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第一章 第一フロア
*戦闘終了
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黒い光を放って霧散したネズミを見て、僕は戦闘が終わったことを知り、知らず知らずのうちにホッと息を吐く。ネズミが居たところには、透明な液体が入った瓶が置かれており、もしかしたら水かもしれないと期待してしまう。
「お、お兄ちゃん」
そうして、水らしき液体が入った瓶をリュックの中に入れていると、琴音がどこか緊張したような声で呼び掛けてくる。
「どうした?」
何かあっただろうかと思い、僕は瓶を完全にリュックの中に収めた上で琴音の方を向く。すると、その琴音はどこかへ視線を向けたまま、恐怖に顔を引きつらせていた。
瞬時に、僕はその視線の先を辿り、絶句する。
そこには、無数の目が光輝いていた。
「「「「ヂューッ!!」」」」
「っ、逃げろ!!」
無数の目の正体は、あのネズミだった。つまりは、それだけの大群が押し寄せてきているということ。僕は、その事実を認識した途端に琴音へと声をかけ、一緒に逃げ出そうとする。しかし……。
「ダ、ダメっ! ここで戦わなきゃっ!」
「っ、何言ってるんだっ! 早く逃げるよっ」
なぜか、琴音は逃げることに反対した。ただ、その琴音の言葉を、僕自身、理由も分からず心の中で肯定してしまう。その証拠に、僕の足は、琴音に引き留められた瞬間、止まってしまっていた。
「っ、あぁっ、もうっ!」
「私、できるだけ蹴り飛ばすから、だから、お兄ちゃん、お願いっ!」
「「「「ヂュヂューッ!」」」」
今からでは、きっと逃げられない。それが分かって、僕も覚悟を決める。
ネズミくらい、簡単に撃退しなくてどうする。
そんな思いとともに、僕は、極力琴音の負担を減らすべく、ネズミの大群の方へと走るのだった。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、お、終わった、な」
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、う、うん」
ネズミの大群に向かってからは、それはそれは激闘だった。突進してくる奴等を蹴り飛ばし、飛び上がってくる奴等を腕や剣で振り払い、動けなくなったところを着実に止めを刺していく。文字にしてしまえば簡単そうなことだが、実際は体力も気力も随分と削られた。
甲冑のおかげでダメージらしいダメージはなかったものの、所々噛み跡がついていることから考えると、甲冑を着ていなければ大怪我をしていたところだろう。
「はぁっ、ふぅっ、つ、疲れた」
「ふぅっ、うん、そう、だね」
ようやく息が落ち着いてきたところで辺りを見てみると、いくつもの透明な液体入りの瓶と、たまにビニールに入った葉っぱらしきものが目につく。きっと、これらは全て、あのネズミのドロップアイテムとやらなのだろう。
「琴音、回収を頼める? 僕は辺りを警戒しておくから」
二度はないとは思うものの、もしかしたら、またあのネズミが大群になって攻めてくるかもしれない。そうなると、剣を持った僕が警戒にあたった方が良さそうだと思い、琴音にアイテムの回収を頼む。
「うん、分かった。それじゃあ、終わったら『冒険の書』を見てみよう。何か、さっきのことに関する情報があるかもしれないし」
「あぁ、確かに。分かった。じゃあ、これ、リュック。よろしくな」
「うん」
本当は、どうして逃げようとしなかったのかを琴音に問い詰めるべきだったのかもしれないが、自分自身でも『逃げてはいけない』という感覚に襲われて逃げられなくなったことを考えれば、琴音だけを責めることはできない。今はとにかく、得られるものは全て得て、情報を確認して、安全な場所へ戻ることが重要だろう。
ほどなくしてアイテムの回収を終えた琴音が戻ってきて、僕は琴音がリュックから出した『冒険の書』を受け取り、ページを確認してみる。
『第一フロア 地帯区分B
滝野透はB地帯へ進行
これより危険地帯
ベンが現れた
滝野透はベンを斬った
ベンは攻撃をかわした
ベンは突進した
滝野琴音が攻撃した
ベンは意識を混濁させた
滝野透はベンを斬った
ベンを倒した
ドロップアイテム 濃厚な水
ベンの特性『仇討ち』発動
これより、時間計測開始
ベンの集合
ベンが現れた
ベンが現れた
ベンが現れた
ベンが現れた
――――――
ベンを倒した
レアドロップアイテム 毒草
条件が満たされたため、モンスター図鑑の掲載開始
――――――
