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第七章 過去との決別
第百十二話 謝罪
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怖かった、怖かった、怖かった。あのリオンの様子は、俺に充分過ぎるほどの恐怖を植え付けて……ライナードが助けに来てくれたことが分かった瞬間は、安心のあまり泣き出してしまった。しかも、お姫様抱っこされても抵抗感を抱くこともなく、そのまま眠ってしまうとか……。
(うわぁぁあっ、滅茶苦茶恥ずかしいっ!)
しかし、怖かったのは事実だし、実際、今もライナードが側に居てくれないと不安で仕方ない。
いつの間にか慣れた屋敷に戻っていて、大泣きをするニナをあやしたり、リュシリーの様子を心配して尋ねると、リュシリーはおめでただったおかげで反応が鈍ったり、魔法が咄嗟に使えなかったりしたらしいということが判明して、お祝いしなくてはと張り切ることになった。……まぁ、反面、リュシリーは俺を守れなかったと落ち込んでいて、それを慰めるのに必死になったりもしたのだが……。そんなこんなで、ちょっと忙しかったが、側にはずっと、ライナードがついていてくれていた。と、いうより……。
「カイト……」
「だ、ダメか?」
誰かが訪ねてきたということで、俺の部屋から出ていこうとしたライナードの裾をガッチリと掴んだ俺は、少し前までライナードを避けていたことが嘘のようだった。今は、とにかくライナードが側に居ないと不安なのだ。できることなら、俺もライナードと同席させてほしい。
そんな思いを込めてライナードを見上げると、ライナードは嬉しそうに微笑んで俺の手を取ってくる。
「一緒に来るか?」
「!? うんっ!」
ライナードが一緒に居てくれることが嬉しくて、ついつい満面の笑みを浮かべると、ライナードはなぜかそっぽを向く。
「ライナード?」
「……大丈夫だ。少し、不意打ちだっただけだから……」
何が不意打ちだったのか不明だが、ライナードが大丈夫だと言うなら、大丈夫なのだろう。俺は、ライナードにエスコートされて、一緒に来訪者の元へと向かうことにした。
ライナードと応接室に行けば、そこには、どこかルティアスさんに似た男性魔族が居た。確か、俺がライナードに助けられた後にもこの人を見たような気がする。
「熱々なところ、申し訳ありません。事の顛末の説明に来ましたよ」
「む」
「あ、熱々……」
にっこりと笑う物腰の柔らかいその男性の言葉に、俺はライナードの腕から慌てて手を離……そうとすると、ライナードが悲しそうな顔をしたため、そのまま固まる。
「……まぁ、とりあえず話をしたいのですが、良いですか?」
「む」
「は、はいっ」
生暖かい視線に居たたまれなさを感じつつ、俺達は、彼の、ラディスと紹介されたルティアスさんのお兄さんの話を聞く。
「まず、リオン君は、私が捕らえて、とりあえず他の断罪する面々が揃うまでという条件で使用人として使っていました。それが、どこかでお二人を目撃し、タボック家の密偵に唆されてカイト嬢の誘拐を企てることとなりました」
「む。それで、タボック家はなぜ、カイトを拐おうとした?」
話の邪魔をしてはいけないと口をつぐんでいると、その話の内容に今度は言葉が出てこなくなる。
「タボック家は、以前、ご令嬢をライナードとお見合いさせたそうなのですが、ライナードが断った結果、そのご令嬢が引きこもってしまったため、ライナードを恨んで犯行に及んだと見られています」
「見合い?」
『そんなものをしただろうか?』と首をかしげるライナードに、俺は少しだけ安心する。見合いと聞いた時は、心臓が止まりそうな衝撃があったものの、ライナードが覚えていないのであれば大したことはなかったのだろう。
「……魔族の中でも五指に入る美女として有名なご令嬢なのですけどね」
(大したことあった!?)
