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第四章 騒乱のカレッタ小王国

第四百十三話 リャンクーとの話(一)

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 リャンクーを連れてきたのは、宿屋の方だった。恐らくは、リャンクーは目覚めてすぐに『心術』を使おうとする。例えそこに族長達が居たとしても、それに気づくかどうかは分からない。そのため、まずはマギウスとロギーに宿を出てもらい、俺とラーミア、ディアムの三人だけで事情説明を行おうという作戦に出た。

 ……ちなみに、ベッドの片隅に五寸釘を前にした藁人形が震えていたのは見ないふりをしておく。誰の所業かは良く分かっているため、何も言うつもりはない。


(ケントには、宿の備品を傷つけないようにだけ言っておこう)


 そうすればきっと、外で五寸釘を使ってくれることだろう。……何にとは言わないが。


「ん……?」


 フードの取れたリャンクーは、桃色のゆるふわなヘアスタイルに、桃色の小さな角を持つ、絶世の美少女……にしか見えない男だった。念のためにその美少女にしかみえないリャンクーを縛り上げたものの、何だかいけないことをしているような気分になってしまう。『防音結界』も施して、しばらく放置していれば、リャンクーは目を覚ます。


「っ、これはっ! 『心縛しんばく』っ」


 目が覚めて、俺達の姿を確認した途端、案の定、リャンクーは『心術』の応用だと言われる魔法を行使してきた。しかし……。


「悪いが、今は黙って話を聞いてもらいたい」


 今回は、ケントに作ってもらった魔法具がある。リャンクーの魔法は効かない。


「っ、何でっ! 『心縛』『心縛』『心縛』っ!」


 全く堪えた様子を見せない俺達に、リャンクーは目に見えて焦る。その様子をしばらく黙って眺め、とうとう俺達に魔法が効かないと分かったらしいリャンクーは、真っ青になる。


「……まぁ、手荒な真似をしたことは謝る。すまなかった」

「っ、わ、私は男だっ! お、お前達の慰みものになるつもりはないからなっ!」


 小動物のようにプルプルと震え出したリャンクーは、何やら盛大な誤解をしている。そして、ラーミアからのじと目が降ってくる。


「バルあなた……」

「そんなことするわけないだろうっ!」


 からかっているだけだとは分かっていても、俺の男としての尊厳のために、これだけは言っておかなければならないとばかりに叫ぶ。


「バル、大丈夫。俺、理解、ある」

「お前もかっ、ディアムっ!」


 部下二人に裏切られてうちひしがれる俺を前に、リャンクーは『えっ? 女の声? えっ? 慰みもの目的じゃなかったのか? そ、それとも、そういうプレイとか……』と、またしても変な誤解を進めていく。
 この場の混乱が収まったのは、それから十分ほどが経ってからのことだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


たまにはバルディスをからかってみようということで、今回はバルディスが餌食になりました。

バルディスの立ち位置は、何となく苦労人かなぁと思いながら……。

それでは、また!
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