ベンを倒した
滝野透は10レベルになった
ドロップアイテム 濃厚な水
条件が満たされたため、ベンの特性、『仇討ち』解除
ベンは突進した
ベンは噛みついた
――――――
ベンを倒した
滝野透は12レベルになった
ドロップアイテム 濃厚な水 』
似たような文章を読み飛ばして、確認していくと、あれだけのネズミが発生したのは、この『仇討ち』とやら原因ではないかと予想できた。『仇討ち』の詳しい内容は書いていないものの、『時間計測』とあることから、解除方法は時間内にベンという名のネズミのモンスターを一定量倒すことだったのかもしれない。そして、解除されてもまだベンが残っていたことや、恐らく解除されてからベンが増えなくなったということを考えると……。
「逃げていたら、際限なく増えていた?」
あのまま逃げ出していれば、際限なく増えたベンに襲われて、全身をかじられて死んでいたかもしれない。そのことに思い至り、僕はゾクリとした悪寒に襲われる。
『逃げてはいけない』という意味不明な感覚は、もしかしたら第六感というやつだったのかもしれなかった。
「……」
黙ったままの琴音を見れば、同じ考えに至ったのか、真っ青になっている。僕は、本当に逃げなくて良かったと、再度認識する。もし、逃げていれば、僕だけでなく、琴音まで、全身をかじられて絶命していたかもしれないのだ。
「……っ!?」
と、そこでなぜか逃げた結果、琴音が絶命した姿をありありと思い浮かべてしまう。『恐怖に歪んだ顔で、顔中、体中から血を流し、こぼれ落ちた片目を食われている姿』を……。
あまりにリアルなそれに、僕はブンブンと頭を振って、その幻を振り払う。
琴音は死んでいない。大丈夫。大丈夫だ。
そんな風に自分に言い聞かせる僕を琴音は不思議そうに見ていたが、すぐに『冒険の書』へと視線を移す。
「ねぇ、お兄ちゃん。『アイテム図鑑』と、『モンスター図鑑』も見てみようよ」
「あ、あぁ、うん、そうだな」
そうして、僕はもう一度、『冒険の書』のページを捲るのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ネズミの名前、どうしようかなぁと思っていたら、『黒いネズミはベン、白いネズミはソクラテスだ』ととある人物に言われまして、それを採用しました。
分かる人が居るのかはなはだ疑問ではありますが……。
少なくとも、私はその映画(?)を知らなかったです。
さて、次回は来年になります。
次は、一月三日に更新予定です。
それでは、良いお年を!
「お、お兄ちゃん」
そうして、水らしき液体が入った瓶をリュックの中に入れていると、琴音がどこか緊張したような声で呼び掛けてくる。
「どうした?」
何かあっただろうかと思い、僕は瓶を完全にリュックの中に収めた上で琴音の方を向く。すると、その琴音はどこかへ視線を向けたまま、恐怖に顔を引きつらせていた。
瞬時に、僕はその視線の先を辿り、絶句する。
そこには、無数の目が光輝いていた。
「「「「ヂューッ!!」」」」
「っ、逃げろ!!」
無数の目の正体は、あのネズミだった。つまりは、それだけの大群が押し寄せてきているということ。僕は、その事実を認識した途端に琴音へと声をかけ、一緒に逃げ出そうとする。しかし……。
「ダ、ダメっ! ここで戦わなきゃっ!」
「っ、何言ってるんだっ! 早く逃げるよっ」
なぜか、琴音は逃げることに反対した。ただ、その琴音の言葉を、僕自身、理由も分からず心の中で肯定してしまう。その証拠に、僕の足は、琴音に引き留められた瞬間、止まってしまっていた。
「っ、あぁっ、もうっ!」
「私、できるだけ蹴り飛ばすから、だから、お兄ちゃん、お願いっ!」
「「「「ヂュヂューッ!」」」」
今からでは、きっと逃げられない。それが分かって、僕も覚悟を決める。
ネズミくらい、簡単に撃退しなくてどうする。
そんな思いとともに、僕は、極力琴音の負担を減らすべく、ネズミの大群の方へと走るのだった。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、お、終わった、な」
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、う、うん」
ネズミの大群に向かってからは、それはそれは激闘だった。突進してくる奴等を蹴り飛ばし、飛び上がってくる奴等を腕や剣で振り払い、動けなくなったところを着実に止めを刺していく。文字にしてしまえば簡単そうなことだが、実際は体力も気力も随分と削られた。
甲冑のおかげでダメージらしいダメージはなかったものの、所々噛み跡がついていることから考えると、甲冑を着ていなければ大怪我をしていたところだろう。
