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第一章 アルトルム王国の病
第十一話 行き倒れとおつかい
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これからの方針を決めた我輩は、すぐさま行動を開始した。茶色に黒縞模様の同胞、リリに案内してもらい、変わった匂いの人族の元まで歩く。
ちなみに、リリはとても元気なレディであり、あの真っ赤なボス猫が必死にアプローチしたいと思っている相手だと知ったのは、集会所を出る前のボスの言葉でよくよく理解した。
曰く、『リリに手ぇ出したら、ただじゃおかねぇ』らしい。
両脇に控えていた桃色の同胞達が、珍しく復唱せずに震えていたのは、もしかしたら一度、リリに手を出そうとした同胞を見たからか、自身が手を出そうとしたのかのどちらかだと思う。どちらにせよ、あんなに鬼気迫る顔をするボスを前に、そのようなことをするなど、命知らずとしか言えない。ただ、ボスにはそのヘタレっぷりを先にどうにかすべきだと助言はしておいた。アプローチしたいと思っているだけでどうにかなるほど、この猫社会は甘くないのだ。
「にゃにゃ? にゃー(ほら、あそこに黒いのがいるでしょ? あれが、お目当ての人族よ)」
考え事をしている間に、我輩は変わった匂いの人族の元へと辿り着く。その者は、数メートル先の小道で、完全に行き倒れており、ともすれば死んでいるのではないかと思ってしまうほどピクリとも動かない。
「にゃ(それじゃあ、私は帰るわね)」
「にゃあ(案内、感謝するのだ)」
リリの後ろ姿を見送った我輩は、とりあえず行き倒れた者の近くへと歩く。そして、改めて観察してみると、その者は、確かに変わった匂いがしていた。どこか鼻につんとくる……そう、確か、ミントガムとやらを噛んだ飼い主が、こんな匂いをさせていた気がする。その者が羽織る真っ黒なローブは、所々破れていて、かなり汚い。うつ伏せに転がっているせいで顔は見えないものの、匂いからして、この者は男であろう。
そこまでの情報を得て、我輩、早速行動に出ることとする。
「にゃあっ(起きるのだっ)」
ゲシゲシと、男の体を前足で軽く叩く。
飼い主は、これで起きる時とそうでない時があり、もし起きなかった時は、そのお腹や背中にダイブしていたものだ。
もし、この者も起きなければ、きっとそうした起こし方がベストなのだ。お腹や背中にダイブすると、飼い主は決まって、妙な声を上げて起きてくれたのだ。
「ん……う?」
中々起きない男の様子に、そろそろダイブを敢行しようかと思ったところで、ようやく声が聞こえる。
むむぅ、なんだか艶っぽい声なのだ。
男にしては高めの声で、その者は呻き、モゾモゾと動く。
「にゃ? (大丈夫であろうか?)」
モゾモゾと動きはするものの、あまり力が入らない様子で、起き上がることがいっぱいいっぱいに見える。それでもどうにかこうにか壁にもたれて座り込んだ男は、一仕事終えたばかりのように疲れきった様子だった。そして……。
グギュルギュルルルルゥ。
「にゃっ!? にゃあっ? (な、何事なのだっ!? て、敵かっ?)」
凄まじい音が間近で響き、我輩、久々に取り乱す。
…………いや、木登りで取り乱したことは、ノーカウントなのだ。
そんなことを考えながら、辺りを警戒し、音の正体を考えていると、それは、男本人の口から教えられた。
「腹、減った」
「に、にゃあ(そ、そうか、今の音は、お腹の音であったか)」
先程の凄まじい音がただの空腹を知らせる音だったのだと気づき、我輩はホッとする。ここまで大きな音をさせることがあるなど、我輩は知らなかったのだが、世界が違えばそういうこともあるのだろう。
「……猫?」
「にゃー。にゃ(む、そうなのだ。はじめましてなのだ)」
ぼんやりとした様子の男は、どうやら今まで我輩のことに気づいていなかったらしく、我輩をマジマジと観察してくるので、とりあえず挨拶のみ行っておく。
……じゅるり。
「ふしゃーっ! (わ、我輩は食べても美味しくないのだっ!)」
どこか狂気を宿し、涎をすすったような音を出す男に、我輩は命の危機を感じ、すかさず距離をとって吠える。
「あっ、悪い。あまりにも腹が減ってたから」
正直に言おう。この男、怖いのだっ。
しかし、我輩はそもそも病に関する情報を集めるためにここに来たのだから、このまま帰るわけにもいかない。
か、覚悟を決めるのだっ。我輩っ。
