冒険の書 ~続の書~

星宮歌

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第一章 第一フロア

戦闘開始

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 お腹が空いている様子の琴音に、僕は自然と『水蔦』へと視線を移す。しかし、そうした瞬間、琴音がブンブンと首を横に振る様子が見えたので、勧めるのはやめておく。


「じゃあ、琴音の安全地帯に向かうついでに食料調達をしに、外に出てみる?」

「外……」


 扉の方を指差して言ってみれば、琴音は眉根を寄せて嫌そうにする。


「モンスターは、僕が倒すから、行ってみない?」


 今、琴音には、モンスターへの対抗手段がない。だから、そう提案して後押しをしてみる。すると……。


「……う、ん、分かった」


 渋々といった様子ではあったものの、どうにか琴音をうなずかせることに成功する。


「よし、それじゃあ、行こうか」


 そうと決まれば、即、行動だ。ダラダラして心変わりされては堪らない。僕は、すぐに扉へと向かい、その扉を下から上へとスライドさせて外に出るのだった。





 気配を殺して、ゆっくりゆっくり、琴音の記憶を頼りに進む。所々記憶が覚束ないのか、進む方向に悩むこともあって、少しだけ不安はあるものの、着々と進んでいく。


 ゥゥ。


 と、そんな時だった。何かの、声らしきものが聞こえてきたのは。


 っ、どこから!?


 僕は、すぐに剣を手に取り、戦いの準備を整える。その姿に琴音は怯えているようではあったものの、自分達の身を守るためには仕方がない。


 ウゥゥ。


 声が少し大きくなった気がして、僕は、なおのこと、意識を張り詰める。


「琴音。絶対に僕の後ろから出るな」

「うん」


 小声で応酬し、僕はできる限り自分の感覚を研ぎ澄ませる。
 剣を持ったのは、ここに来た時が初めてだし、特に武術をやっていたわけでもない。精々、幼い頃にチャンバラごっこをやったくらいの記憶しかない僕が、モンスターを倒せるかどうかは分からない。しかし、琴音の前で、そんな弱音は吐けなかった。


 やるしか、ない。


 ひんやりとした汗が伝う中、僕はゆっくり、ゆっくり進み出す。


 ウゥゥウ。


 声がまた、大きくなった。どうやら、この先にそれは居るらしい。

 相手が人間だった場合は、間違って斬りかからないようにしようと思っているものの、この緊張感の中、どこまで対処できるかは全く分からない。恐慌に駆られて、襲い掛かってしまわないとも限らない。


「ふぅっ」

「っ」


 落ち着こうと思って息を吐けば、琴音がピクリと反応する。きっと、琴音も緊張しているのだろう。

 ゆっくり、ゆっくり、亀のように歩を進める。警戒すべきはモンスター。『冒険の書』には、『人食い花』しか書かれていなかったものの、モンスターの種類が一つだけとは思えない。ここが異世界だとするなら、モンスターは色々なものがあってもおかしくない。そして……。


「っ!」


 視線の先に、何かの影を捉えた僕は、剣を握り込み、構える。すると、ソレも……明らかに人間サイズではあり得ない小ささのソレも、僕達に気づいて四足歩行で走り出す。


「ヂュウゥゥゥウッ」

「っ、ネズミっ!?」

「ひっ!」


 それは、成猫ほどのサイズのネズミだった。僕は、即座にソレをモンスターだと判断して剣を降り下ろす。しかし、ネズミは素早かった。


「ヂュッ」

「きゃあっ!?」

「琴音!」


 ネズミは、僕の剣を軽々と避けて、琴音へと襲い掛かる。ただ……。


「いやぁあっ!!」

「ヂュッ!?」


 琴音の足元まで来たネズミは、見事なまでの琴音の蹴りを受けて飛んでいく。


「はっ?」


 そして、軽い音を立てて壁に叩きつけられたネズミは、頭でも打ったのか、フラフラと覚束ない足取りになる。


「お、お兄ちゃんっ、今だよっ!」

「あっ、うん」


 思わぬ事態に少し呆然としたものの、今がチャンスであることに間違いはない。僕は、ネズミに向かって素早く剣を降り下ろすのだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


今回の敵はネズミ。

えっ?

もう一つの作品に出してるネズミじゃないかって?

な、なんのことやら?

な、名前は変えるつもりだし?

『マウマウ』以外の名前にしますよ?

……多分。

そ、それでは、また!
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