「はぁっ、ふぅっ、つ、疲れた」
「ふぅっ、うん、そう、だね」
ようやく息が落ち着いてきたところで辺りを見てみると、いくつもの透明な液体入りの瓶と、たまにビニールに入った葉っぱらしきものが目につく。きっと、これらは全て、あのネズミのドロップアイテムとやらなのだろう。
「琴音、回収を頼める? 僕は辺りを警戒しておくから」
二度はないとは思うものの、もしかしたら、またあのネズミが大群になって攻めてくるかもしれない。そうなると、剣を持った僕が警戒にあたった方が良さそうだと思い、琴音にアイテムの回収を頼む。
「うん、分かった。それじゃあ、終わったら『冒険の書』を見てみよう。何か、さっきのことに関する情報があるかもしれないし」
「あぁ、確かに。分かった。じゃあ、これ、リュック。よろしくな」
「うん」
本当は、どうして逃げようとしなかったのかを琴音に問い詰めるべきだったのかもしれないが、自分自身でも『逃げてはいけない』という感覚に襲われて逃げられなくなったことを考えれば、琴音だけを責めることはできない。今はとにかく、得られるものは全て得て、情報を確認して、安全な場所へ戻ることが重要だろう。
ほどなくしてアイテムの回収を終えた琴音が戻ってきて、僕は琴音がリュックから出した『冒険の書』を受け取り、ページを確認してみる。
『第一フロア 地帯区分B
滝野透はB地帯へ進行
これより危険地帯
ベンが現れた
滝野透はベンを斬った
ベンは攻撃をかわした
ベンは突進した
滝野琴音が攻撃した
ベンは意識を混濁させた
滝野透はベンを斬った
ベンを倒した
ドロップアイテム 濃厚な水
ベンの特性『仇討ち』発動
これより、時間計測開始
ベンの集合
ベンが現れた
ベンが現れた
ベンが現れた
ベンが現れた
――――――
ベンを倒した
レアドロップアイテム 毒草
条件が満たされたため、モンスター図鑑の掲載開始
――――――
ベンを倒した
滝野透は10レベルになった
ドロップアイテム 濃厚な水
条件が満たされたため、ベンの特性、『仇討ち』解除
ベンは突進した
ベンは噛みついた
――――――
ベンを倒した
滝野透は12レベルになった
ドロップアイテム 濃厚な水 』
似たような文章を読み飛ばして、確認していくと、あれだけのネズミが発生したのは、この『仇討ち』とやら原因ではないかと予想できた。『仇討ち』の詳しい内容は書いていないものの、『時間計測』とあることから、解除方法は時間内にベンという名のネズミのモンスターを一定量倒すことだったのかもしれない。そして、解除されてもまだベンが残っていたことや、恐らく解除されてからベンが増えなくなったということを考えると……。
「逃げていたら、際限なく増えていた?」
あのまま逃げ出していれば、際限なく増えたベンに襲われて、全身をかじられて死んでいたかもしれない。そのことに思い至り、僕はゾクリとした悪寒に襲われる。
『逃げてはいけない』という意味不明な感覚は、もしかしたら第六感というやつだったのかもしれなかった。
「……」
黙ったままの琴音を見れば、同じ考えに至ったのか、真っ青になっている。僕は、本当に逃げなくて良かったと、再度認識する。もし、逃げていれば、僕だけでなく、琴音まで、全身をかじられて絶命していたかもしれないのだ。
「……っ!?」
と、そこでなぜか逃げた結果、琴音が絶命した姿をありありと思い浮かべてしまう。『恐怖に歪んだ顔で、顔中、体中から血を流し、こぼれ落ちた片目を食われている姿』を……。
あまりにリアルなそれに、僕はブンブンと頭を振って、その幻を振り払う。
琴音は死んでいない。大丈夫。大丈夫だ。
そんな風に自分に言い聞かせる僕を琴音は不思議そうに見ていたが、すぐに『冒険の書』へと視線を移す。
「ねぇ、お兄ちゃん。『アイテム図鑑』と、『モンスター図鑑』も見てみようよ」
「あ、あぁ、うん、そうだな」
そうして、僕はもう一度、『冒険の書』のページを捲るのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ネズミの名前、どうしようかなぁと思っていたら、『黒いネズミはベン、白いネズミはソクラテスだ』ととある人物に言われまして、それを採用しました。
分かる人が居るのかはなはだ疑問ではありますが……。
少なくとも、私はその映画(?)を知らなかったです。
さて、次回は来年になります。
次は、一月三日に更新予定です。
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