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第五章 お姉様
第七十五話 美少女
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「うーん、これは……よしっ、枝を使おうっ!」
隠し通路を抜けた先は、空き家の庭らしき場所だった。そこで、俺はまた硬貨を弾いて進む方向を決めようと思ったのだが……なぜか、そうすると小ぶりな木の前に出てきてしまった。
「枝ー、枝ー……よしっ、これで良いかな?」
久しぶりの外で、少し浮かれている自覚のある俺は、独り言を良いながらポキリと、一本の枝を採る。これが、今度は硬貨の代わりになるのだ。
比較的真っ直ぐに伸びているその枝を地面に対して垂直になるように立てると、俺は望みを口にする。
「俺にとって、良い方向!」
そう言った直後、枝から手を離せば、当然枝は倒れる。そう、これは、道に迷った時の運試しの定番だ。
「こっちだな」
とりあえず庭を出る方向を指し示す枝に従って俺はズンズン進む。どうにも、ここは人気のない場所のようで、俺の枝を倒しては道を決めるという奇行を目撃する人も居ない。ただただそこには、大きな洋風のお屋敷がかなりの間隔を開けながらポツリ、ポツリと建ち並ぶだけだった。
「……随分歩いてきたけど、本当に、人が居ないな……」
たまに、お屋敷で働いているらしき人の姿がチラリと見えることはあっても、彼らが俺を気にすることはない。
後から知ったことだが、ここは主に貴族達が休暇に過ごす屋敷が建ち並ぶ場所であり、普段はあまり人が寄りつかない場所だったらしい。そして、俺が隠し通路を辿って出た場所は、まさしくライナードの別荘で、緊急避難用に用意された場所だったらしい。
「さて、今度は……」
危険を冒すつもりのない俺は、ドム爺達の居場所ではなく、『俺にとって、良い方向』を目指している。もしもドム爺達が居る場所が危険であるならば、俺が行ったところてろくなことにはならない。それよりも、漠然とした『良い』という言葉で、何かドム爺達の手がかりでも見つけられれば嬉しいという感覚だった。
(そういえば……俺、置き手紙も何もしてない……)
ただ、そうやって歩いていれば、さすがに思考も落ち着いてくるというもので……俺は、今更ながら勝手に出てきてしまったことで迷惑をかけているという可能性に思い至る。
(帰る? いや、でも、せっかく出てきたんだし……)
せっかくだから、何か手がかりがほしい。その思いが先行して、俺は帰るという選択肢を塗り潰す。
「大丈夫、だよな」
きっと、大丈夫。その根拠のない自信とともに、俺はまた枝を倒そうとして……。
「――――――」
「ん?」
どこかで子供が泣くような声が聞こえた気がして、立ち止まる。
「……こっちか?」
枝を倒すことなく回収して、俺はそのまま、声がする方へと向かっていく。
「ひっく……ふ、ぅぅ……」
声を圧し殺すようにして泣くのは、恐らく女の子だ。
(多分、こっちだよな?)
大きなお屋敷の裏手に回って、木々が立ち並ぶそこをそっと覗いてみる。
(あっ……女の、人?)
声が幼かったように思えたため、子供だと思っていたのだが、そこに居たのは、十代後半くらいの見た目の女性魔族だった。萌黄色の髪に、白に近い水色の角、そして、しゃがみこんでしまっているため、良く見えないが、どうも赤い目をしているらしい女性。そんな彼女は、ピンクの可愛らしいドレスを着て、随分と辛そうに泣いていた。
「あ、あの……?」
「ひぅっ!」
さすがに泣いている女性を放ってはおけず、声をかければ、大袈裟なくらいにビクリと体を震わせ、尻餅をついて怯えられてしまう。
「あっ、えっと、怪しい者じゃなくて……いや、ごめん、十分怪しかったですね」
まさか男の口調で話すわけにもいかず、そう話しかけると、怯えながらも、女性は口を開く。
「うぅ……だぁれ?」
女性の言葉が随分と舌足らずだとは思いながらも、俺は正直に話すことにする。
「私は海斗。その、泣き声が聞こえたから、どうしたのかなと思いまして……迷惑でしたか?」
そう尋ねれば、彼女はふるふると首を横に振る。
「ニナはね、ニナってゆうのっ、ごさいだよ」
「ごさい……五歳!?」
五歳には全く見えない。自分と同じくらいだと思っていたのが、まさかの大幅に年下な年齢だと言われ、混乱する。
(あっ、いや、ちょっと待てよ? 確か、魔族って体の成長はどの種族よりも早いとか……?)
そういえば、そんな話をどこかで聞いたような気がすると思いながら、それならばと、俺は幼児に対応する態度に……。
(できるかっ!)