「なぁ、ちょっと頼まれてくれないか?」
情報を引き出すため、どうしようかとたたらを踏んでいた我輩は、思いがけない男の言葉に、一瞬、硬直してしまう。
「俺の仲間を、ここに連れてきてほしい。……そしたら、食べないから」
「にゃっ!? (何をっ!?)」
「分かってるくせに。……聞きたいのか?」
「にゃあにゃっ。にゃ。にゃっ(き、聞きたくないのだっ。分かったのだ。貴殿の仲間を捜してくるのだっ)」
「よろしく。多分、俺みたいに黒ずくめの格好だから」
「にゃっ(り、了解したのだっ)」
男の恐ろしい脅しに、我輩、ちょっと震えながら、了承したのだ。そもそも、脅されなくとも、困っている様子ではあるのだから、紳士として、見捨てるという選択肢はなかったのだが…………とにかくこの恐ろしい男の頼みを聞くことが先決なのだ。
「にゃあにゃあ。にゃー(貴殿はここで待っていてほしいのだ。必ず、連れてくるのだ)」
「よろしくな」
頼まれた我輩は、即座に行動を開始する。あらかじめ、他の黒い人族に関しては、一応見掛けた場所のいくつかは教えてもらっているため、どこかで同胞に案内してもらえれば何とかなるはずだ。とりあえずは、まだ集会所に誰か残っているかもしれない。まずは、集会所へと戻るのが良いだろう。
我輩は、駆け足で集会所までの道を戻っていく。そうして、集会所へと戻ると、少し時間が遅かったのか、そこには、見知った同胞が一匹居るのみだった。
「にゃ? にゃあ? (師匠? そんなに急いでどうしたんですか?)」
「にゃ…にゃあにゃあ? (チャーか…少し、案内役をお願いしたいのだが、今、良いだろうか?)」
「にゃふっ。にゃあっ(もちろんですっ、師匠。俺、この街には詳しいんですよっ)」
猫には猫の、猫なりの生活がある。そのため、いくらチャーと顔見知りだったとしても、案内役を頼める可能性は低いと踏んでいた我輩は、快く引き受けてくれたチャーに感動を覚える。
「にゃー(あ、ありがとうなのだっ)」
「にゃーにゃっ(俺は師匠に助けられたんですから、このくらい当然ですっ)」
エッヘンと胸を反らすチャーに、我輩はもう一度感謝を伝え、二人組の方の、変わった匂いの人族を捜すことにしたことを伝える。
「にゃ。にゃー(分かりました。俺、心当たりがあるんで、そこに行きますねっ)」
弾むような声でそう教えてくれたチャーに、我輩、とっても心強いものを感じながら口を開く。
「にゃあ(よろしく頼むのだ)」
ちなみに、リリはとても元気なレディであり、あの真っ赤なボス猫が必死にアプローチしたいと思っている相手だと知ったのは、集会所を出る前のボスの言葉でよくよく理解した。
曰く、『リリに手ぇ出したら、ただじゃおかねぇ』らしい。
両脇に控えていた桃色の同胞達が、珍しく復唱せずに震えていたのは、もしかしたら一度、リリに手を出そうとした同胞を見たからか、自身が手を出そうとしたのかのどちらかだと思う。どちらにせよ、あんなに鬼気迫る顔をするボスを前に、そのようなことをするなど、命知らずとしか言えない。ただ、ボスにはそのヘタレっぷりを先にどうにかすべきだと助言はしておいた。アプローチしたいと思っているだけでどうにかなるほど、この猫社会は甘くないのだ。
「にゃにゃ? にゃー(ほら、あそこに黒いのがいるでしょ? あれが、お目当ての人族よ)」
考え事をしている間に、我輩は変わった匂いの人族の元へと辿り着く。その者は、数メートル先の小道で、完全に行き倒れており、ともすれば死んでいるのではないかと思ってしまうほどピクリとも動かない。
「にゃ(それじゃあ、私は帰るわね)」
「にゃあ(案内、感謝するのだ)」
リリの後ろ姿を見送った我輩は、とりあえず行き倒れた者の近くへと歩く。そして、改めて観察してみると、その者は、確かに変わった匂いがしていた。どこか鼻につんとくる……そう、確か、ミントガムとやらを噛んだ飼い主が、こんな匂いをさせていた気がする。その者が羽織る真っ黒なローブは、所々破れていて、かなり汚い。うつ伏せに転がっているせいで顔は見えないものの、匂いからして、この者は男であろう。
そこまでの情報を得て、我輩、早速行動に出ることとする。
「にゃあっ(起きるのだっ)」
ゲシゲシと、男の体を前足で軽く叩く。
飼い主は、これで起きる時とそうでない時があり、もし起きなかった時は、そのお腹や背中にダイブしていたものだ。
もし、この者も起きなければ、きっとそうした起こし方がベストなのだ。お腹や背中にダイブすると、飼い主は決まって、妙な声を上げて起きてくれたのだ。
