俺、異世界で置き去りにされました!?

星宮歌

文字の大きさ
69 / 121
第五章 お姉様

第六十八話 禁忌(ライナード視点)

しおりを挟む
 城に着いて早々、俺は陛下への謁見を願い、許可が出るまでの間、客室を一つ貸してもらう。
 リドルは未だ、涙が止まらない様子で、酷く憔悴している。さすがに、この姿を大勢の前にさらすわけにはいかなかった。


「レティ、レティ……」


 悲痛な声で泣く友の声に、こちらまで辛くなってくる。


(俺も、もし、カイトから別れてほしいなどと言われたら……)


 想像だけで、気持ちが落ち込むには十分だった。


「ライナード・デリク様、陛下との謁見の許可が下りました。案内させていただきます」

「む、頼む」


 一瞬落ち込みはしたものの、今はとにかくリドルのことだ。側に控えていた侍従がそう告げたことで、俺はリドルに肩を貸しながら立ち上がる。


「リドル、行くぞ」


 一応声をかけるものの、リドルは心ここにあらずの状態で、虚ろな目をしている。これは、早く俺が思い至った可能性を話さなければならないだろう。

 ほとんどリドルを抱え上げるような状態で、人気のない通路を案内された俺達は、そのまま、陛下の個室へと案内される。
 礼をして去っていく侍従を見送って、俺は扉を叩く。


「ライナード・デリク、参りました」

「入れ」


 扉を開けると、ジークフリート魔王陛下が椅子に座ってこちらを見ていた。そして、リドルの様子を見るや否や、立ち上がって声を荒げる。


「何があった!」


 リドルは、陛下にとっての親友でもある。こうして嘆いているリドルを見るのはきっと、陛下も初めてなのだろう。珍しくユーカ様のこと以外で困惑した表情を浮かべていた。


「リドル。とりあえず、座るぞ」

「……」


 もう泣き喚く気力もないのか、ただただ力なくうなだれて、涙を流し続けるリドルを椅子に座らせて、俺は陛下に使用人から告げられた事の顛末を話す。


「……それは、ここ最近、片翼を失って狂う魔族が何人も目撃されているのと関係がありそうだな」

「はい。恐らくは、禁忌の魔法が使われているものかと思われます」


 『禁忌の魔法』と呼ばれるものには、いくつか種類がある。しかし、その中でも魔族にとって最も禁忌とされている魔法が、魅了の魔法だ。例え片翼が居る魔族であっても、その心を狂わせ、術者の思うがままになってしまうその様子は、魔族に大きな絶望を与えるものだ。


「禁、忌……」


 俺が禁忌魔法の話をすれば、それまで黙っていたリドルがゆっくりと顔を上げる。


「じゃあ、レティは、望んでもいない相手に操られてるってことなの?」


 その瞳に浮かぶのは、ほの暗い怒りの炎。


(当然の反応、だな)


 片翼を盗られた魔族ほど恐ろしいものはない。きっと、リドルは俺達が止めようとしても、それを全力で振り切って、片翼を取り戻そうとするだろう。


「あくまでも仮定の話だが、その可能性は高いと推測する」

「そう」


 そうして、怒りのあまり拳を握り、血を流すリドルを横目に、俺は話を進める。今、リドルはすぐにでも飛び出したいのを我慢してくれているのだ。だから、すぐにでも話をまとめてしまいたい。


「リドル、レティシア殿は、闇魔法に耐性はなかったのか?」

「精霊王の娘ではあるけど、耐性は弱いと言っていたわ。ただ、弱いといっても、それはあくまで精霊の中でという話で、世間一般から見れば、十分な耐性を備えていたはずよ」

「そうか、なら、闇魔法の耐性が特に強い、光魔法使いを選別せねばな」


 陛下の言葉に、リドルは唇をギュッと噛むと、『お願い、するわ』と告げる。

 魅了の魔法は闇魔法に分類され、耐性がないものは簡単にかかってしまうような魔法だ。いや、今回の場合、耐性があってもかかっていることから、相手は相当な力の持ち主だということが分かる。闇魔法に耐性があり、なおかつ、それを封じる光の魔法使いでなければ、今回の任務に参加することはできない。


「任せろ、俺が、必ずレティシア殿を助け出してみせる」


 そして、その闇魔法への耐性と、光魔法の適性を持つのは、俺もそうだった。と、いうより、そのどちらもが突出して高かったりする。


「お願い、ライナード。レティを、レティを、助けてっ」

「む」


 リドルの言葉に、俺は大きくうなずく。片翼を失う苦しみなんて、友に味わってもらいたくはない。


「休暇中ですまないが、協力を頼む。休暇はその分延長しておく」

「承知」


 陛下からも頼まれて、俺は気合い十分で応える。
 リドルはひとまず、城に滞在することとなり、俺は一度屋敷に戻ることにする。恐らく、これからしばらくの間は屋敷に帰ることができなくなる。だから、カイトに直接会って、そのことを告げてから、俺は動くつもりだった。


(もし、姉上が屋敷に滞在するなら、カイトの護衛を頼もう)


 俺ほどではないものの、姉上もそこそこに力のある魔族だ。何があって屋敷にやってきたのかは知らないが、滞在するつもりであれば、働いてもらうことにしよう。
 そう考えて馬車に乗り込もうとした時だった。見覚えのある侍女が血相を変えてやってきたのは。


(あれは、姉上の侍女……? 何か、あったのか?)

「ライナード様っ! アメリア様がっ、奥様がっ!」


 そんな叫びに、俺はすぐさま何があったのかを問いただし、事態を把握するや否や、馬車に飛び乗り、屋敷へと急ぐのだった。
しおりを挟む
感想 234

あなたにおすすめの小説

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!

ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。 ※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。

物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜

丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。 与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。 専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、 失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。 そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、 セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。 「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」 彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、 彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。 嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、 広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、 独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。 栄養と愛情を取り戻したセレナは、 誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、 社交界で注目される存在となる。 一方、セレナを失った伯爵家は、 彼女の能力なしでは立ち行かず、 ゆっくりと没落していくのだった――。 虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。

侯爵家の婚約者

やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。 7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。 その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。 カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。 家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。 だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。 17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。 そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。 全86話+番外編の予定

不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。

桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。 戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。 『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。 ※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。 時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。 一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。 番外編の方が本編よりも長いです。 気がついたら10万文字を超えていました。 随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜

鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。 誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。 幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。 ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。 一人の客人をもてなしたのだ。 その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。 【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。 彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。 そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。 そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。 やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。 ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、 「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。 学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。 ☆第2部完結しました☆

<完結>溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。 本編完結済み。 続きのお話を、掲載中です。 続きのお話も、完結しました。

処理中です...