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第五章 お姉様

第六十三話 美女登場

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 お屋敷は、案外大きくて、見る場所も多かった。特に、色々な物が収められている倉庫は、何となく見ていて楽しかった。


(だって、剣とかあるしっ、鎧とかも格好良かったしっ!)


 しかも、それらの武器は今も使われているという。


(今度、ライナードが使ってるところ、見せてもらおうかな?)


 迷惑なら諦めるが、もし、見学ができるのであれば、訓練風景でも見てみたい。きっと、あの強面のライナードは強くて格好良いのだろう。

 一般客用の客室や、厳かな雰囲気が漂う茶室……なぜか、ライナードの趣味が詰まったぬいぐるみ部屋にも案内され、その後もブラブラと、色々な部屋を覗いていた。すると……。


「カイトーっ!」


 後ろから、ドドドドドッという足音とともにやってきたライナードは、何やら切羽詰まった表情をして、俺と衝突する前に立ち止まる。俺は振り返って、そんなライナードに口を開く。


「どうしたんだ? ライナー「まぁぁぁあっ! 彼女がそうなのねっ!?」へっ?」


 『ド』という最後の言葉を告げる前に、俺は後ろから誰かに抱きつかれる。


「へっ? えっ?」

「あ、姉上……」


 そして、目の前のライナードは、なぜか、サァアッと青ざめる。


(あねうえ? 姉上!? えっ? ライナードのお姉さん!? というか、何で、ライナードは青ざめてるんだ?)


 ライナードの様子に、俺は言い知れない不安を感じる。そして……。

 ギュウゥゥゥウッ!


「うぐぅっ」


 お腹に回された腕が、ギュウッとめり込む。


「あぁぁっ、私に義妹ができるのねっ! この堅物に片翼ができるなんて、夢みたいだわっ」

(は、離して……)


 あまりの力強さに、呼吸もままならず、とりあえず目の前のライナードに助けを求める。


「姉上っ、カイトを離してくださいっ! 力を込めすぎですっ!」

「まぁっ! ごめんなさいっ、私ったら、嬉しくって、つい……」

「ごほっ、はぁっ、はぁっ、た、助かった……」


 離された瞬間、俺は奪われるようにしてライナードの腕の中に包まれる。


「姉上っ、カイトはか弱い人間の女性なんですっ! 力加減を考えてくださいっ」

「ごめんなさいね? カイトちゃん?」


 謝ってくれるその声に、俺はライナードの言葉にちょっと物申したいことはあったものの、ゆっくり振り返ってみる。すると……。


「許してくれる? カイトちゃん?」


 翡翠の流れるような長髪に、赤い角、赤い瞳を持つ、妖艶な美女が居た。


「あっ、う……えっと……」


 リリスさんはキツメの美女、ローレルさんは残念な美女で、最初は彼女達に接するのも、ある程度ドギマギする部分はあったのだが、中身を知ってしまえばそんなことはなくなった。しかし、これは、この妖艶な美女は、ハードルが高い。
 たれ目な彼女は、強面のライナードとは似ていないように思えるが、口元の形だとか、髪や目の色なんかはそっくりだ。それは、もし、ライナードが女性だったら、こうだったかもしれないという想像まで掻き立てられて、何だか、冷静ではいられない。


「カイト……? っ! ダメだっ! カイトは俺だけを見てくれっ!」

「うわっ、えっ? えっ?」


 ボーッとしていると、ふいに、ライナードが真剣な声で俺を抱き締める。その力は、しっかりと加減されたものであり、苦しくはない。苦しくはない、が……。


「な、何を言ってるんだっ、ライナード!」

「あらあらまあまあっ、熱々ねっ! 熱々なのねっ!」


 思わずライナードに抗議するが、そうすると、途端に美女が興奮し出す。


「そうです。今、俺達は熱々なんです。だから、さっさと帰ってください」

「いや、熱々じゃ「まあっ、お姉様に向かってそんな口をきくなんて、よっぽど昔話をされたいらしいわね?」いや、あの?」


 何か盛大な誤解をされている。そう思うものの、口を挟む暇がない。


「ぐっ、それはっ」

「さぁっ、ライナード! カイトちゃんを私に渡しなさいっ! 悪いようにはしないわ」

「いや、だから熱々とかじゃ「カイト……」えっと、何か問題があるのか?」


 切ない声で呼んでくるライナードに、俺は思わず、そんな質問をする。それが、大きな間違いだと気づかずに。


「ほらっ、カイトちゃんだって、未来の義姉妹としてお話したいはずよっ。さぁっ、さぁっ」

「ぐ、ぅ……」


 何やら、ライナードが劣勢の状態で、俺は、渋々といった様子のライナードに、美女へと引き渡される。


(えっ? ちょっ? もしかして、俺、選択ミスしたっ!?)


 そうして、俺はなぜか、美女に連れられて、どこかの部屋へと押し込められるのだった。
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