しようと思って諦めた。
「おねえちゃんは、ニナにこわいこと、しない?」
「怖いこと?」
「もう、つかまるの、やなのっ! おねえちゃんっ、たすけてっ!」
涙目ですがってきた美少女を前に俺はわけが分からないながらも、もしかしたら虐待でもされているのかもしれないと考える。何せ、ニナの怯えようは本物だ。しばらく考えて……俺は、ライナードに迷惑をかけてしまうことに心を痛めながらも、ニナの懇願を無下にはできなかった。
「……私と一緒に来ますか?」
「うんっ!」
そうして、結局、俺はニナを屋敷に連れ帰ってしまうのだった。
隠し通路を抜けた先は、空き家の庭らしき場所だった。そこで、俺はまた硬貨を弾いて進む方向を決めようと思ったのだが……なぜか、そうすると小ぶりな木の前に出てきてしまった。
「枝ー、枝ー……よしっ、これで良いかな?」
久しぶりの外で、少し浮かれている自覚のある俺は、独り言を良いながらポキリと、一本の枝を採る。これが、今度は硬貨の代わりになるのだ。
比較的真っ直ぐに伸びているその枝を地面に対して垂直になるように立てると、俺は望みを口にする。
「俺にとって、良い方向!」
そう言った直後、枝から手を離せば、当然枝は倒れる。そう、これは、道に迷った時の運試しの定番だ。
「こっちだな」
とりあえず庭を出る方向を指し示す枝に従って俺はズンズン進む。どうにも、ここは人気のない場所のようで、俺の枝を倒しては道を決めるという奇行を目撃する人も居ない。ただただそこには、大きな洋風のお屋敷がかなりの間隔を開けながらポツリ、ポツリと建ち並ぶだけだった。
「……随分歩いてきたけど、本当に、人が居ないな……」
たまに、お屋敷で働いているらしき人の姿がチラリと見えることはあっても、彼らが俺を気にすることはない。
後から知ったことだが、ここは主に貴族達が休暇に過ごす屋敷が建ち並ぶ場所であり、普段はあまり人が寄りつかない場所だったらしい。そして、俺が隠し通路を辿って出た場所は、まさしくライナードの別荘で、緊急避難用に用意された場所だったらしい。
「さて、今度は……」
危険を冒すつもりのない俺は、ドム爺達の居場所ではなく、『俺にとって、良い方向』を目指している。もしもドム爺達が居る場所が危険であるならば、俺が行ったところてろくなことにはならない。それよりも、漠然とした『良い』という言葉で、何かドム爺達の手がかりでも見つけられれば嬉しいという感覚だった。
(そういえば……俺、置き手紙も何もしてない……)
ただ、そうやって歩いていれば、さすがに思考も落ち着いてくるというもので……俺は、今更ながら勝手に出てきてしまったことで迷惑をかけているという可能性に思い至る。
(帰る? いや、でも、せっかく出てきたんだし……)
せっかくだから、何か手がかりがほしい。その思いが先行して、俺は帰るという選択肢を塗り潰す。
「大丈夫、だよな」
きっと、大丈夫。その根拠のない自信とともに、俺はまた枝を倒そうとして……。
「――――――」
「ん?」
どこかで子供が泣くような声が聞こえた気がして、立ち止まる。
「……こっちか?」
枝を倒すことなく回収して、俺はそのまま、声がする方へと向かっていく。
「ひっく……ふ、ぅぅ……」
声を圧し殺すようにして泣くのは、恐らく女の子だ。
(多分、こっちだよな?)
大きなお屋敷の裏手に回って、木々が立ち並ぶそこをそっと覗いてみる。
(あっ……女の、人?)
声が幼かったように思えたため、子供だと思っていたのだが、そこに居たのは、十代後半くらいの見た目の女性魔族だった。萌黄色の髪に、白に近い水色の角、そして、しゃがみこんでしまっているため、良く見えないが、どうも赤い目をしているらしい女性。そんな彼女は、ピンクの可愛らしいドレスを着て、随分と辛そうに泣いていた。
「あ、あの……?」
「ひぅっ!」
さすがに泣いている女性を放ってはおけず、声をかければ、大袈裟なくらいにビクリと体を震わせ、尻餅をついて怯えられてしまう。
「あっ、えっと、怪しい者じゃなくて……いや、ごめん、十分怪しかったですね」
まさか男の口調で話すわけにもいかず、そう話しかけると、怯えながらも、女性は口を開く。
「うぅ……だぁれ?」
女性の言葉が随分と舌足らずだとは思いながらも、俺は正直に話すことにする。
「私は海斗。その、泣き声が聞こえたから、どうしたのかなと思いまして……迷惑でしたか?」
そう尋ねれば、彼女はふるふると首を横に振る。
「ニナはね、ニナってゆうのっ、ごさいだよ」
「ごさい……五歳!?」
五歳には全く見えない。自分と同じくらいだと思っていたのが、まさかの大幅に年下な年齢だと言われ、混乱する。
(あっ、いや、ちょっと待てよ? 確か、魔族って体の成長はどの種族よりも早いとか……?)
そういえば、そんな話をどこかで聞いたような気がすると思いながら、それならばと、俺は幼児に対応する態度に……。
(できるかっ!)
しようと思って諦めた。
「おねえちゃんは、ニナにこわいこと、しない?」
「怖いこと?」
「もう、つかまるの、やなのっ! おねえちゃんっ、たすけてっ!」
涙目ですがってきた美少女を前に俺はわけが分からないながらも、もしかしたら虐待でもされているのかもしれないと考える。何せ、ニナの怯えようは本物だ。しばらく考えて……俺は、ライナードに迷惑をかけてしまうことに心を痛めながらも、ニナの懇願を無下にはできなかった。
「……私と一緒に来ますか?」
「うんっ!」
そうして、結局、俺はニナを屋敷に連れ帰ってしまうのだった。
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