「ん……う?」
中々起きない男の様子に、そろそろダイブを敢行しようかと思ったところで、ようやく声が聞こえる。
むむぅ、なんだか艶っぽい声なのだ。
男にしては高めの声で、その者は呻き、モゾモゾと動く。
「にゃ? (大丈夫であろうか?)」
モゾモゾと動きはするものの、あまり力が入らない様子で、起き上がることがいっぱいいっぱいに見える。それでもどうにかこうにか壁にもたれて座り込んだ男は、一仕事終えたばかりのように疲れきった様子だった。そして……。
グギュルギュルルルルゥ。
「にゃっ!? にゃあっ? (な、何事なのだっ!? て、敵かっ?)」
凄まじい音が間近で響き、我輩、久々に取り乱す。
…………いや、木登りで取り乱したことは、ノーカウントなのだ。
そんなことを考えながら、辺りを警戒し、音の正体を考えていると、それは、男本人の口から教えられた。
「腹、減った」
「に、にゃあ(そ、そうか、今の音は、お腹の音であったか)」
先程の凄まじい音がただの空腹を知らせる音だったのだと気づき、我輩はホッとする。ここまで大きな音をさせることがあるなど、我輩は知らなかったのだが、世界が違えばそういうこともあるのだろう。
「……猫?」
「にゃー。にゃ(む、そうなのだ。はじめましてなのだ)」
ぼんやりとした様子の男は、どうやら今まで我輩のことに気づいていなかったらしく、我輩をマジマジと観察してくるので、とりあえず挨拶のみ行っておく。
……じゅるり。
「ふしゃーっ! (わ、我輩は食べても美味しくないのだっ!)」
どこか狂気を宿し、涎をすすったような音を出す男に、我輩は命の危機を感じ、すかさず距離をとって吠える。
「あっ、悪い。あまりにも腹が減ってたから」
正直に言おう。この男、怖いのだっ。
しかし、我輩はそもそも病に関する情報を集めるためにここに来たのだから、このまま帰るわけにもいかない。
か、覚悟を決めるのだっ。我輩っ。
「なぁ、ちょっと頼まれてくれないか?」
情報を引き出すため、どうしようかとたたらを踏んでいた我輩は、思いがけない男の言葉に、一瞬、硬直してしまう。
「俺の仲間を、ここに連れてきてほしい。……そしたら、食べないから」
「にゃっ!? (何をっ!?)」
「分かってるくせに。……聞きたいのか?」
「にゃあにゃっ。にゃ。にゃっ(き、聞きたくないのだっ。分かったのだ。貴殿の仲間を捜してくるのだっ)」
「よろしく。多分、俺みたいに黒ずくめの格好だから」
「にゃっ(り、了解したのだっ)」
男の恐ろしい脅しに、我輩、ちょっと震えながら、了承したのだ。そもそも、脅されなくとも、困っている様子ではあるのだから、紳士として、見捨てるという選択肢はなかったのだが…………とにかくこの恐ろしい男の頼みを聞くことが先決なのだ。
「にゃあにゃあ。にゃー(貴殿はここで待っていてほしいのだ。必ず、連れてくるのだ)」
「よろしくな」
頼まれた我輩は、即座に行動を開始する。あらかじめ、他の黒い人族に関しては、一応見掛けた場所のいくつかは教えてもらっているため、どこかで同胞に案内してもらえれば何とかなるはずだ。とりあえずは、まだ集会所に誰か残っているかもしれない。まずは、集会所へと戻るのが良いだろう。
我輩は、駆け足で集会所までの道を戻っていく。そうして、集会所へと戻ると、少し時間が遅かったのか、そこには、見知った同胞が一匹居るのみだった。
「にゃ? にゃあ? (師匠? そんなに急いでどうしたんですか?)」
「にゃ…にゃあにゃあ? (チャーか…少し、案内役をお願いしたいのだが、今、良いだろうか?)」
「にゃふっ。にゃあっ(もちろんですっ、師匠。俺、この街には詳しいんですよっ)」
猫には猫の、猫なりの生活がある。そのため、いくらチャーと顔見知りだったとしても、案内役を頼める可能性は低いと踏んでいた我輩は、快く引き受けてくれたチャーに感動を覚える。
「にゃー(あ、ありがとうなのだっ)」
「にゃーにゃっ(俺は師匠に助けられたんですから、このくらい当然ですっ)」
エッヘンと胸を反らすチャーに、我輩はもう一度感謝を伝え、二人組の方の、変わった匂いの人族を捜すことにしたことを伝える。
「にゃ。にゃー(分かりました。俺、心当たりがあるんで、そこに行きますねっ)」
弾むような声でそう教えてくれたチャーに、我輩、とっても心強いものを感じながら口を開く。
「にゃあ(よろしく頼むのだ)」
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