我輩は紳士である(猫なのに、異世界召喚されたのだが)

星宮歌

文字の大きさ
45 / 574
第一章 アルトルム王国の病

第四十四話 終わらない病(三)

しおりを挟む
「にゃあっ。にゃあっ(大変なのだっ。大変なのだっ)」


 宿屋に戻った我輩は、そこにバルディスが居ることを確認して叫ぶ。

 我輩、人間のことを良く知っているわけではないが、親殺しというものが普通ではありえないことくらい知っている。心優しいレディが、唆されてそれを行おうとすることが異常なことくらい理解できる。

 だから我輩は、それに何らかの対処法を見出だしてくれそうなバルディスを頼る。


「タロ? 帰ってきた?」

「随分と騒がしいですね」


 バルディスに事の次第を話そうとすると、ディアムがひょっこりと顔を出す。そして、その後ろにラーミアの姿も見えた。どうやら、ディアム達の情報収集の方は終わったらしい。


「にゃーにゃにゃっ(いや、それより、バルディスっ、我輩、大変なことを聞いたのだっ)」

「分かったから落ち着け。ゆっくり話してみろ」


 そう言われて、我輩、紳士としての冷静さを失っていたことに気づく。どうやら、我輩、まだまだ未熟のようだ。

 『少しタロの話を聞くから、待っててくれ』とラーミア達に告げたバルディスは、落ち着きを取り戻した我輩を抱え上げ、椅子に座らせてくれる。そうして、我輩は、先程聞いた内容をバルディスに告げたのだった。


「……その女性の名前は分かるか?」


 一通りのことをバルディスに告げると、バルディスは難しい顔で我輩に尋ねる。


「にゃあにゃー(確か、サリアーシャ・フォン・アルトルムという名前だったのだ)」


 長ったらしい名前ではあるものの、大切なレディの名前を間違えることは我輩の矜持が許さない。名前に間違いはないはずだった。

 名前を聞いた途端、バルディスは少しだけ思案し、そのまま真っ青になっていく。


「……まずいぞ、これは」


 そして、通訳を待つラーミア達にせっつかれ、バルディスは、簡単に我輩の聞いた情報を説明する。


「……敵に魔族が居ることを考えれば、のんびりはしていられませんね」


 しかし、今度は我輩、バルディス達の考えが読めずに困惑する。そして、その困惑をそのままに、バルディス達は話を進めてしまう。


「なら、今日中にそっちを何とかして、タロの件も介入しなければならないな」

「えぇ、そうですわね。方法は……まだ考え付きませんが」

「……俺が、ナイフ、盗むのは?」

「あぁ、それは良いかもな。だが、根本を解決しないことにはどうにもならないだろうし……」

「……にゃあ(……我輩にも分かるように話してほしいのだ)」


 あんまりにも無視が続いて、我輩、堪らず口を出す。ただ、それに対して返ってきたのは、バルディスの困ったような表情だった。


「……タロ。お前が知る必要はない」

「にゃっにゃ? (なっ、どういう意味なのだ?)」

「文字通りだ。これ以上は危険だ。だから、お前はここで大人しくしていろ」


 それは、バルディス達が前もって決めていた、必要以上にタロを巻き込まないための言葉だったのだが、我輩が、それを知るわけもない。


「……ふしゃー? (……ここにきて、仲間外れというわけか?)」


 我輩、知らず知らずのうちに低い声で対応する。


「……そもそも、俺達は仲間だったわけでもない。お前は、お前でのんびりしていればいいだろう?」


 バルディス達は、我輩にこれ以上、踏み入らせたくないらしい。バルディス達は、勝手に行動をするらしい。

 それが分かってしまえば、我輩、これ以上バルディス達を引き留めようとは思わない。バルディスの言うように、我輩は、仲間ではないようだから。


「にゃお。にゃー(分かったのだ。我輩は好きにさせてもらうのだ)」


 そう言って、我輩、裏切られたような気分になりながらも、サッと宿屋を後にするのだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


ホッ、どうにか、二話投稿できました!

しかも、割りと文章量が多い状態で。

良かった良かった。

……ちょこっと、タロとバルディスの仲は険悪になっちゃってますけどね。

さぁ、どうなることやら(ち、ちゃんとプロットは作ってますよ? 嘘じゃないですからねっ)

とりあえず、次は明日の更新になります。

それでは、また!
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

おばちゃんダイバーは浅い層で頑張ります

きむらきむこ
ファンタジー
ダンジョンができて十年。年金の足しにダンジョンに通ってます。田中優子61歳

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...