我輩は紳士である(猫なのに、異世界召喚されたのだが)

星宮歌

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第五章 ルビーナ商国とボスティア海国の闇

第五百四十七話 飛び込むナージャ様

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 ディアムと交代で宿屋に戻った俺は……心臓が止まるかと思うくらいに驚いた。


「バル様ぁっ!」


 ギュウゥッと俺に抱きついてくるのは、ファルシス魔国で安全な場所に居るはずのナージャ。俺の、大切な婚約者だ。


「ナージャ……なぜ、ここに……?」

「もちろん、バル様を捜してですわっ。ご無事で良かった……」


 目を潤ませてそう告げるナージャに、俺は慌てる。


「な、泣くなっ、俺が、悪かったからっ」

「泣いてなど、おりませんわ。それよりバル様、ナージャはバル様の腕に帰ってきたのです。何かないのですか?」

「な、何かって……」


 美しい紫紺の瞳に見つめられて、俺は心臓がバクバクと鳴るのを懸命になだめようとして……。


「バル様?」


 こてん、と首をかしげたナージャを前に、断念した。


「っ……心配かけて、すまなかった」


 そう言いながら、恐る恐る抱き締める腕に力を込めると、それが正解だと言わんばかりにナージャは明るく微笑む。


「……あー、ごほんっ、そろそろこちらに気づいてほしいのだが?」

「目に毒だね」


 突然かけられたマギウスでもロギーでもない声に、慌ててナージャを離して視線を上げれば、そこにはケントとケルトの二人がニヤニヤしながらこちらを見ていた。


「にゃ? (うむ?)」


 ちなみに、タロはケントの膝の上でくつろぐことに夢中で、何も気づいていなかったらしい。


「うっ……すまない」

「いや、婚約者といちゃつきたいのは分かるが、時と場所を考えてほしいのだ」

「本当に、すまない」


 完全にからかわれていることを理解しながらも、俺は謝る以外のことができなかった。そして、ケント達がカレッタ小王国でナージャと出会ったこと。協力して内情を整えた後、急いでルビーナ商国に向かったこと。俺達がボスティア海国に向かったと知って今日、ボスティア海国に辿り着いたことなどを聞き、明後日、タロとともに巨大魚の元へ向かうつもりだとのことまで聞く。


「ありがたい。あの巨大魚は、さすがにケントがいなければどうすることもできなかったからな」

「うむ、任せるのだ。タロとケルトの二人と一緒に、巨大魚を狩ってくるのだ」

「そ、そうか……ん? ケルトも?」


 勇者は、ケントとタロだけのはずで、ケルトに瘴気の耐性があるなんて聞いていない。


「ケルトは私の半身なのだ。瘴気に耐性があるのは当然のことなのだ」


 ……どうやら、邪神に対抗する戦力がまた一つ、増えていたらしい。


「バル様。私は、バル様についていきますわ」

「あぁ、頼む」


 にっこりと笑う魅惑の婚約者に、俺はつい、そんな言葉を返してしまうのだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


案外、バルディスとナージャ様は両想いでした。

さぁ、そろそろ、事態を動かしたいところですねっ。

それでは、また!
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