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第五章 お姉様
第六十九話 ライナードの帰宅
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倒れたアメリアさんを客室に運び込み、布団に寝かせて一段落ついたところで、ライナードが帰ってきた。
「カイト!」
「しーっ」
いきなり大声を出して入ってくるものだから、俺は慌てて口の前に人差し指を立てて注意する。
「む……す、すまない?」
「アメリアさんは、今眠ってるだけで心配はいらないよ。それで、話があるなら、場所を移そう」
混乱しながらも、それでも心配で堪らないといった様子のライナードにそう告げれば、ライナードは高速でコクコクとうなずき、おもむろに俺の方へと近づいて……。
「おわっ!」
「俺の部屋で話そう」
なぜか、俺はライナードに抱き上げられていた。
(いや、だから、俺、男! 男の尊厳がっ、プライドがぁっ!)
本音を言えば抵抗したいところではあったものの、アメリアさんが近くで眠っている状態で騒ぐわけにもいかず、結局、俺はライナードに抱き上げられたまま客室を離れる。
「ライナード、降ろしてく「ダメだ」えっ? いや、あの……」
客室から離れたところで、俺はひとまず要望を告げたのだが、食い気味に否定されて二の句が継げなくなる。
「姉上のこともだが、それより何より、カイトのことが心配だった……」
震える声で告げるライナードに、俺は、思った以上にライナードを心配させてしまっていたのだと気づく。
「ごめん……」
「カイトは、悪くない。俺が離れるべきじゃなかったんだ」
「そんなこと……」
『そんなことない』と言おうとしたものの、アメリアさんが暴走した時、思わずライナードに助けを求めそうになっていたことを思い出して、口を閉ざす。
「着いた」
しばらく気まずい沈黙が流れた後、俺達はライナードの部屋へと到着し、お姫様抱っこから解放されて、中に入る。
「……姉上の使用人から、姉上が暴走したことは伝え聞いている。が、詳しいことはまだ知らないままだ。すまないが、教えてくれるだろうか?」
部屋に入って、椅子に腰かけたところで、それでも沈黙が続くのだろうかと不安になっていた俺は、ライナードがその話を持ち出してくれたことに安心する。そして、何があったのかをできる限り詳しく、ライナードへと話していく。
「……そうか……もしかしたら、姉上はリドルのところと……」
「リド姉?」
ライナードの言葉が小さくてあまり聞き取れはしなかったものの、リド姉の名前が出てきたことだけは分かった。リド姉は……色々とインパクトが強かったため、結構記憶に残っていた。
「いや、何でもない。カイト、すまないが、俺は緊急の仕事が入っているから、数日……いや、下手をしたら、数ヶ月、留守にする。姉上に関しては城に送って一時的に隔離という形になると思うが「隔離!?」……狂いかけた魔族は危険なんだ。恐らく、すぐにどうこうということはないだろうが、一般人とは離しておかなければ危険だ」
こんな大変な時に仕事が入るなんて、と思いはしたものの、ライナードの表情はとても辛そうで、俺はそれ以上抗議することができなくなる。
「隔離といっても、生活は保障される。外に出られないだけで、快適なはずだ」
「そっか……」
そう返事はしたものの、きっとこのままではアメリアさんは狂ってしまうのだろう。
(俺に、何かできないかな?)
アメリアさんの片翼であるフィロさんは、洗脳か魅了か、何かそういった類いの魔法にかかってしまっている可能性がある。そうなると、元凶をどうにかしない限り、アメリアさんはフィロさんを奪われたままになってしまうのではないだろうか?
魔法に関しての知識がない俺でも、そのくらいのことは分かった。
「なぁ、ライナード、俺に何か、アメリアさんのためにできることってないかな? フィロさんをアメリアさんの元に戻すために、何か……」
ライナードのお姉さんを助けたい。その一心での言葉だったが、ライナードは無情だった。
「カイトにできることはない」
そう断言するライナードは、どことなく怖い表情だ。
「カイトは、この屋敷で待っていてくれたらそれで良い。この件は、俺が何とかする」
「何とかって……」
思いの外、厳しい表情で告げられて、俺は混乱する。しかし、ライナードは話は終わったとばかりに立ち上がってしまう。
「カイト、俺が帰るまでは、屋敷から出ないでくれ」
「えっ? ライナード?」
今までそんなことを言われたことがなかった俺は、ついついライナードを呼ぶが、ライナードが応えることはなく、そのまま立ち去ってしまう。
「……俺は……」
ライナードがなぜ、あそこまで厳しく言いつけたのかは分からない。きっと、何か理由はあるのだろう。しかし、何の説明もなしに否定だけされるのは悲しかった。何の力にもなれないのがむなしかった。
「俺、は……」
そうして、俺は、ノーラ達が呼びに来るまで、ライナードが去っていった扉を見つめ続けるのだった。
「カイト!」
「しーっ」
いきなり大声を出して入ってくるものだから、俺は慌てて口の前に人差し指を立てて注意する。
「む……す、すまない?」
「アメリアさんは、今眠ってるだけで心配はいらないよ。それで、話があるなら、場所を移そう」
混乱しながらも、それでも心配で堪らないといった様子のライナードにそう告げれば、ライナードは高速でコクコクとうなずき、おもむろに俺の方へと近づいて……。
「おわっ!」
「俺の部屋で話そう」
なぜか、俺はライナードに抱き上げられていた。
(いや、だから、俺、男! 男の尊厳がっ、プライドがぁっ!)
