俺、異世界で置き去りにされました!?

星宮歌

文字の大きさ
75 / 121
第五章 お姉様

第七十四話 三魔国会議(ジークフリート視点)

しおりを挟む
 魅了使いは、国の災厄とも言える存在だ。初めて魅了使いが確認された時は、国全体がその存在に恐怖し、怒り、そして、多くの魔族達が狂って死んでいった。


「幸い、まだ死者は出ていないと思われるが、これからどうなるのかは分からないな」

「そうだね。僕のところでも警戒はしてるんだけど、全く足取りが掴めない状態だよ」


 そう答えるのは、灰色の短髪にトパーズの瞳、真っ赤な角を持つリアン魔国魔王、ハミルトン・リアン。


「魅了使い……妾の代で、そんな者が現れるなんて……」


 藍色の髪と緑と赤のオッドアイ、藍色の角を持つミステリアスな迫力のある美女は、その見た目に反した幼い声で告げる。彼女は、ヘルジオン魔国魔王、ルーシャ・ヘルジオン。

 現在、俺はこのそれぞれの魔国を預かる二人の魔王と会談を行っていた。話題はもちろん、魅了使いに関してだ。


「現状で、魅了使いに関する情報は女らしいということしか分かっていない。居場所はもちろん、魅了を使っている目的も不明なままだ」


 そんな情報を告げれば、ハミルトンは考え込み、ルーシャは少し緊張したような面持ちになる。


(まだ幼い上、王位に就いて日が浅いせいか、あまり表情を取り繕うことはできていないようだな)


 ルーシャに対してそんな感想を抱きながら、それでもこの国難には全員が力を合わせなければならないと考える。


「魅了使いをこのまま野放しにするわけにはいかない。そして、この問題は本国のみに限ったものではないだろう」

「つまり、ジークは僕達にも力を貸してくれって言いたいんだよね?」

「わ、妾は、賛成です。魅了使いを放置すれば、妾の国とて無事でいられるか分かりません故っ」


 魅了使いの脅威を前に、ルーシャが真っ先に賛同を示す。


「ルーシャ、僕も賛成だけど、こういう時は上の魔王の意見を聞いてから流れを読むことが先だよ」

「ひぃっ、も、申し訳ありませんっ」


 ハミルトンの目が笑っていない笑顔に、ルーシャはビクッと怯える。
 ルーシャは、かつて、俺とハミルトンの二人に愛された両翼、ユーカを拐った国の魔王だ。当時はルーシャはまだ、魔王ではなかったものの、その事件をきっかけにヘルジオン魔国魔王が死に、新たにルーシャが魔王へと即位することとなったのだ。ルーシャの即位には何かと力を貸すこともあったため、ルーシャの立場は俺とハミルトンより下であり、ハミルトンはルーシャを教育する魔王でもある。
 ハミルトンの指導を眺めながら、俺はこれからの策を話す。


「今はまだ、魅了使いの件は闇魔法耐性を持つ騎士の一部にしか伝えていない。だが、このまま事態が長引くようであれば、もう少し伝える範囲を広げることも考えている」

「まぁ、無闇に多くの者に伝えれば、国が機能しなくなっちゃうから仕方ないことではあるけど……」

「国が機能しなくなる? ……はっ、片翼ですねっ」


 しばらく考えて、その答えに行き着いたルーシャは、それなりに優秀ではあるようだ。


「そう、国全体にこの話が伝わってしまえば、魅了の脅威から逃れようと、多くの片翼を持つ者が片翼を守るために囲う姿勢を取るだろう。片翼を守るための片翼休暇の制度が乱用されることになりかねない」


 事実、俺とハミルトンも、今はユーカを閉じ込めている状態だ。ユーカには闇魔法への耐性がないため、厳重な警備体制を敷いている。


「箝口令を敷いて、その上で対策を練るわけですね」


 フムフムとうなずくルーシャは、しかしそこで動きを止める。


「ですが、それでは被害が広がることになりませんか?」


 その指摘は、最もなことだった。


「確かに、片翼を守ろうと意思を固めた魔族は強い。その状態であれば、いかに魅了使いであっても、簡単には手出しできないだろう。しかし、そんな状況であればこそ、魅了使いというのは恐ろしい存在となる」

