものの、まだ、ようやく発音ができるようになって、挨拶ができるだけという状態だ。しかも、その挨拶も、気をつけなければ聞き取ってもらえないだろうと言われている。僕と同じく、メリーも勉強中だが、ミーシャに言わせると上達具合はほぼ同じらしい。そんな状態だから、ユミリアと会話をすることなどできない。ユミリアの心に寄り添おうにも、どこか一線を引いているらしく、僕の顔が好きだとは思ってくれているようだが、警戒心を抱いたまま、近寄ってくる気配はない。
ユミリアを休ませようとしたものの、拒絶され、僕は、今のユミリアは、僕の知るユミリアではないと分かっていても、頭の中が真っ白になる。
(僕に、力がなかったから……ユミリアを、守るだけの力が……)
今、ユミリアが自分を追い詰めているのは、元を辿れば僕自身の不甲斐なさが原因だと、どうしようもなく自覚してしまう。だから……。
『ちかラが、ホシい?』
「……ほしい」
応えてはいけない問いに応えたのだと気づいたのは、怯えたユミリアの目を見た瞬間だった。
「な、に……? それは、何なの……?」
不思議と、ユミリアが何を言っているのか、理解できる。僕は、なぜか、ユミリアと剣を交えていた。しかし、その視界は黒いもやで不明瞭な状態。それでも、ユミリアの顔が見えないほどではないし、自分が何をしているのか分からないわけでもない。
「アァ……」
全身に力がみなぎる。今ならば、どんな敵をも倒せてしまえる。そんな万能感に包まれながらも、僕の体は、全く自由がきかない。『逃げて』と言おうとしているのに、口から漏れるのは、低い唸り声のようなもののみ。
体の自由がきかないまま、僕は、ユミリアに剣を向けて、激しく攻撃を繰り出す。
「っ、お嬢様っ!」
「なにっ、この瘴気はっ! 浄化、できないっ」
ユミリアに剣を向けたくなどない。それなのに、体は止まってくれない。
メリーが駆けつけて、ユミリアを守ろうとするものの、急激に力を増した僕の剣は、容易くメリーを退ける。
「っ、メリーさんっ!?」
ユミリアの悲鳴が聞こえる。それなのに、それなのに……僕は、また、守れない。
「ア、アァァァアッ!」
嫌だ、嫌だと、必死に肉体の制御を取り戻そうとするが、僕の剣は、少しずつ、ユミリアの体に傷をつけていく。
(嫌だっ、嫌だっ、嫌だぁぁぁぁぁぁあっ!!!)
そして、とうとう、ユミリアの刀は、僕の剣に弾かれ……剣を持つ手から、とても、嫌な感触が伝わってくるのだった。
残念ながら、何が原因なのか、はっきりとしたことは分からない。ただ、時々、何かを想うように遠くを見ているような気がするため、前世の親しい人間のことを考えているのではないかというのが、僕やメリーの意見だ。
(ユミリアが苦しんでいるのに、僕は、また、何もできないのか……?)
ミーシャに教わって、日本語の勉強を始めたは良いものの、まだ、ようやく発音ができるようになって、挨拶ができるだけという状態だ。しかも、その挨拶も、気をつけなければ聞き取ってもらえないだろうと言われている。僕と同じく、メリーも勉強中だが、ミーシャに言わせると上達具合はほぼ同じらしい。そんな状態だから、ユミリアと会話をすることなどできない。ユミリアの心に寄り添おうにも、どこか一線を引いているらしく、僕の顔が好きだとは思ってくれているようだが、警戒心を抱いたまま、近寄ってくる気配はない。
ユミリアを休ませようとしたものの、拒絶され、僕は、今のユミリアは、僕の知るユミリアではないと分かっていても、頭の中が真っ白になる。
(僕に、力がなかったから……ユミリアを、守るだけの力が……)
今、ユミリアが自分を追い詰めているのは、元を辿れば僕自身の不甲斐なさが原因だと、どうしようもなく自覚してしまう。だから……。
『ちかラが、ホシい?』
「……ほしい」
応えてはいけない問いに応えたのだと気づいたのは、怯えたユミリアの目を見た瞬間だった。
「な、に……? それは、何なの……?」
不思議と、ユミリアが何を言っているのか、理解できる。僕は、なぜか、ユミリアと剣を交えていた。しかし、その視界は黒いもやで不明瞭な状態。それでも、ユミリアの顔が見えないほどではないし、自分が何をしているのか分からないわけでもない。
「アァ……」
全身に力がみなぎる。今ならば、どんな敵をも倒せてしまえる。そんな万能感に包まれながらも、僕の体は、全く自由がきかない。『逃げて』と言おうとしているのに、口から漏れるのは、低い唸り声のようなもののみ。
体の自由がきかないまま、僕は、ユミリアに剣を向けて、激しく攻撃を繰り出す。
「っ、お嬢様っ!」
「なにっ、この瘴気はっ! 浄化、できないっ」
ユミリアに剣を向けたくなどない。それなのに、体は止まってくれない。
メリーが駆けつけて、ユミリアを守ろうとするものの、急激に力を増した僕の剣は、容易くメリーを退ける。
「っ、メリーさんっ!?」
ユミリアの悲鳴が聞こえる。それなのに、それなのに……僕は、また、守れない。
「ア、アァァァアッ!」
嫌だ、嫌だと、必死に肉体の制御を取り戻そうとするが、僕の剣は、少しずつ、ユミリアの体に傷をつけていく。
(嫌だっ、嫌だっ、嫌だぁぁぁぁぁぁあっ!!!)
そして、とうとう、ユミリアの刀は、僕の剣に弾かれ……剣を持つ手から、とても、嫌な感触が伝わってくるのだった。
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