本音を言えば抵抗したいところではあったものの、アメリアさんが近くで眠っている状態で騒ぐわけにもいかず、結局、俺はライナードに抱き上げられたまま客室を離れる。
「ライナード、降ろしてく「ダメだ」えっ? いや、あの……」
客室から離れたところで、俺はひとまず要望を告げたのだが、食い気味に否定されて二の句が継げなくなる。
「姉上のこともだが、それより何より、カイトのことが心配だった……」
震える声で告げるライナードに、俺は、思った以上にライナードを心配させてしまっていたのだと気づく。
「ごめん……」
「カイトは、悪くない。俺が離れるべきじゃなかったんだ」
「そんなこと……」
『そんなことない』と言おうとしたものの、アメリアさんが暴走した時、思わずライナードに助けを求めそうになっていたことを思い出して、口を閉ざす。
「着いた」
しばらく気まずい沈黙が流れた後、俺達はライナードの部屋へと到着し、お姫様抱っこから解放されて、中に入る。
「……姉上の使用人から、姉上が暴走したことは伝え聞いている。が、詳しいことはまだ知らないままだ。すまないが、教えてくれるだろうか?」
部屋に入って、椅子に腰かけたところで、それでも沈黙が続くのだろうかと不安になっていた俺は、ライナードがその話を持ち出してくれたことに安心する。そして、何があったのかをできる限り詳しく、ライナードへと話していく。
「……そうか……もしかしたら、姉上はリドルのところと……」
「リド姉?」
ライナードの言葉が小さくてあまり聞き取れはしなかったものの、リド姉の名前が出てきたことだけは分かった。リド姉は……色々とインパクトが強かったため、結構記憶に残っていた。
「いや、何でもない。カイト、すまないが、俺は緊急の仕事が入っているから、数日……いや、下手をしたら、数ヶ月、留守にする。姉上に関しては城に送って一時的に隔離という形になると思うが「隔離!?」……狂いかけた魔族は危険なんだ。恐らく、すぐにどうこうということはないだろうが、一般人とは離しておかなければ危険だ」
こんな大変な時に仕事が入るなんて、と思いはしたものの、ライナードの表情はとても辛そうで、俺はそれ以上抗議することができなくなる。
「隔離といっても、生活は保障される。外に出られないだけで、快適なはずだ」
「そっか……」
そう返事はしたものの、きっとこのままではアメリアさんは狂ってしまうのだろう。
(俺に、何かできないかな?)
アメリアさんの片翼であるフィロさんは、洗脳か魅了か、何かそういった類いの魔法にかかってしまっている可能性がある。そうなると、元凶をどうにかしない限り、アメリアさんはフィロさんを奪われたままになってしまうのではないだろうか?
魔法に関しての知識がない俺でも、そのくらいのことは分かった。
「なぁ、ライナード、俺に何か、アメリアさんのためにできることってないかな? フィロさんをアメリアさんの元に戻すために、何か……」
ライナードのお姉さんを助けたい。その一心での言葉だったが、ライナードは無情だった。
「カイトにできることはない」
そう断言するライナードは、どことなく怖い表情だ。
「カイトは、この屋敷で待っていてくれたらそれで良い。この件は、俺が何とかする」
「何とかって……」
思いの外、厳しい表情で告げられて、俺は混乱する。しかし、ライナードは話は終わったとばかりに立ち上がってしまう。
「カイト、俺が帰るまでは、屋敷から出ないでくれ」
「えっ? ライナード?」
今までそんなことを言われたことがなかった俺は、ついついライナードを呼ぶが、ライナードが応えることはなく、そのまま立ち去ってしまう。
「……俺は……」
ライナードがなぜ、あそこまで厳しく言いつけたのかは分からない。きっと、何か理由はあるのだろう。しかし、何の説明もなしに否定だけされるのは悲しかった。何の力にもなれないのがむなしかった。
「俺、は……」
そうして、俺は、ノーラ達が呼びに来るまで、ライナードが去っていった扉を見つめ続けるのだった。
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