しかし、それでもライナードは思い出せないらしく、首をかしげたままだった。
「それで、ですね。当然、そのご令嬢の関与も疑って調査したのですが、どうも、今回は父親のみの暴走であると判明しました」
「む、そうか」
「……ライナードに断られて引きこもったのに、ですか?」
口を出すまいと思っていたものの、ライナードがあまりにもあっさり引き下がったものだから、つい、尋ねてしまう。すると、ラディスさんは少し困った顔で、『そのご令嬢から伝言を預かっております』と言って小さな白い石らしきものを取り出す。そして、ラディスさんがそれに触れた途端、見知らぬ女性の声が流れ始めた。
『まずは、父の所業に関して、謝罪させていただきます。本当に、申し訳ありませんでした。
そして、父は誤解していたようですが、私はライナード様にフラれたから引きこもったわけではありません。いえ、もちろん、それを切っ掛けとして利用したのは本当ですが、私の目的は、自分の趣味に没頭するということだったのです。何せ、理想的な攻めを間近で見られた興奮と言ったら、あぁっ、もうっ、妄想が止まりませんっ……こほん、すみません、取り乱しました。
とにかく、私の行動によって、このような迷惑をおかけしてしまったこと、深く謝罪を申し上げます。
父に関しては、煮るなり焼くなり好きにしていただいて構いません。元々暴走癖の強い父は、いつか大失敗を犯すと覚悟はしておりました。ただ、巻き込まれた使用人に関しては、情状酌量を願いたいところではありますが……そこは、ライナード様の判断に委ねたいと存じます。
私に関しましては、やはりライナード様の判断次第、ということになりますが、もし、修道院送りであれば、しっかりと腐教に努めて参りますし、強制労働であっても懸命に働いてみせます。
お詫びになるかどうかは分かりませんが、いくらかの品もお贈りさせていただきます。
本当に、申し訳ありませんでした』
そんな言葉を一気に聞いて、何となく頬を引きつらせた俺は、きっと悪くないと思う。
「お詫びの品、というのも、あちらに用意してありますので、後ほど、彼女らへの罰をライナードに判断していただきたいと思います」
「む」
鷹揚にうなずいたライナードを、今は、とても頼もしく感じるのだった。
(うわぁぁあっ、滅茶苦茶恥ずかしいっ!)
しかし、怖かったのは事実だし、実際、今もライナードが側に居てくれないと不安で仕方ない。
いつの間にか慣れた屋敷に戻っていて、大泣きをするニナをあやしたり、リュシリーの様子を心配して尋ねると、リュシリーはおめでただったおかげで反応が鈍ったり、魔法が咄嗟に使えなかったりしたらしいということが判明して、お祝いしなくてはと張り切ることになった。……まぁ、反面、リュシリーは俺を守れなかったと落ち込んでいて、それを慰めるのに必死になったりもしたのだが……。そんなこんなで、ちょっと忙しかったが、側にはずっと、ライナードがついていてくれていた。と、いうより……。
「カイト……」
「だ、ダメか?」
誰かが訪ねてきたということで、俺の部屋から出ていこうとしたライナードの裾をガッチリと掴んだ俺は、少し前までライナードを避けていたことが嘘のようだった。今は、とにかくライナードが側に居ないと不安なのだ。できることなら、俺もライナードと同席させてほしい。
そんな思いを込めてライナードを見上げると、ライナードは嬉しそうに微笑んで俺の手を取ってくる。
「一緒に来るか?」
「!? うんっ!」
ライナードが一緒に居てくれることが嬉しくて、ついつい満面の笑みを浮かべると、ライナードはなぜかそっぽを向く。
「ライナード?」
「……大丈夫だ。少し、不意打ちだっただけだから……」
何が不意打ちだったのか不明だが、ライナードが大丈夫だと言うなら、大丈夫なのだろう。俺は、ライナードにエスコートされて、一緒に来訪者の元へと向かうことにした。
ライナードと応接室に行けば、そこには、どこかルティアスさんに似た男性魔族が居た。確か、俺がライナードに助けられた後にもこの人を見たような気がする。
