264 / 574
第四章 騒乱のカレッタ小王国
第二百六十三話 ナージャ様の旅(八)
しおりを挟む
「おーほほほっ、さぁっ、アーディス様の元へ行きますわよっ」
執務が終わり、ナージャは真っ黒なドレス姿でアーディスが待つ部屋へと向かう。供に付くのは、リリアンヌだ。
「こちらの部屋で、アーディス様がお待ちです」
しばらく歩いて辿り着いたその部屋は、応接室の一つ。しかも、上客をもてなすために造られた豪華な一室だった。
「失礼しますわ」
魔王の弟という立場のアーディスをもてなすに相応しい部屋へ、ナージャは上品に踏み込む。そして……。
「どの顔を下げて、私に会いたいなどとほざいたのかと思えば……随分と情けない顔ですわね」
対面早々に、辛辣な言葉を放つのだった。
「兄上の件、本当に申し訳なく思っています」
美貌のナージャに対するアーディスは、男にしては小柄で、可愛らしい顔立ちの男だ。角は茶色で、土魔法と親和性が高いことを示している。
「それで? 私は忙しいのです。用件は何でしょうか?」
にっこりと顔だけ微笑んで、目は笑っていないという状態で威圧するナージャに、アーディスは負けじと見返してゴクリと喉を鳴らす。
「私も、兄上の捜索に参加させていただけないでしょうか?」
真剣な表情で訴えかけるアーディス。しかし、ナージャはその様子を見ても動じた様子はない。
「おーほほほっ、これは異なことを。アーディス様がバル様を捜す? この混乱の中にあるファルシスを放っておいて、ですか?」
「っ、もちろんっ、仕事も両立しますっ。ですから、どうか、私も捜索に向かわせてくださいっ」
現在、ファルシス魔国は、魔王不在と、それに伴う腐敗した貴族の反抗で混乱に満ちていた。そんな中、魔王の婚約者であるナージャが、魔王バルディスに代わって内政を司ることで、その混乱は反乱にまでは結び付かない状態を維持していた。
正直、手は足りない。しかし、今の状況で、アーディスをバルディスの捜索に向かわせるわけにはいかなかった。
「アーディス様は勘違いをなさっておいでのようですね」
「勘違い?」
懸命に頭を働かせて、ナージャの言葉の意味を考えるアーディスに、私は早々に答えを提示する。
「そうですわ。今、アーディス様がここを離れれば、腐敗貴族の台頭を許すことになりかねません」
「そのようなことはっ」
「ない、と言いきれますか? 現在、抑止力は一つでも多くこの国に残しておかなければならない状態です。本来なら、私もここに残るべきなのでしょうが……幸いと言って良いのか、私は随分と侮られていて、抑止力足り得ません」
「……っ、ですが、私などが貴族達の抑止力になるとは到底思えません」
噛みつくように反論するアーディスに、ナージャは一つ息を吐いて、鋭く見据える。
「貴族達が見ているのは、アーディス様ご自身ではありませんわ。貴族達は、バル様を見ているのです。バル様がアーディス様を溺愛していたことは、すでに多くの者の耳に届いていますので、ね」
「っ、それ、は……」
自覚があるのか、うなだれるアーディス。しかし、ナージャは追及の手を緩めることはない。
「まぁ、バル様には到底及びませんが、それでもアーディス様がこの国に居るというだけで、皆はバル様の影をアーディス様に幻視しますわ。幸い、アーディス様が簡単に策略にはまるような未熟者という事実は伏せられておりますし、アーディス様は、ただそこに居るだけで影響を及ぼせる状態ですのよ?」
「……」
今度こそ完全に沈黙したアーディスを見て、ナージャはふっと表情を緩める。
「バル様は必ず見つけ出しますわ。少しでもバル様の痕跡があれば、貴族達も手出しはできません。ですから、安心して執務に取りかかっていてくださいませ」
「分かり、ました」
話の決着が付き、ナージャは一礼してその場を後にする。この後の予定は、バルディスの捜索だった。次は、セイクリア教国。差別が酷く、魔族にとって……いや、亜人にとって、住みにくい場所だ。
「おーほほほっ、待っていてくださいませっ。必ず、見つけ出してみせますわっ。おーほほほほほっ」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
やっぱり、ナージャ様は好きだなぁ。
アーディスの甘い部分も可愛くて良いですけど。
と、そんな感想を抱きながら、今回も『ナージャ様の旅』(旅をしてないけど)を書いております。
次回もまた、ナージャ様のお話は続きますので、よろしくお願いします。
それでは、また!