「それは、どういうことでしょう?」


 眉間にシワを寄せるルーシャに、どうやらこの説明をハミルトンが受け継いでくれるらしかった。俺と視線を交わしたハミルトンは、にっこりと笑いながら、それを話す。


「ねぇ、誰もが家に閉じ籠って、隣の家の現状が分からない状態になった時……もし、魅了使いが隣の家の者を全員魅了していたらどうなるかな?」

「っ、そ、れは……」


 知らないうちに、近くに居る者が魅了使いの餌食になる。そして、魅了された者達が数を増やし、他の者達に牙を剥けば、もう、それは泥沼の戦いとなる。


「実際、初めて魅了使いが確認された時にはそれが起こったとされている。そして、国が滅びかけたともな」


 それほどに、魅了使いは恐ろしい存在なのだ。だから、今、魅了使いと思われる存在が確認できた段階で、何としてでもそいつを捕らえなければならなかった。


「妾にできることなら、いくらでも協力いたしますっ!」

「うん、僕も協力は惜しまないよ」

「あぁ、感謝する」


 ヴァイラン魔国だけの問題ではないこの事態に、二人の魔王の協力を取りつけた俺は、すぐに闇魔法に耐性を持つ者達の派遣を要請するのだった。
しおりを挟む
感想 234

あなたにおすすめの小説

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

たいした苦悩じゃないのよね?

ぽんぽこ狸
恋愛
 シェリルは、朝の日課である魔力の奉納をおこなった。    潤沢に満ちていた魔力はあっという間に吸い出され、すっからかんになって体が酷く重たくなり、足元はふらつき気分も悪い。  それでもこれはとても重要な役目であり、体にどれだけ負担がかかろうとも唯一無二の人々を守ることができる仕事だった。  けれども婚約者であるアルバートは、体が自由に動かない苦痛もシェリルの気持ちも理解せずに、幼いころからやっているという事実を盾にして「たいしたことない癖に、大袈裟だ」と罵る。  彼の友人は、シェリルの仕事に理解を示してアルバートを窘めようとするが怒鳴り散らして聞く耳を持たない。その様子を見てやっとシェリルは彼の真意に気がついたのだった。

引きこもり少女、御子になる~お世話係は過保護な王子様~

浅海 景
恋愛
オッドアイで生まれた透花は家族から厄介者扱いをされて引きこもりの生活を送っていた。ある日、双子の姉に突き飛ばされて頭を強打するが、目を覚ましたのは見覚えのない場所だった。ハウゼンヒルト神聖国の王子であるフィルから、世界を救う御子(みこ)だと告げられた透花は自分には無理だと否定するが、御子であるかどうかを判断するために教育を受けることに。 御子至上主義なフィルは透花を大切にしてくれるが、自分が御子だと信じていない透花はフィルの優しさは一時的なものだと自分に言い聞かせる。 「きっといつかはこの人もまた自分に嫌悪し離れていくのだから」 自己肯定感ゼロの少女が過保護な王子や人との関わりによって、徐々に自分を取り戻す物語。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

3大公の姫君

ちゃこ
恋愛
多くの国が絶対君主制の中、3つの大公家が政治を担う公国が存在した。 ルベイン公国の中枢は、 ティセリウス家。 カーライル家。 エルフェ家。 この3家を筆頭に貴族院が存在し、それぞれの階級、役割に分かれていた。 この話はそんな公国で起きた珍事のお話。 7/24 完結致しました。 最後まで読んで頂きありがとうございます! サイドストーリーは一旦休憩させて頂いた後、ひっそりアップします。 ジオラルド達のその後など気になるところも多いかと思いますので…!

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜

鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。 誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。 幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。 ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。 一人の客人をもてなしたのだ。 その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。 【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。 彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。 そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。 そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。 やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。 ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、 「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。 学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。 ☆第2部完結しました☆

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

処理中です...