「熱々なところ、申し訳ありません。事の顛末の説明に来ましたよ」
「む」
「あ、熱々……」
にっこりと笑う物腰の柔らかいその男性の言葉に、俺はライナードの腕から慌てて手を離……そうとすると、ライナードが悲しそうな顔をしたため、そのまま固まる。
「……まぁ、とりあえず話をしたいのですが、良いですか?」
「む」
「は、はいっ」
生暖かい視線に居たたまれなさを感じつつ、俺達は、彼の、ラディスと紹介されたルティアスさんのお兄さんの話を聞く。
「まず、リオン君は、私が捕らえて、とりあえず他の断罪する面々が揃うまでという条件で使用人として使っていました。それが、どこかでお二人を目撃し、タボック家の密偵に唆されてカイト嬢の誘拐を企てることとなりました」
「む。それで、タボック家はなぜ、カイトを拐おうとした?」
話の邪魔をしてはいけないと口をつぐんでいると、その話の内容に今度は言葉が出てこなくなる。
「タボック家は、以前、ご令嬢をライナードとお見合いさせたそうなのですが、ライナードが断った結果、そのご令嬢が引きこもってしまったため、ライナードを恨んで犯行に及んだと見られています」
「見合い?」
『そんなものをしただろうか?』と首をかしげるライナードに、俺は少しだけ安心する。見合いと聞いた時は、心臓が止まりそうな衝撃があったものの、ライナードが覚えていないのであれば大したことはなかったのだろう。
「……魔族の中でも五指に入る美女として有名なご令嬢なのですけどね」
(大したことあった!?)
しかし、それでもライナードは思い出せないらしく、首をかしげたままだった。
「それで、ですね。当然、そのご令嬢の関与も疑って調査したのですが、どうも、今回は父親のみの暴走であると判明しました」
「む、そうか」
「……ライナードに断られて引きこもったのに、ですか?」
口を出すまいと思っていたものの、ライナードがあまりにもあっさり引き下がったものだから、つい、尋ねてしまう。すると、ラディスさんは少し困った顔で、『そのご令嬢から伝言を預かっております』と言って小さな白い石らしきものを取り出す。そして、ラディスさんがそれに触れた途端、見知らぬ女性の声が流れ始めた。
『まずは、父の所業に関して、謝罪させていただきます。本当に、申し訳ありませんでした。
そして、父は誤解していたようですが、私はライナード様にフラれたから引きこもったわけではありません。いえ、もちろん、それを切っ掛けとして利用したのは本当ですが、私の目的は、自分の趣味に没頭するということだったのです。何せ、理想的な攻めを間近で見られた興奮と言ったら、あぁっ、もうっ、妄想が止まりませんっ……こほん、すみません、取り乱しました。
とにかく、私の行動によって、このような迷惑をおかけしてしまったこと、深く謝罪を申し上げます。
父に関しては、煮るなり焼くなり好きにしていただいて構いません。元々暴走癖の強い父は、いつか大失敗を犯すと覚悟はしておりました。ただ、巻き込まれた使用人に関しては、情状酌量を願いたいところではありますが……そこは、ライナード様の判断に委ねたいと存じます。
私に関しましては、やはりライナード様の判断次第、ということになりますが、もし、修道院送りであれば、しっかりと腐教に努めて参りますし、強制労働であっても懸命に働いてみせます。
お詫びになるかどうかは分かりませんが、いくらかの品もお贈りさせていただきます。
本当に、申し訳ありませんでした』
そんな言葉を一気に聞いて、何となく頬を引きつらせた俺は、きっと悪くないと思う。
「お詫びの品、というのも、あちらに用意してありますので、後ほど、彼女らへの罰をライナードに判断していただきたいと思います」
「む」
鷹揚にうなずいたライナードを、今は、とても頼もしく感じるのだった。
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