執務が終わり、ナージャは真っ黒なドレス姿でアーディスが待つ部屋へと向かう。供に付くのは、リリアンヌだ。
「こちらの部屋で、アーディス様がお待ちです」
しばらく歩いて辿り着いたその部屋は、応接室の一つ。しかも、上客をもてなすために造られた豪華な一室だった。
「失礼しますわ」
魔王の弟という立場のアーディスをもてなすに相応しい部屋へ、ナージャは上品に踏み込む。そして……。
「どの顔を下げて、私に会いたいなどとほざいたのかと思えば……随分と情けない顔ですわね」
対面早々に、辛辣な言葉を放つのだった。
「兄上の件、本当に申し訳なく思っています」
美貌のナージャに対するアーディスは、男にしては小柄で、可愛らしい顔立ちの男だ。角は茶色で、土魔法と親和性が高いことを示している。
「それで? 私は忙しいのです。用件は何でしょうか?」
にっこりと顔だけ微笑んで、目は笑っていないという状態で威圧するナージャに、アーディスは負けじと見返してゴクリと喉を鳴らす。
「私も、兄上の捜索に参加させていただけないでしょうか?」
真剣な表情で訴えかけるアーディス。しかし、ナージャはその様子を見ても動じた様子はない。
「おーほほほっ、これは異なことを。アーディス様がバル様を捜す? この混乱の中にあるファルシスを放っておいて、ですか?」
「っ、もちろんっ、仕事も両立しますっ。ですから、どうか、私も捜索に向かわせてくださいっ」
現在、ファルシス魔国は、魔王不在と、それに伴う腐敗した貴族の反抗で混乱に満ちていた。そんな中、魔王の婚約者であるナージャが、魔王バルディスに代わって内政を司ることで、その混乱は反乱にまでは結び付かない状態を維持していた。
正直、手は足りない。しかし、今の状況で、アーディスをバルディスの捜索に向かわせるわけにはいかなかった。
「アーディス様は勘違いをなさっておいでのようですね」
「勘違い?」
懸命に頭を働かせて、ナージャの言葉の意味を考えるアーディスに、私は早々に答えを提示する。
「そうですわ。今、アーディス様がここを離れれば、腐敗貴族の台頭を許すことになりかねません」
「そのようなことはっ」
「ない、と言いきれますか? 現在、抑止力は一つでも多くこの国に残しておかなければならない状態です。本来なら、私もここに残るべきなのでしょうが……幸いと言って良いのか、私は随分と侮られていて、抑止力足り得ません」
「……っ、ですが、私などが貴族達の抑止力になるとは到底思えません」
噛みつくように反論するアーディスに、ナージャは一つ息を吐いて、鋭く見据える。
「貴族達が見ているのは、アーディス様ご自身ではありませんわ。貴族達は、バル様を見ているのです。バル様がアーディス様を溺愛していたことは、すでに多くの者の耳に届いていますので、ね」
「っ、それ、は……」
自覚があるのか、うなだれるアーディス。しかし、ナージャは追及の手を緩めることはない。
「まぁ、バル様には到底及びませんが、それでもアーディス様がこの国に居るというだけで、皆はバル様の影をアーディス様に幻視しますわ。幸い、アーディス様が簡単に策略にはまるような未熟者という事実は伏せられておりますし、アーディス様は、ただそこに居るだけで影響を及ぼせる状態ですのよ?」
「……」
今度こそ完全に沈黙したアーディスを見て、ナージャはふっと表情を緩める。
「バル様は必ず見つけ出しますわ。少しでもバル様の痕跡があれば、貴族達も手出しはできません。ですから、安心して執務に取りかかっていてくださいませ」
「分かり、ました」
話の決着が付き、ナージャは一礼してその場を後にする。この後の予定は、バルディスの捜索だった。次は、セイクリア教国。差別が酷く、魔族にとって……いや、亜人にとって、住みにくい場所だ。
「おーほほほっ、待っていてくださいませっ。必ず、見つけ出してみせますわっ。おーほほほほほっ」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
やっぱり、ナージャ様は好きだなぁ。
アーディスの甘い部分も可愛くて良いですけど。
と、そんな感想を抱きながら、今回も『ナージャ様の旅』(旅をしてないけど)を書いております。
次回もまた、ナージャ様のお話は続きますので、よろしくお願いします。
それでは、また!
0
あなたにおすすめの小説
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、
同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、
追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、
清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~
松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。
異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。
「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。
だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。
牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。
やがて彼は知らされる。
その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。
金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、
戦闘より掃除が多い異世界ライフ。
──これは、汚れと戦いながら世界を救う、
笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる